第44話 オムツ
夕方、家へ帰る道すがら、伯母から連絡があり、紙オムツを買ってきてほしいと言われたので、彼は途中スーパーに寄った。今度の震災の影響で生理用品の商品棚はほとんどが空になっていた。紙オムツも例外ではなく、二四着入り祖母の身体に合うサイズのものは殆ど買われてしまっていて、三軒回ったのち一袋しか見当たらなかった。
家へ帰ると伯母がこの間と同じようにご飯の支度を終わらせて家にいた。幸助は伯母に紙オムツを渡して、買い回ってきた話をした。
「みんな馬鹿みたいね。こんなこと一時的な事なのに」
伯母は尤もな事だけを言った。
祖母はその話を聞いて、
「へえ」
と言っただけだった。
祖母はこの頃疲れているのか、話をするのも嫌になっているみたいだった。
「だけど紙オムツって高いね、二四着で三千四百円もするんだね」
伯母は、ん? と首を傾げてから
「でもこれがないと大変よ?」
「そりゃ、家には面倒見られる人がいないからね」
「お父さんもいないしね」
「親父なんか、いてもやりゃあしないでしょう。人に触るのも嫌なぐらい潔癖症なんだから」
「フフフ、あの人も神経質な人だからね。昔はあんなんじゃなくて、もっとおっとりしてたんだけどね」
「信じられないね、おっとりなんて」
「今のアンタに良く似てるわよ」
「嫌だねえ、それは。俺も親父みたいになるのかよ」
「それはどうだか分からないけど」
伯母は祖母にご飯を食べさせ終わると荷物をまとめ出した。
「じゃあお風呂、お願いね。それから今日お医者に連絡して今朝の話をしてみたら、明後日の午前にまた来て下さいっていう話になったから、アンタ時間があったら来てちょうだい」
「ああ良いよ。明後日午前なら空いてるから」
「じゃあ、お願いね」
「うん」
それから昨晩と同じように祖母に夕ご飯を食べさせ、トイレに連れて行き、風呂に入れ、就寝するまでを手伝った。
翌々日、医者から受けた話では、時間の感覚は習慣から逸してしまったために狂っているのだろうと言う事になって、睡眠導入剤を処方してもらった。然し、それでも祖母は催す度に置きあがっては転倒し、顔や頭に大きな巨峰みたいな痣を作った。後日、又医者を訪ねた時に聞いた話では、人の欲求の中で排便、排尿の生理的なものは幾ら睡眠導入剤を飲ませても凄まじい物があって、目が覚めてしまうのだと言う。
「お祖母さんは意志の強い方ですね。普通尿意があってもあきらめて起きあがったりはしないんだけれども。」
医者も薬を出すだけして、説明が後付けなのだと思うところもあった。然し祖母が異な人であったのだろう、伯母も幸助も仕方ないのだと思う他なかった。




