第34話 父との会話
夜中、幸助が家に帰ると、父が納戸にいて、着替えていた。幸助はそこで父とはち合わせた。
「あれをどうするつもりだ」
孝道は自分の部屋でまるで大きな小言を言うように凄惨な言葉を言い続けている。
その頃の父は夜、仕事から帰ればその話ばかりだった。
「それを俺に聞くの――。それは俺がどうする問題じゃないでしょう。ああなったのは、俺の所為じゃないんだから」
幸助も毎晩高校と予備校を行き来する中でそんな慰めにもならない話を聞かされて苛立っていた。
「あんなの、どうにもならないじゃねえか——」
「どうにもならないって言ったって、しっかりやってないのはアナタたちでしょう。だいたい昔から孝道が俺のことを避けてきたんだから、いまさら俺が何言うなんてこと、出来ないね」
「お前は冷たい奴だ。――あんな夜中まで起きて叫んでたら近所迷惑じゃねえか」
「そういう問題じゃないでしょう」
「そういう問題だ」
父はどこか考えているところがずれているのである。幸助にはそうとしか思えなかった。いつものように粗暴な形で言うセリフとしては最もくだらない言葉だ。孝道の問題を近所迷惑だからと言う理由で解決できる訳がないのは分かっているはずである。
「孝道を黙らせるのはそうだけど、そう言っても分からないんだから意味無いでしょう。それにアンタがそうやって怒ったところで、余計に喚くだけじゃない? アンタがそうやって怒ってばかりいたらなんにもならないよ」
「俺が悪いって言うのか? アイツをああしたのは母親だろう。毎月毎月、勝手に通帳の金渡して」
「それは知らないね。結局俺がしている事ではないんだし、その場しのぎでやっているんでしょう。母親とそう言う話をしないで、俺にこんな話したってどうにも出来ないね」
「母親が当てになると思うか? 俺が孝道に言ってきたことだって、全部否定して甘やかしてばかり来たんだぞ」
「どうせ怒りながらそう言うこと言ってたんでしょう?」
「馬鹿か」
父はおそらく母親にそう言ったのだろう。
「――もう、こんなことばかり言ってても何にもならないね、意味もないよ」
「何? どうしようもねえ奴らだ、アイツもお前も。あんな事してたらそこらじゅうから白い目で見られるんだぞ」
父は本当に孝道のことを考えているのだろうかと思った。そして、何の非もない幸助がどうしてこの時やり玉に挙げられなければならなかったのか。その苛立ちが幸助のボルテージをさらに上げて、彼は抑えようのない怒りを口にするほかなった。
「明日があるのに、毎晩毎晩そんな話して、自分でどうにもできないんだったら、何で子供なんて作ったんだよ。そんなに世間体が気になるの? 孝道をどうにかしなきゃいけないのに、そこを問題にしてたってどうしようもないだろ――。今まで孝道自身のことを放っておいてああなったんだから、アンタらの育て方が間違いだったんだよ。そんなに周りばかり気になるんだったら、もう殺せよ。その方が早いよ。」
「馬鹿、黙れ。アイツに聞こえるだろう」
「関係ねえよ。先寝るから、黙ってくれよ」




