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けむりの家  作者: 三毛猫
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第22話 親友

 あの面談のあとから特に泉からの嫌がらせはなくなった。泉は代わりに須野に嫌がらせをするようになっていた。彼はどうせ対象が移るだけなのだということはわかっていた。泉は須野の服をゴミ箱に放ったり、傘をへし折ったりして、須野の困るのを楽しんでいるようだった。幸助はそういう関係でやっていくような仲がわからなった。泉は弱い者いじめをしたいだけの人間で、須野も榎も自分の弱さを認めたくないために泉とつるんでいるに過ぎなかった。けれど岡山はどうして泉のような奴といるのかわからなかった。と言うより岡山は泉を楽しんでいたのかも知れなかった。泉のナリを見ているのが楽しいのだろう。――友達つきあいというよりただの遊びだ。

 彼は思いっきりボールを投げた。パコンとボールが校舎の壁にはじけて響いて鳴った。

「幸助!」

 幸助を呼んだのは溝口だった。

 彼は自分のいたクラスに張り合いがなかったから、別の組で友人を作っていた。溝口とは2年の秋、文化祭の片付けの時に知り合った。

「幸助、授業はどうした?」

「お前はどうした?」

 幸助はボールを拾った。

 この学校で彼が口を利いたのはこの溝口と、数人だった。

 その日はちょうど三時限目をぬけ出してこの校舎裏来ていた。ここは体育館へ行く通路から行ける。そしてこの場所はちょうど校舎に窓が少ない所為で、どこからも死角になっているところだった。見えるとすれば実験室や情報室のある別棟へ渡る通路からである。傍には炉があり、夕暮れ時はここでゴミを燃やしたりしている。幸助は時々溝口と同じ時間にぬけ出すように口を合わせて、授業を抜けてはここに来ていた。彼は度々自分の組の憤懣を漏らすためにここにいた。溝口もそれは同様だった。幸助は溝口の家に良く遊びに行った。彼は学校から近い場所に住んでいて、授業が終わり、部活がなければ度々溝口の家で遊んだ。彼はギターが弾けたし、映画好きだった。溝口の家に行けば幸助は、彼のギターを聞いた。映画を見て、あとは学校での話をした。けれど幸助は、この日まで溝口に自分の家の話をしたことはなかった。

「昨日、面談だったんだってな――」

「ああ、でもどうせ泉たちは野放しだろうよ」

「ほっとけ、下らないんだから」

「ああ、な」

「なんだよ。暗いぞ」

「うちの親、離婚するって言ってるんだ」

「――そうか。それはでも、俺がどうこう言える話じゃない、な……」

 家の外で、友人に家のことを話してもあてにはならなかった。そして幸助が嫌がらせを受けていたことを家族は知らなかった。彼はそんなことを話すつもりもなかった。母親はそのころ仕事を始めた。父が家にいても孝道といがみ合っているだけでよくないと言って仕事をすすめたのだ。そのためなのかはわからないが、父と母親が離婚するという話は時間の中でいつの間にか消え去っていた。

 しかし幸助は母親が仕事をするということには反対だった。

「あの人に仕事をすすめて、家のことはどうするの?」

「夕食の時間までには帰れるような仕事にするってよ。――駄目なんだよ、どうしても、孝道と一緒にいると気が狂うんだから」

 父はそんなことをいっているけれど、幸助は、母親は家にいる方がまともなような気がしていた。それは、家から出ると母親は本当に何もしなくなるのではないかと思えたからであった。母親が仕事をはじめると、彼は家事を手伝うようになった。孝道はいつも通り自分のことだけをしたし、競馬場に行ったり、母親を責めて金のむしんをするばかりだ。父も休日は母親を手伝った。というよりも、母親は家事を何もしなくなったのだ。掃除や洗濯をすれば孝道に罵声を浴びせられ、するにもできなかった。掃除はおろそかになったが、洗濯は幸助がしていれば孝道は何も言わなかったし、母親がどうにかできたのは料理ぐらいで、その料理も孝道にとっては「食えない物を作って食卓に並べるくらいしか能がないなら、さっさと母親を辞めたらどうだ」という具合だった。


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