第13話 教師
孝道のいた中学の担任も校長もそれからのうのうとその学校に勤務したというが、幸助はそのことがいちばん納得いかなかった。校長は定年で直ぐに職を辞したと言う話を聞いていたけれども、あの時の担任の教師はそのまま職に就いている。そんな人間が積極的に嫌がらせをしていたと言う話は、今になっても信じられなかった。
「それでもその後の事は、アイツ自身の問題だった訳でしょう?」
幸助は自分で作り替えた牛肉の野菜炒めをほおばりながらそう言ったが、祖母は目を細めて頷いて、こう言い返してきた。
「だけどそれがなかったら孝ちゃん、しっかりしていたのよ」
彼は祖母のその言葉を素直に受け入れていなかった。幼いころからの記憶をたどれば、ただのひいき目でしかないようにも思われたし、孝道は孝道で悪いのだと幸助は思っていた。
中学で孝道は、幼いころからやっていた野球を楽しんでいたはずだ。しかし全く外に出なくなる前、孝道は部活に行かなくなっていた。と言うより部活に行くことは禁じられていた。放課後は母親が彼を部屋に閉じ込めた。孝道の野球の用具やら、ユニフォームまでどこかへ隠してしまった。そのことで孝道と母親はしょっちゅう喧嘩をしていた。けれどもそのことが直接の原因で孝道が外に出なくなったという訳でもなかった。幸助はその時どういう訳かを聞かされなかったからわからなかったし、母親には心配しなくていいように言われていたから、彼は自分のことに集中して放っておいた。もともと孝道は、幸助にとってはあまり興味のない人物だった。興味を持とうとしても、幼少の時からからそれは拒まれたのだから――。幸助はこのころの家のことはほとんどわからなかった。
幸助は孝道とは違って、親戚には蔑まれて育っていたから、家族も親戚も疎ましかった。殊に孝道と比較されてばかりで、ほとんどが幸助への蔑みの話だった。親戚が孝道の話をするたびに彼は気分を害さなければならなかったし、孝道自身も、彼を罵り、蔑んだ。だから幸助は孝道が中学に行かなくなったことを「何をいつも偉そうに言っていたやつが学校に行かないんだ」と罵った。




