<前編>
この物語は……私の大好きな作品へのオマージュです!(#^.^#)
「ん!ぅあぁ!イクう~!!」
このAIで合成された私の声を私の肢体(もちろん裸なぞ見せた事はないが!!)を模したアニメにあてて作られた卑猥な動画がネットに流れ、私は『声優』と『マンガのアシスタント』の二つのお仕事を失った。
出所は判っている。
私が初めて“準主役……ヒロインの親友”を演じたアニメの制作会社のスタッフだ。
確かに私の事を推してくれたこのスタッフと何回かデートみたいな事をした。
それだけでなく、この作品の収録中に私一人をアフレコブースへ置いて、彼から“演技指導”の名目で色んな声でお芝居をさせられた。
放映されたアニメは好評の内に終了したけど……
その打ち上げが引けた後、私はこの男からホテルに誘われた。
高校を卒業するまでは“お姫様”で……声優の専門学校はマンガのアシのお仕事との両立だった私は、もちろん男の人とお付き合いなんて、まるで無く……こう言った事にはまったくの無防備だった。
私がずっと思い描いていた男女のお付き合いと“現実”はまるで違っていて……その事は『仕事の代償にカラダを求められた』以上に私の心を傷付け、私を『夢の世界』から追い出した。
でも、故郷には戻りたくなかった。
ワガママな姉で、妹には本当に申し訳なかったけれど……今更ながら普通のアルバイトを始めた。
ファミレスなどの接客業はなかなか上手くできず、辿り着いた先は『うーぱーミーツ』の出前宅配のアルバイト。
私は長い髪をバッサリ切ってパーカーを羽織り、男の子の声を作って自転車を漕ぎ出した。
◇◇◇◇◇◇
母は……まるで孝夫の命と引き換えの様に自分の命を捧げ天に召された。
それから父とオレで乳飲み子の孝夫と小学校へ上がったばかりの綾を育てて来た。
その父も……オレが大学二年の時にこの世を去った。
父が遺してくれたのは僅かな貯金と……結果的にローンが完済となったこの家だ。
もちろん大学は辞めたが……幼い二人を抱えては満足に仕事にも出れないオレは、ようやく芽が出始めたマンガ家と言う仕事に縋るしかなかった。
もっともそれは少女マンガだったけど……妹や弟の為にも“エロマンガ”よりは遥かにマシだった。
とは言っても、月刊誌とたまに読み切りの細々した状況ではアシを雇うどころかアシのバイトをしに行く立場で……それでもこの先が心許ないので“スキマバイト”をやっている有り様だ。
この二日は冷凍食品の倉庫で荷役のバイトをしていて……日当は良かったのだが、随分と疲れてしまった。
ひょっとしたら風邪かもしれないが、そろそろ原稿にペン入れをしなければ締め切りが……
◇◇◇◇◇◇
「私だってもう4年生だよ!料理だってできるよ!」ってお兄にねじ込んでも「5年生になって家庭科で教えてもらったらやっていい」って返される!
「だったらばんごはんもカップラーメンでいいよ」って言うと「綾も孝夫も育ち盛りなんだから栄養をとらなきゃダメだ!」と、また返される!!
お兄はいつもそうだ!
自分の事はぜんぜん後回しで私や孝夫の事ばっかり!!
でも、お兄、今日はぐあいが悪そうだから……
お兄の言う通り『うーぱーミーツ』で出前を取ろう!
そしたらお兄も栄養のあるものを食べられるから!
◇◇◇◇◇◇
「ちわ~!『うーぱーミーツ』で~す!」
ちょっと不安になる位の間が合って若い男性がドアを開けた。
「お待たせして申し訳ございません」とマジックテープのお財布からお金を出した男の人の……手に付いたインクの拭い跡とその雰囲気から『同業者かも?』とも思ったが、それにしてもこの顔色は……ご病気なのかもしれない。
心配しながらもドアを閉め、ため息をついて自転車へ戻ったらドアが開いて女の子が飛び出して来た。
「お兄さん!助けて!!」
私は自転車を放り出して女の子の後に従った。
◇◇◇◇◇◇
「いいからオレに掴まって!!」
きっと“火事場の馬鹿力”という物なのだろう。
私は倒れていた彼を抱きかかえ、よろめきながらも女の子が敷いてくれた布団へと運んだ。
彼自身は小刻みに震えているのに体はとても熱いから風邪に違いない。
心配そうに覗き込んでいる女の子を振り返り
「お兄さんの着替えとタオルを」とお願いし、もちろん若い男の人の裸なんて初めて見たのだけど……『オレは男だ!』と心の中で自分に言い聞かせながら粛々と清拭し、着替えさせた。
女の子の後ろに小さな男の子が震えているが見えて、私は思わず泣きそうになる。
「ちょっと待っててね。オレ、ポカリ持ってるから取って来るよ」
このまま置いて帰るなんてできなかった。
ポカリを女の子に手渡したオレ……いや、私はドラッグストアへ向かって自転車を走らせた。
<後編>へ続く
後編は明日、書きます。
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