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プロローグの墓場

アシェンプテルの義姉

作者: 調彩雨

※導入のみ存在する未完作品です

 母を亡くし、父を亡くし、後妻とその連れ子二人に召使いとして使われる子どもがおりました。


 日の光など知らぬような白い肌、燃え尽きた灰のような白銀の髪、銀の瞳。

 手入れがされず荒れて行くその姿を揶揄して、後妻と連れ子たちは、子どもを灰かぶり(アシェンプテル)と呼びました。




 世界でいちばん美しいと思うものがある。


 木漏れ日を紡いだような淡く輝く薄金の髪、日に透かした若葉のような金緑の瞳、ミルク色の肌に、薔薇色の頬と唇。神に愛されたとしか思えぬ完璧な造形。


 ひと目見て、こんなにも美しい存在がいて良いのかと我が目を疑ったし、今でも見るたび、幻だろうかと目を疑ってしまう。


「あなたにしか頼めないのよ、お願い、アシェンプテル」


 まあ、その、この世のものとは思えぬほどに美しい存在とは、今、目の前で手を組んでこちらを見詰めている義姉なのだけれど。


 ひとに頼みごとをするのに灰かぶり(アシェンプテル)呼ばわりはどうなのかと思わなくもないけれど、つやつやぷるぷるの唇に呼ばわれれば、どんな名前だろうと光栄の極みに感じてしまう。

 義姉このひとは、この奇跡の容姿に生んでくれた両親に、もっと感謝した方が良いと思う。この顔があれば、大抵のことは押し通せるはずだ。


 実際、今だって、自分は彼女の飛んでもないお願いに頷きそうになっているし。


「そうは言われても……」

「衣装も装飾もお化粧もわたしが用意するし、馬車も手配してあげるから!ね、お願い、アシェンプテル、お願いよ」


 わざと少し背を屈めて上目遣いで見て来る辺り、自分の顔面の使い道をよくわかっている。


「そんなに嫌なら、行かなければ良いのに」

「王族からの召集を断れると思って?名指しで招待状が来たのに?」

「全員に名指しで送っているとかは?」

「姉さんには来てないのに?」


 目の前の世界でいちばん美しいものは下の義姉。上の義姉も美しいが今目の前でこちらを見詰めている下の義姉ほどではない。義母である後妻もそこまで美しいとは思わないから、彼女は父親に似たのかもしれない。


 この義姉ならば、父親は妖精だとか天使だとか言われても、驚きはない。むしろ納得してしまいそうだ。


「全国民に送っている招待状は、王宮で舞踏会を行うから、年頃の未婚の娘がいるならば参加しなさいと言う文言よ。名指しで送られているのは伯爵家以上の貴族だけ。うちは男爵家で、わたしは貴族の血なんて引いていないのに、どうして名指しなんてされたのかしら」


 義姉の美しさは、広く噂されている。求婚も絶えない。王宮に噂が伝わって、ぜひ見たいと思われてもおかしくはないだろう。


「……王子さまは無理でも、貴族にでも見初められれば、今より良い暮らしが出来るよ」

「良い暮らし、なんて」


 義姉は飛んでもないと言いたげに首を振った。


「良い暮らしが出来るのには理由があるのよ。対価には義務と責任が伴うの。貴族になってその義務と責任を追うなんて嫌。王族なんて、もっての他だわ。だから」


 アシェンプテル、と、声まで美しいそのひとは、目の前の自分を呼ばう。


「ね、お願い、わたしなんて印象に残らなくなるように、あなたが会場の注目を集めてちょうだい」

「そんなこと言われても」


 義姉は自分を美人だと褒める。そう語る義姉の方がよほど美人だと言うのに。


 それに、王子の妃を探すための舞踏会、なんて。


「心配しなくても、舞踏会なんて形だけで、良いところのお嬢さまがちゃんと候補で用意されているよ。貴族の子弟も分相応な婚約者があてがわれているはず。ロージィが心配しなくても、侯爵家以上の家からロージィを第一婦人になんてお声は、掛かりっこないよ。受けている教育が違うんだから」


 義母は三代続けて叙爵を受けた騎士爵の娘だ。一代限りの爵位である騎士爵であるので、娘であっても義母は貴族ではない。義母の死んだ夫は豪商の三男だったそうで、貴族でない父母の娘である義姉は、当然ながら貴族ではない。

 男爵の爵位を持つ父と、子爵家の末娘である母を両親に持つ自分の方が、血筋的には義姉より高貴なのだ。


 そして階級と言うものは、見えない壁として立ちはだかるもので。


 こんなにも美しい義姉なのに、押し寄せる求婚のほとんどは家を継げない次男以下からのものか、隠居当主の後添いや、正妻のいる貴族から妾にと望む声だ。


 だからたとえ王宮の舞踏会に出たとしても、義姉が心配するような求婚の声など、掛かりっこない、はず、なのだ。


 義姉を前にするとそうとも断言しにくいのが、頭の痛い話なのだが。


 正妃にとは言われない。それは確かだ。

 けれど王族が義姉を気に入れば、公妾に、とは言われるかもしれない。


「ほんとうにそう思っている?」


 そんな迷いを見透かして、義姉は疑いの目を向けて来る。答えられなかった自分に義姉はため息を吐き、首を振った。


「姉さんのお化粧はわたしがするの。とことん貴族受けが良いようにするわ。姉さんは貴族と結婚したいみたいだから。わたしの方は、勘違いした田舎娘に見えるようにするつもり。でも、それだけじゃ心配だから、アシェンプテルにも手伝って欲しいの」


 手荒れを知らない義姉の手が、荒れてカサついた手を握る。


「お願いよ、アシェンプテル」

「う、で、でも、無理があるよ」


 手を握られて揺らぐ心を、必死に繋ぎ止める。


 無理なものは無理だ。いくら、世界でいちばん好きな相手の頼みでも。


 だって。


「俺は、男、なんだから」


 これは、アシェンプテルと呼ばれる、少年と、その義姉の物語。

未完のお話をお読み頂きありがとうございます


続きどこ?と一番思っているのはたぶん作者です

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