彼女が彼と別れた理由

「理恵子、真田先輩と別れたんですって？　頭も顔も良く、その上スポーツ抜群の先輩なのに……」

「うん、そうなんだけどね。でも付き合ってみたら、生理的に耐えられない部分があったの」

「生理的に耐えられない……？」

「そう！　彼ったら、食べ方が酷いの！　ぐちゃぐちゃにしちゃうのよ！」

「ああ、カレーライス問題みたいなやつ？　カレーとご飯をぐちゃぐちゃに混ぜて食べるのは行儀が悪いし見た目も汚らしい、みたいな……」

「カレーライスも混ぜるのはNGって言われてるのに、混ぜて食べる人も時々いるわよね。でも真田さんの場合カレーライスだけじゃなくて、せっかく作ったオムライスとか……」

「それは酷い！　だって理恵子のオムライスって、あれでしょ？　薄く焼いた卵で巻いたり包んだりするんじゃなくて、ふわふわとろとろの半熟卵を乗せてるタイプ。あれをぐちゃぐちゃにされたら、せっかくのふわとろ卵がダメになっちゃう！　予熱で卵が固まっちゃう！」

「何よ、その説明的な長ゼリフ。そんな理屈じゃなくて気分の問題よ。それに真田さんったら、オムライスどころかハンバーグまでぐちゃぐちゃにするの！　横に添えたニンジンとブロッコリーをわざわざナイフで刻んで、ハンバーグに混ぜ込んだのよ！」

「何それ。ぐちゃぐちゃの挽肉を塊にして焼いたのがハンバーグなのに、それじゃ分解してるみたい。理解・分解・再構築ってやつ？　野菜入りハンバーグに作り直してる感じね」

「そう、そうなのよ！　野菜入りハンバーグがいいなら、最初からリクエストしてくれたら作ったのに……」

「そういえば理恵子、その前の彼氏と別れたのも食べ方が原因だっけ。くちゃくちゃ食べるのが耐えられない、みたいな……。『くちゃくちゃ』の次が『ぐちゃぐちゃ』なら、次の彼氏とは何が理由で別れるのかしら？」

「嫌なこと言わないで。今度は別れずに済むような、ずっと付き合える人を探すわ」