多分、迷コンビ
また怪物が出没したらしい。テレビはすべてニュースに切り替わってしまった。せっかくの日曜なのに騒々しい。
テレビに映っていたのは最寄駅の東口だった。見慣れた景色に思わず「あっ」と声が出る。怪物はいつどこで出没するかわからない。出没地が近所のことも少なくない。
「今回のも大きい…」
今回出没した怪物は熊に似ている。普通の熊でも恐ろしいのに、怪物だからさらに大きく恐ろしさが段違いだ。こんなに大きいのに、突然現れるなんて不思議だ。
「現在、K駅付近で怪物が発生しています。近隣にお住まいの方は避難してください」
最寄りとはいっても駅からすごく近いわけではない。避難する必要はないと思うけど…
「あれ、あの子確か…」
今さっき息子はルーズリーフを買いに行くと言って出て行った。息子が文房具を買いそうな場所は二つある。一つ目は昔ながらの文具店。これは駅と反対方面にあるから心配ない。だが、もう一つは…
「最近駅前にホームセンターができたんだ。文房具も安くてたくさんあるから便利なんだよね」
数週間前に娘が言っていた言葉を思い出した。駅前、となるとよくない。きっと彼は怪物がでたことを知らないはずだ。このままでは危ない。
まだそんな遠くまで行ってないだろう。走れば間に合う? いや怪しい。高校生の体力と脚力は侮れない。自転車の鍵を持って私は家を飛び出した。
「ここなら人がいないにゃん! 早く変身しろにゃん!」
いっぺーに急かされる。
「にゃんにゃんうるせぇよ。ていうか前から思ってたけど防犯カメラとかは大丈夫なん?」
「ハッキング済みだにゃん。今頃ダミーの映像が流れてるにゃん」
こいつら怖い。見た目と語尾に反して普通に怖い。敵に回したくないな…
「わかった」
変身は何回やっても慣れない。まず見た目が変わる。変わる、と言っても実際には変化していない。特殊なホログラムを体に投影することで別人のように見せているだけだそうだ。だから俺は見た目こそ美少女になっているけど実際に体が変わっているわけではない。大事だからもう一回。体が変わっているわけではない。なんでそんなシステムを作ったのかと尋ねると、「はずがしがり屋さんが多いからにゃん」と返されたが、間違いなくそれ以外の理由もあると俺は踏んでいる。
身体能力の向上もある。普段より力がみなぎるのを感じる。これで運動会でれば圧勝じゃね?と思ったがその場合見た目の変化もセットだと言われてしまい諦めた。
そして、変身による一番の恩恵は「魔法」だ。妖精たちの技術の結晶である魔法は、魔法少女たちの切り札。一人一人違う独自性に溢れたものを使う。俺の場合は「時間停止」魔法だ。三秒間だけ周囲の時間を止め自分だけが動ける。なかなか強力な魔法だと最初は思っていたが、一度使うと一日はエネルギー不足とやらで使えないし、意外と不便だ。
「へーんしーん」
いっぺーから渡された懐中時計を握りしめる。
「変身システム起動シマス」
時計がまばゆい光を放ち、自分の姿が変わっていく。確かに姉に似ているかもしれない。いや、姉より可愛い。
「完了にゃん。敵はあっちにゃん」
いっぺーの後を追う。巨大な熊が見えてきた。
「今回もでっけーな…」
「グルル…」あ、気付かれた。
「グアアア」熊がすごい勢いで腕を振り下ろしてくる。あっぶね。ギリギリで避けることに成功した。
「一つ一つの攻撃力は高そうにゃんが、モーションが遅いから避ければ大丈夫にゃん…この前のボス戦よりましにゃん」
「いっぺー、これゲームじゃないから。リアルだから。そんな攻略法みたいな言い方やめて」
「とっとと倒せにゃん! いっぺーは五時からみたいアニメがあるにゃん!」
「しらねぇよそんなん」
おっと。そんな言い合いしているうちにまた熊が攻撃してきた。
「お前のせいで当たるところだっただろうがこのネコモドキ」
「うるせーにゃんこのおたんこなす! 口じゃなくて手ぇ動かせやにゃん!」
おたんこなすって初めて言われた。
主人公の名前を実はまだ決めてません。