#記念日にショートショートをNo.56『私の幸せな休日』(My Happy Holiday)
2021/2/23(火)天皇誕生日 公開
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【関連作品】
「天皇の恋人」シリーズ
休日は、一生懸命働いた平日の疲れを癒すために身体を休める日だ。
しかし、皇室では違う。
国民の休日であろうと、天皇は日常のルーティンを崩してはいけない。
2×××年、ここ数十年の傾向として、崩御に伴う天皇交代制と男性限定制は廃れ、前々代,前代,そして当代と、天皇は女性だ。➖しかも皆20代と若い。
天皇の若年層化と男女両用化の傾向は、非常に称賛されるべきであると思う。しかし、その反面、皇室のルールがより一層厳しくなった。
朝は5時に起床,朝食と軽くランニングを済ませたら皇居の掃除,午前8時からは勉学または研究に励み、正午までは頭をフル回転させる。昼食を挟み、午後は乗馬や弓道,ピアノや舞踊等の武芸の稽古。夕食後は公務をこなし、寝台に辿り着けるのは早くても午後11時だ。これを毎日、平日休日にかかわりなく、行わなくてはならない。
そんな天皇だが、年に一度、公序良俗に反しない限り、自由に過ごすことが出来る日が与えられる。
国民の祝日となる日、それは天皇誕生日だ。
第×××代天皇の私は、誕生日の今日の朝早く、サングラスを掛け鍔の広い女優帽を被り変装をして、何百人もの召し使いに見送られて皇居を出た。
目貫き通りを駆け抜け、色とりどりの街並みを耳に感じていく。
メインストリートから脇道に一本逸れ、〝Close〟と札の掛かったアンティーク調の店構えの骨董品店「京家ましろ庵」に入る。
カラン、というドアベルのあと、商品の青磁の壺を磨いていた長身痩躯の男性が振り返った。
「すみません今日はお休み……あ、灯さん。」
「もう、何度同じ言葉を言うのよ。お休みの日にお客さんなんか来るわけないじゃない。」
店のドアをきちんと閉めながらそう言うと、澄善さんが恥ずかしそうに眉を横に伸ばした。
「灯さんが来ることは分かっているんですけどね、ベルの音が鳴ると、つい。」
澄善さんが私の方へ歩いて来、ドアの鍵を閉める。ガードマンも無しに天皇である私が外出していることが国民に知られてはいけないからだ。
女優帽とサングラスを取り、澄善さんの顔を見上げる。お互いを見つめ合いながらこの一年間に想いを馳せ、口付けを交わす。
ややあって身体を離し、言葉を交わす。
「真面に会えるのは年に一度、今日だけですからね。お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう。」
澄善さんがカウンター裏に入る。席に腰掛けて、彼の仕草を眺める。
やがて、湯気がほどよく立ったコーヒーを澄善さんが淹れてくれた。
ありがとう、とお礼を言い、それを口へ運ぶ。
「それで…」
澄善さんが長く細い指を組んで私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫そうなんですか、婚約の件は。」
私、灯は現在22歳、大学4年生だ。あと1か月ほどで、大学を卒業する。
「大丈夫な訳ないじゃない。お父様もお母様も、みんな、苦い顔をしているわよ。」
16歳の時初めて澄善さんと出逢ってから、2年もの月日をかけ、秘密裏にではあったが、何とか交際は認めてもらうことが出来た。しかし、婚姻は皇族間でしか認められておらず、一般人との婚姻はもってのほかだ。大学を卒業するまでに、澄善さんとの関係を断つようにと言われている。
「どうしたら良いんでしょうね……。」
澄善さんが左手で眉間を揉む。カウンターに置かれた澄善さんの右手を両手で包む。
「私のこと、愛してる?」
澄善さんが私の両手に左手を添えた。
「もちろん、愛しています。」
その言葉に、澄善さんの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「難しいことだということは分かっている。それでも、私は澄善さんと生きていきたいの。」
「4月1日の夜、エスケープするから。だから、」
視線がぶつかる。
「迎えに来て。」
【登場人物】
○桜宮 灯(さくらみや あかり/Akari Sakuramiya)
●京家 澄善(きょうや すみよし/Sumiyoshi Kyouya)
【バックグラウンドイメージ】
①タイトルについて
○顎木 あくみ 氏作/『わたしの幸せな結婚』から
②設定・ストーリーについて
○ウィリアム・ワイラー 監督作品/『ローマの休日』(Roman Holiday)から
③「京家ましろ庵」について
○望月 麻衣 氏作/『京都寺町三条のホームズ』シリーズの主人公・家頭 清貴とヒロイン・真城 葵から
・「京家」:京都の「京」+家頭の「家」
・「ましろ」:真城の読み
【補足】
◎年齢・時間経過について
○灯16歳・澄善22歳:出会い
○灯18歳・澄善24歳:交際承認
○灯22歳・澄善28歳:交際を断つように要請されている(現在)
【原案誕生時期】
公開時