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夕陽と薫  作者: 理春
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第三十四話

年が明けてからは、冬休みを一層に満喫しつくした。

お互いが行きたいと思える時に初詣を済ませて、一緒に健康と安全を祈り、夕陽の実家にお伺いして、生まれて初めて家族でおせち料理を食べた。

こんな風に過ごすことが初めてだと言うと、夕陽のご両親は嬉しそうにあれもこれもと食べ物を勧めてくれた。

まだまだ体は成長するんだからたくさん食べなさいと、気遣ってくれるのが嬉しかった。

二人での暮らしぶりを話して、これからはこうしていきたいなんて希望も口にしつつ、見守って支えてくれる二人に感謝した。

それから数日後に、夕陽と大学に向かい単位と進級のことについて相談した。

どうやら二人とも問題ない単位数は取得済みのようで、進級には問題ないとのことだった。

ただ必修だけは行けるなら取っておいた方がいいかもしれないと言われた。

その日の帰り道、俺も夕陽も悩みながら帰路に就いた。


「どうなんだろうな~・・・んでもフランス語の講義とかな~・・・俺さして役に立たない必修いらないと思うんだよなぁ・・・。でも親が金払って通わせてくれてるわけだしさぁ・・・。」


「そうだね。・・・俺は自分のペースで考えようとは思うけど・・・。夕陽は取っておきたい必修はちゃんと行ってもいいんじゃないかな。」


「・・・俺がいなくて家にいるの嫌だろ?」


二人でトボトボ歩きながら、夕陽は俯いて言った。


「そりゃ寂しいけど・・・フランス語もきっと役に立つよ。」


「・・・ふ・・・なんで?」


「アメリカだけじゃなく、同性婚はフランスでも認められてるから。」


俺がそう言うと、夕陽はパッと顔を上げて途端に目の色を変えた。


「そうか・・・確かに。フランスに永住っていう手もあるのかぁ。よし、薫の具合を考えつつ講義受けることは前向きに検討しとこ。」


「ふふ・・・現金だなぁ。」


ニヤニヤと笑みを返す夕陽と歩幅を合わせて、それからも日々を過ごしていった。

半月程経った頃、明日が最後のファミレスでのバイトだという夕陽に、俺は一つお願いをした。


「あのさ・・・夕陽」


「ん~?」


二人で寄り添ってテレビを観ながら、頭を彼の肩に乗せつつ問いかけた。


「明日バイト最後でしょ?俺の都合で辞めさせることになって、こんなこと頼むのもあれなんだけど・・・最後に夕陽がウエイターしてる姿見たいから・・・その、明日の夕飯・・・ファミレスに食べに行ってもいい?」


夕陽はキョトンとした顔からみるみるいつもの優しい笑顔になった。


「いいよ?つか・・・別に断り入れなくてもいつでも来ていいんだよ。」


「え・・・そう?じゃあもっと会いに行けばよかったな・・・気が散るだろうなと思って遠慮してたからさ。」


「ん~・・・店広いからそこまで気が散るってこともないと思うけどなぁ。ま、とにかく・・・来たいならいいよ。」


「やった・・・」


胸の中がじんわり楽しみな気持ちが広がっていく。

そしてまたパッと心の中が切り替わる感覚を覚える。


「えへへ・・・夕陽のウエイターさんカッコイイんだろうな~!早く見たい!俺の彼氏なんだって自慢したくなるほどカッコイイんだろうな~!」


「んな大袈裟な・・・普通だよ。・・・高津先輩みたいなイケメンならまだしも・・・。てか先輩ってバイトとかしてんのかな。」


「・・・・・・・・・咲夜は・・・確か元々はカフェと塾講のバイト二つしてたけど、今は塾講だけだって言ってたような・・・」


「へぇ、そうなんだ。薫は本屋以外になんかバイトしてた?」


「俺は・・・昔はコンビニで働いたり、後は~・・・スーパーとか」


「そうなんだ。・・・・・・そか・・・・」


夕陽はニンマリしたまままたテレビに視線を戻した。


「なにニヤニヤしてるの?」


「え~・・・?ふふ・・・カフェとかウエイターとか、店の制服を薫が着たら可愛いんだろうなぁって、妄想してただけ~♪」


恥ずかしくなりながら彼をジトっと見つめ返すと、夕陽は俺をぎゅっと抱きしめた。


「へへ・・・あ~絶対可愛いだろうな・・・。そりゃモノによっては男らしくてカッコイイかもしれないけど・・・俺からしたら薫はず~っと可愛いからさぁ・・・ごめんな?可愛いって言われるの嫌?」


「・・・いやってわけじゃないけど・・・ちょっと気恥ずかしいというか・・・。そんなこと言うんだったら、明日俺がウエイターの夕陽を堪能してニヤニヤしてても、何も言わないでよね。」


むくれたように言うと、彼は声を上げて笑った。


「はは!別にいいよ~?もっと俺のこと好きになってくれるなら嬉しいし、薫が俺に夢中になってくれるなら本望だな~。」


終始デレデレしながら受け答えをする夕陽に、最近釣られてデレデレしてしまう自分が居て、何だか付き合い始めてから少しずつカップルらしく、落ち着いた雰囲気はそのままに、お互いを必要としているという心地いい関係が成り立ってきていた。

安定しない心が暴走して、外で彼に迷惑をかけないようにと思いながらも、そんな気を張りすぎている俺のことを理解している夕陽は、無理に抑え込まなくていいし、俺が側に居る時は何も怖がらなくていいと、何度も声をかけてくれた。

余計なことは言わなくていいと、勝手に決めつけて話さなかった癖も少しずつ治して、他愛ない気持ちも彼に吐露するようになり、今年初めて受診した精神科でも、いつもより落ち着いて先生の話を聞けるようになっていた。

なかなか姿を見せなくなった人格もいたり、夕陽の寝込みを襲ってしまったことなども話したけど、先生は夕陽が居てくれるなら、そこまで深刻に考える必要もないと安心させてくれた。

そして念のためと、抗不安剤を処方してくれた。

それをベッドの棚に、二人が起き抜けに飲む水と共に置いておくことにした。


そして翌日


「いってらっしゃい。」


昼過ぎに最後のバイトに出勤する夕陽を、玄関で見送る。


「ああ、行ってくる。・・・一応さ、来る前にメッセだけして?」


「うん、わかった。」


ぐるぐるにいつものマフラーを巻いた夕陽が、そっと俺の前で屈むので少し背伸びしてキスした。


「えへ~・・・♡行ってくるよ~。待ってるからな~♡」


いそいそと家を出る夕陽の背中に手を振って、戸締りをした後、さて・・・と家事に取り掛かった。

まとめて作り置きのおかずを冷凍したり冷蔵した後、早めにお風呂を洗う。

水回りの掃除と掃除機をかけた後、フローリングを雑巾がけした。

一通り掃除を済ませて、いざ参考書を手に取った。


今日は少し試験勉強をしてみよう。

それから・・・美咲さんちにお手伝いに行き始める日程も決まったし、改めて頭をに入れておくことを復習しておこう。


正月に夕陽のおうちに帰省した際、元助産師であるお母さんからたくさん助言をいただいた。

二人してメモを取りながら最低限心得ておくことを決めて、参考になる本まで貸してもらった。

時間がある時にそれを読み込み、二人で気になった事は調べながら、美咲さんからメールで送ってもらった詳しい仕事内容と、時間配分を照らし合わせて、綿密に仕事の役割分担を計画した。

万全を期してお手伝いに向かいたかった。

聞けば一族の使用人の中で、晶さんのことを幼少期から世話していた人たちはおれど、そのほとんどは若い女性だったため、皆が嫁入りして近くに住んでいる人がなかなかいないのだとか。

唯一肉親同然で側使いをしていた人も、本家を出た後に亡くなってしまったのだと、以前お会いしたとき晶さんは少し寂しそうに語っていた。

深入りしたり詮索してはいけないことは多いと思うけど、出来れば晶さんとも美咲さんとも、俺が役に立つために色んな話を聞きたいと思っている。

そして同時に色んなことを尋ねられたとしても、俺は何も包み隠すことなく二人に話すつもりでいた。

それは咲夜の肉親であるからという、深い信頼があってのことだ。


何にせよ、それほど準備を重ねたいのは、新しい関わりを持つということが楽しみだから。

相変わらず気分があっちこっちに行きやすいのはまだ治っていないけど、調べたいことは調べ尽くして、しっかりノートにまとめた。


「よし・・・今夜また夕陽とこれを見直そう。」


独り言をこぼしながらふと時計を見ると、まだ15時半だった。

美咲さんは手伝いに向かう前日に、また注意点や留意点を連絡すると言っていた。

夕陽には掃除や力仕事を主にお願いするらしく、俺は無理なく途中で休憩を入れることを条件とされた。


当日のことを考えながらまたキッチンに立って、紅茶を淹れながらソワソワしだしてしまう。


ダメだ、自分が落ち着かなくなった時、自分で落ち着きを取り戻せるようにしなくちゃ・・・。

大きく深呼吸しながら、紅茶の茶葉がぐるぐる回るのを眺めた。

カップを持ってテーブルについて、一口紅茶を飲んでその香りに安らぎを感じても、若干ソワソワが残っていたので、俺はスマホを開いて夕陽にメッセージを綴った。

状況説明というか、他愛もない考えを連ねて、すぐに既読がついたことを確認する。

緊急時のためにすぐに俺のメッセージを確認しているようだけど、休憩時間でないなら返事はこない。

けれど読んでくれたということに安心を覚えて、また一口紅茶をすする。


そうだ、どうせ服を選ぶのにすごく時間をかけてしまうから、今から何を着ていくか考えよう。


夕陽が働いている様子を見れることに、またワクワクを取り戻しながら、俺は姿見の前でファッションショーを始めた。


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