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夕陽と薫  作者: 理春
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第二十七話

二人で座っていた俺の隣に晶さんは同じく腰かけてきて、ワクワクを抑えきれないという様子で、俺たち二人を眺めていた。


「えっと・・・馴れ初めと言われてもその・・・出会ったのは大学で・・・同じ学部だったので・・・」


「そうなんだね!そういえば法学部で弁護士目指してるって美咲くんから聞いてたわ。朝野くんもそうなの?」


「いえ・・・俺は薫程頭よくないんで・・・。まぁ安定した企業に就職出来ればなぁって考えてるくらいですかね。」


「そうなのねぇ。それでそれで!どっちから告白したのかな!」


両のこぶしを小刻みに振りながら、まるで少女のように盛り上がっている様は、何とも可愛らしいけど・・・あれかな・・・特別恋バナが好きなのかな。


「告白は・・・俺からですね。」


「そうなんだねぇ!!え、え、柊くんのどういうところが好き?」


「晶、あまり質問攻めにするもんじゃないぞ・・・。聞きたい気持ちはわかるけど、初対面なわけだし・・・」


「はっ!そうよね!ごめんね!」


俺たちが何でもない笑みを返すと、美咲さんは飲み終わった俺たちのカップを下げた。


「ついつい聞きたくなっちゃって・・・。私ね、微笑ましい恋バナ聞くの大好きだし・・・それが異性カップルであっても、同性カップルであっても・・・。もちろん咲夜くんと小夜香ちゃんの話もたくさん聞くのよ!でもやっぱりなんていうか・・・その・・・最近はね、同性カップルの漫画を読むことが多くて・・・ハマってしまってね?」


「あぁ・・・なるほど・・・」


夕陽は何か察したような目をした。

俺は咲夜とも関係を持っていたわけだし・・・そなへんを掘り下げられなければ問題はないけど・・・


「でもあれだね、柊くんは・・・同性からも異性からも好かるタイプの子に見えるね。」


晶さんが小首を傾げながら弟を見るような優しい笑顔で言うので、そのふんわりした雰囲気が何となく夕陽に似通っている気がした。


「そう・・・ですかね・・・。自分では何とも言えませんけど・・・夕陽はそう思ってる?」


「思ってるよ?」


「即答・・・?」


「ふふ、やっぱりそうなのねぇ。なんていうか・・・男性としても魅力的だし、可愛らしいお顔立ちをしてるから、男の子もキュンときちゃう感じするものね。」


褒められ慣れていないので恐縮していると、夕陽が隣でため息をつく。


「そうなんすよねぇ・・・。本人は無自覚でキュンとさせるとこあって・・・大学の俺の知り合いで、女だろうと男だろうと薫に色目使ったり一目置いてたりするんすよ・・・。心配事耐えませんよまったく・・・。」


「・・・それを言うなら夕陽だって無自覚だろうけど、女の子に優しいし頭ポンポンしてたじゃん。」


「え!?んなことしてた!?」


「してたよ・・・。夕陽俺にもだけど頭撫でるの癖でしょ・・・」


若干自分の行いを振り返ろうとしているのか、夕陽は視線を泳がせる。

また晶さんがクスクス笑っていると、美咲さんがおかわりの紅茶を持ってきた。


「あ・・・すみません。あの、長居するつもりないので・・・。」


「いや、何か予定がないならゆっくりしていってくれ。俺たちは今日得に用事はないから。それに正式に働いてくれるということなら、簡易な契約書を作って印刷してくるから時間をくれ。」


「何から何まですみません、ありがとうございます。」


そう言って二階に上がっていく美咲さんの背中を見やりながら、俺は何となく自分の中で目標としていた、美咲さんとも親しくなるにはどうしたらいいかと考えた。

話している限りでは、あまり咲夜の性格に似たところがないように思える。


「あの、晶さん・・・」


「なあに?」


「美咲さんって・・・俺が知ってる咲夜の雰囲気とはだいぶ違うし、双子だけど似た話し方もしてないと思うんですけど・・・いつも礼儀正しい方なんですか?」


俺の問いに彼女は少しキョトンとして、ん~と思い返すようにしながらカップに口をつける。


「そうだねぇ・・・なんていうか・・・ちょっと大袈裟な言い方をしちゃうとね?美咲くんは次期当主として本家で育っていた頃から、咲夜くんとは違ってその・・・半ば幽閉されて教育を受けていたような感じなの。」


「・・・・幽閉?」


到底俺たち一般人の想像に足ることではないかもしれない。

夕陽もそう思ったのか、黙って彼女の言葉を待っていた。


「財閥が解体して屋敷を出るまでの18年間、美咲くんは本家の外で暮らしたことはないの。咲夜くんは中学生になる頃から外で暮らすようになったから、咲夜くんを心配して会いに行っていたことはあるけどね。それでも外出時は警護人と称して見張りがあって、本家の中では何人もの使用人の方が彼の周りで、世話係をしたり教育係をしたり・・・家族と居る時間よりお付きの人達といる時間の方がはるかに多かったと思う。」


「そう・・・なんですね。」


「もちろん私の仕事というか役目は、彼の補佐であり秘書だったから、本格的に当主の仕事を担うようになってからは、ほとんどの時間を一緒に居たように思うわ。本当に小さなころは3人で庭を駆け回っていたけど・・・。こんな言い方をするのはおかしいけど、柊くんや朝野くんのように、普通に大きくなって普通に学校に通って、お友達と出かけたり、恋人が出来てデートしたり・・・っていう経験は私たちにはなくて・・・。それが別段不幸なことだとは思ってないのよ?けどね、思春期から外で暮らして学校に行っていた咲夜くんとは違って、同年代の子たちと関わることがなかったから、堅苦しく感じるんだと思うの。私は教育を受けていた時も、わりとお父さんが自由にさせてくれていたし、使用人も親しくしてくれる人が多かったから、話し相手もいたものだけど・・・高津家は特に厳しくて、美咲くんは普通の子供時代は送れなかったと思う。」


だから・・・明るく振舞ってフレンドリーな咲夜とは印象が違うのか・・・

静かに聞いていると、夕陽も疑問を口にした。


「あの・・・それって美咲さんはどう思ってるんですかね。」


「・・・どうって?」


「その・・・学生時代を取り戻したいとか、こういうことをしたかったとか・・・そういうことは考えてらっしゃるのかなって。例えば、友達と買い物いったりゲーセン行ったり、ライブとか遊園地とか映画館とか、そういう娯楽を今からでもたくさん楽しみたいなぁみたいな・・・」


晶さんはまたふふっと可愛らしい笑みを見せた。


「それは本人に聞いてみてあげてほしいかなぁ。私が答えてもそれは推測でしかないから。」


しばらくそんな風に雑談をしていると、やがて美咲さんが書類を持って戻ってきた。

年が明けて1月半ばくらいから来てもらいたいと言われたので、そのまま二人で書類を持ち帰った。

帰り際に名残惜しそうにしていた晶さんは、またたくさんお話ししましょうねと、楽しみを抑えきれない様子で笑顔だった。


「なんか・・・奥さん面白い人だったな。」


閑静な住宅街を歩きながらいると、夕陽は笑みをこぼしながら言った。


「そうだね、なんというか・・・フレンドリーだけど丁寧で礼儀正しくて、抑えきれないワクワクが駄々洩れてる感じ・・・?」


「そうだな・・・。まぁ年相応に恋バナが好きな女の子とも言えるな。」


日が暮れるのが早くなった年末は、また時折雪をちらつかせながら、帰路に就く俺たちの掌を冷やした。

夕陽がまた俺の手を取って自分のコートのポケットに押し込むと、片手だけが温まっていく。

その帰り道、最寄り駅構内のバイト先だった本屋に寄り、心配をかけてしまっていた店長と話した。

事情はどうあれ正式に退職する旨を伝えていなかったので、改めてお詫びを申し上げると、退職しても構わないけど、また戻って来たくなったら戻ってらえると嬉しいと言ってくれた。

ご厚意に感謝しながら、心身ともに元気になった暁には、また働かせてくださいと頭を下げた。

店長は何かあった時はいつでも頼ってくれていいと、尚も優しい言葉をかけてくれた。


家に着いて玄関の戸を開け、コートを脱ぎながら夕陽は呟いた。


「店長さんいい人だなぁ・・・。」


「ホントにね・・・。バイトの人からも社員さんからも信頼されてる優秀な人だよ。ああいう人の息子に生まれたかったなぁ。」


「ふ・・・まぁ確かに、俺らの親くらいの年だな。」


クローゼットにコートをしまいながらいると、ベッドに腰かけながら、夕陽は今度は自信なさげに尋ねた。


「な・・・あのさ、薫は・・・母親の連絡先、一応スマホに入ってたよな。」


「・・・うん・・・」


「お母さんには会いたいと思ってる?」


静かにクローゼットの戸を閉めて、彼を振り返った。


「・・・わかんない。」


「・・・そうかぁ」


ゆっくり隣に腰かけると、日が落ちた窓からわずかに、家路につく鳥のさえずりが聞こえた。


「本当はずっと帰ってきてほしかったって思ってたんだからさ、会いたいとは思ってるはずだけど・・・でもなんていうか・・・今更会っても何をどうしたいのかわかんないというか・・・特に希望がないんだよね。近況を伝えたいとか、もしくは尋ねたいとか、そういう気持ちもあんまりなくて・・・。」


幼い自分の素直な気持ちはどうだったんだろうか・・・

でも母のことを思い出しても、いつものように子供らしく振舞う自分は現れない。


「正直さ、高校を卒業する頃に会ったのが最後で、正式に離婚したっていう報告を受けて、何でもない会話をしたくらいで・・・。それからろくに音沙汰がないからさ、仕事や自分の今の家庭で精一杯なんだと思う。もしくはもう関わりたくないくらい思ってるのかも。だから・・・もういいかなって。」


「そっか・・・。複雑な気持ちはあれど、あえて何か連絡を取って会う程じゃないって感じか・・・。」


夕陽はそっと俺の肩を抱いて、頭を撫でた。


「夕陽が居てくれるここが・・・俺の帰る場所だよ。」


二人しかいない空間で、大事にしまうようにそう言うと、夕陽は掛布団をめくって俺を押し倒した。


「・・・もうすぐ頼んだセミダブルが届くかも・・・。その前に最後にしたい。」


「ふふ・・・夕陽かわい~。」


俺がそう言うと彼は少し眉をしかめて、からかうなとばかりに激しいキスを繰り返した。


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