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夕陽と薫  作者: 理春
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第一話

「夕陽・・・」


「ん~?」


「新婚じゃないんだからさ・・・後ろから抱き着かれてると料理出来ないんだよ・・・」


その日も夕陽は大学帰りにうちに寄っていた。


「薫の手料理楽しみだなぁ・・・」


「手伝ってくれてもいいんだよ?」


「わかった、何すりゃいい?」


彼は素直に腕を解いて、にっこり俺の顔を覗き込んだ。


夕陽と付き合い始めて半月が過ぎた。

大学では特に生活が変わるわけではなく、たまに隣同士座るくらいで、必要以上にいちゃついたりはしない。

その分夕陽はうちに着いて二人っきりになると、欲求を爆発させるように求めてくるタイプだ。

その日は二人ともバイトが休みだったので、どこかデートに行く?と提案したけど、彼は家がいいと言ったので早めの夕飯の下ごしらえを始めていた。

それが済むと、課題もあったし勉強の準備をすると、いつも通り隣に腰かけた夕陽は、チラチラと俺を伺いながら落ち着かない様子を見せる。


「どうしたの?」


「ん?別に・・・。薫が勉強してんの眺めとくわ・・・」


また愛おしそうな笑顔を見せて俺の頭を撫でる彼に、俺もつられて笑みを返した。


「夕陽も今日出た課題やったら?」


「あ~そうだな、ちゃっちゃとやっとくか。」


図書室で勉強している時と同じように、彼は他愛ない話を振りつつ俺の隣にいるので、課題をこなしながらある程度返事をして、どうしても司法試験の勉強となると集中してしまうので、夕陽の問いかけには応えられなくなっていってしまう。

彼もそれをわかっているので、俺の邪魔しないようにと黙って貸した小説などを読んでいた。


気付いたら18時を回っていて、ハッとして後ろのソファにいる夕陽を振り返ると、彼は小説を片手に、だらっと体を預けて眠っていた。

手元の勉強用具を片付けて、その可愛らしい年相応の寝顔をそ~っと眺めた。

ソファに足をかけてゆっくり顔を寄せても、彼は起きる様子はない。


「・・・写真撮ったら怒るかな・・・」


以前ベッドで寝顔を撮られたのを思い出して、お互い様だと思いながらスマホを構えた。

するとカシャっと撮影した音がした瞬間、彼の眉がピクリと動いて、その可愛い垂れ目が開いた。


「・・・ん・・・なに・・・?ふ・・・薫~」


さっとスマホを後ろ手に隠したので疑いを逃れ、夕陽は寝ぼけた様子で両手を広げて俺を誘い込んだ。

仕方なく覆いかぶさるように抱き着くと、俺の首元でキスをしながら匂いを嗅ぐように呼吸された。


「何で薫はいい匂いなんだろな~~・・・」


「・・・何だろうね・・・。特に香水とかつけてないよ。」


「んじゃあ・・・フェロモンだなぁ・・・。」


「・・・きっとボディソープとか、ヘアオイルとかだよ。」


「ふふ・・・あぁ・・・幸せ・・・」


優しく頬ずりする夕陽は、目じりを垂らして愛おしそうにするので、どちらからともなくそっと唇を重ねた。

大事に触れて離れると、惜しむように彼は俺の頭に手を回してぐいっと引き寄せ、また激しく重ねる。

そうしているうちにいつも、頭がボーっとしてきてしまう。

生まれて初めて愛した人と結ばれて、愛した人から求められて、何度も好きと言いながらキスをし合って

そのうち夕陽に服を脱がされて、いつの間にか見下ろす形で押し倒されて、獣のように呼吸する彼は、ひょいっと俺を持ち上げた。


「ぅわっ!・・・ちょっと・・・別に運ばなくても・・・」


お姫様抱っこはさすがに恥ずかしいので、毎回抵抗するものの、夕陽は構わずあっさり俺をベッドに運んでしまう。

そして淡々と全裸になる彼は、また追い詰めるように手をついてニヤリと俺を見下ろす。


「仮眠とって頭スッキリした・・・」


「・・・そう?」


耳元で囁いてキスを落とす夕陽の、程よく筋肉がついた上半身を撫でる。


「後で一緒にご飯食べらえるし・・・」


「そうだね・・・」


腹筋がうっすらと割れていて、足は長いし・・・身長があるからか、俺と違ってとてもスタイルがいい様に見える。


「先に薫を美味しくいただくから・・・」


そう言って夕陽は首元に吸い付いて、また新しいキスマークを熱心に付ける。


「・・・ふふ・・・三大欲求全部満たされるね・・・」


「そ・・・。」


「夕陽・・・初めてしたときから思ってたけど、いつの間に隠れて筋トレしてたの?」


俺が問いかけると、胸のあたりまでキスを落としていた彼が、ふと顔を上げて上目遣いを返した。


「・・・薫が・・・筋肉ついてる男の方が好きだって言ってた時から・・・」


「・・・・言ったっけ・・・・?」


「夏休みに焼肉行った時だよ。」


「あ~・・・・言ったかな・・・・。でも頑張ってくれたんだね。」


「筋トレなんて大した事ねぇし・・・。うちで課題やりながら、ふと薫のこと考えて性欲が湧く度に、うおー!って筋トレして気ぃ紛らわしてたんだよ。」


「はは・・・!そうなんだ・・・ふふ」


また愛おしくなって彼の頭を撫でると、ジト目を返されて、仕返しとばかりに夕陽の舌が下半身を伝った。

正直行為を重ねる時、昔先輩としたときのことを思い出してしまわないか心配に思っていた。

俺の美化された先輩と・・・好きな人とした思い出だから。

けどいざ何度か体を重ねても、俺は一ミリも先輩を思い出すことはなくて、目の前で何度も俺の名前を呼ぶ夕陽がただただ愛おしくて、彼のことしか考えられなくて、一晩に何度も求められては意識が飛びそうになったり、意地悪にほくそ笑む夕陽が、望んでいる通りおもちゃを壊すようにぐちゃぐちゃに俺を乱して、腰を突き上げられる度に、依存と執着が心の内を埋め尽くしていった。

かつて夕陽が冗談で「俺はベッドの上ではSだよ」なんて言ってたのを思い出して、俺が意地悪なことを言ってみたり焦らしたことをすると、悔しそうな顔をするので、またそれがたまらなく愛おしさをより焦がしていった。


お互いの挙動に敏感で、甘い言葉を交わして、好きだという以上の言葉を知らないから、その度に体を重ねた。

それを繰り返しても不思議と飽きることもなく、お互いの知らない顔を見つけては興奮が高まって、ついには一人勉強して一息つく解放された瞬間には、必ず彼を求めてソファを振り返る癖がついてしまった。

そこで俺を待っている時でも、ただ一人切りだったと自覚するときでも、愛おしくて繰り返し考えることは同じで・・・

ただ不慣れな故に、上手く付き合いを続けていくにはどうしたらいいのか、何度かネットで検索しては、付き合い始めの3か月くらいは楽しいと書かれていたりした。


ずっと一緒に居られるなら、ずっと愛おしい気持ちが続くんじゃないだろうか・・・

それとも必ず人間飽きる瞬間が来るということだろうか。

お互いの存在が当たり前になって、慣れてしまったら、夕陽はいずれ俺を捨ててしまうんだろうか。


ブルーライトカットの眼鏡をかけて、一人ボーっと寝る前にパソコンを眺めていた。

典型的な人達の意見が、必ずしも自分に当てはまるとは限らない。

俺は明日の準備を鞄に詰めて、大人しくベッドに入り、まだ残ってる夕陽の匂いを吸い込んだ。

下らないことで不安になるのはやめよう。

俺はそんなに暇じゃない・・・。

1月には口述試験がある。後一か月と少し、追い込みかけて勉強しないと・・・。


そうして一人、眠る前に夕陽のことを考えると、胸の中は幸せでいっぱいだった。


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