ゴシックのメイド長②
「あれ……? さっきまでそこでじゃれていたのに二人共何処に行ったんだ?」
「やれやれ、相変らずじゃの二人共。隠れていないでさっさと出て来んか」
クレアさんが呆れながら言うと、トリーシャとレオが渋々といった様子で人ごみの中から出て来た。
「何やってんだよトリーシャ、レオ。こちらの二人はクレアさんとシルフィさんといって今回の大会の参加者だ」
「知ってるわ。正確にはそっちのシルフィってコは初対面だけど、クレアとは面識がある」
トリーシャが警戒しながらクレアさんを見て言った。それに続く様にレオが話し始める。
「クレア・アウ・ミストルティン――千年前の魔人戦争でオイラ達アルムスのリーダーとして戦った人物だよ。まさかこんな所で再会するなんて思いもしなかったよ」
「……え?」
驚いてクレアさんを見ると彼女は胸を押し上げるように両腕を前で組んでにこにこしている。その笑顔が逆に恐怖心を掻き立てる。
「二人共、約千年ぶりに会ったというのに酷い言い方じゃな。わしは悲しくて涙が出そうじゃよ。うう……う……」
笑顔から一転してクレアさんは悲しそうな顔になり、目尻から一粒の涙がこぼれ頬を伝っていくのが見える。
謝ろうとするとトリーシャとレオが俺の前に出て制止した。
「騙されちゃ駄目だよ。泣き真似はクレアの得意技なんだ。昔はオイラ達もこれに騙されて酷い目に遭ったんだよ!」
「……全く、騙された騙されたとわしを詐欺師の様に言いよって失礼じゃぞ」
さっきまで泣いていたはずのクレアさんがいつの間にかケロッとした顔でレオを非難している。まるで女優の様に次から次へと表情が変わっていく。
そんな女優に対し食ってかかっていったのはトリーシャだ。
「詐欺師の方がまだいいわよ! 魔人戦争の時にあなたの命令で私たちは何度も死にそうな目に遭ったのよ。最初から最後までよくもこき使ってくれたわね!」
トリーシャが顔を赤くしてクレアさんに詰め寄る。これは相当お怒りのご様子だ。一方のクレアさんはふぅっと息を吐くとクレアを真っすぐに見る。
その表情は今までとは違ってまるで水を打った様に静かなものだった。
「――でも死ななかったじゃろ」
「なっ……!」
クレアさんの声は静かでありながらも重みがある。その圧に押しのけられるようにトリーシャは後ずさりした。
「あの時は人権がどうとか言ってられる状況で無かったのはお主もよく分かっているはずじゃ。限られた人員と戦力で最大の戦果を上げなければ負ける戦じゃった。その中で味方の損失を最小限に抑える為には特に優秀な人材に支えてもらう他無かったのじゃ。――それが当時現れた異世界の少年たちとお主等のチームだった。他の者であれば戦死は免れなかったじゃろう。お主等ならば生還できると確信したからこそ命令したのじゃ」
クレアさんの言葉の一つ一つには当時の戦争を経験した故の重みがあった。
戦争経験者であるトリーシャとレオは当然として、アルムスとの意識の共有で間接的に状況を知っているだけの俺とロックも冷水をかけられたように身体が冷たくなるほどの圧を感じた。
トリーシャとレオが大人しくなるとクレアさんの視線は俺へと移っていた。今度は表情に微笑みが見て取れる。
「さて、次はお主じゃな。ムトウ・アラタ……アラタと呼ばせてもらう。お主らも仲間と接するように、わしの事はクレアと呼んでくれ。シルフィも同様で構わんよ」
クレアさんの隣でシルフィさんが笑顔で頷いた。そして再びクレアさんが話し始める。
「お主の事はアンジェからある程度は聞いておる。現在、アンジェ、ルシア、トリーシャ、セレーネの四人と契約を交わしている事もな」
「アンジェと知り合いなんですか?」
「何じゃ、アンジェやセレーネからわしの事を聞いておらんのか?」
そう言えばクレアという名前には聞き覚えがある。クレア……クレア……うーん、何処で聞いたっけか?
何かヒントはないかとクレアさんをじーっと見ると、彼女は「いやんエッチ」と言っておどけて見せる。
この行動に既視感を覚えると同時に彼女の姿がアンジェと重なりクレアという人物に関する記憶が甦ってきた。
「思い出した! メイド協会『ゴシック』の代表でメイド長の名前が確かクレアだった。あなたがそのクレアさん!?」
「如何にも。それとわしの事はクレアと言うようにと言ったじゃろ。まさかとは思ったが、さっきお主の名前を聞いた時は驚いたぞ。アンジェ達は観覧席にいるのかの?」
アンジェ達を探して観覧席の方を見てみると、それらしい三人組が見えた。遠目からメイド服を着た二人が暴れていてルシアが必死に止めているのが見える。
その様子を見てクレアとシルフィは笑っていた。
「相変わらずアンジェもセレーネも元気じゃのう。ルシアは相変わらず仲裁役といったところか」
「そうだね。久しぶりだし早く二人に会いたいなぁ。ちゃっちゃと予選通過しよう!」




