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マナギア~異世界で契約した銀髪メイドが魔剣だった件。魔人と戦う俺は生きた鎧へと変身し無双する~  作者: 河原 机宏
第六章 ティターンブリッジ

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アストライアの勇者スヴェン④

『ククククク、クハハハハハハハハハッ! 素晴らしい、素晴らしいゾ。さすがはウェパル様の血ダ。身体の奥底から力がみなぎってくるかのようダ!!』


「……なるほど、そういう事か。さっき飲み込んだのは魔人の血液だったんだな。つまり貴様はジャコブと同じ方法を取ったという訳だ」


『魔物や魔人の血液は黒色だからもしかしたらと思ったけど、よくもまあそんなもモノを飲めたわね』


 船橋の瓦礫の中から姿を現したスヴェンの頬からは赤い血液が流れ出ていたが、それ以外は大したダメージは見られない。

 ディープリーダーは口角を上げてニヤリと笑い舌なめずりする。


『今の攻撃を受けてほぼ無傷とはナ。こいつはいイ。ウェパル様の血によって魔人と化した俺の玩具おもちゃとなって死ネ!!』


「調子に乗るなよ! もう貴様の攻撃は受けん。パワーや防御は中々の様だが肝心の魔力操作がまるでなっていない。他人から与えられた付け焼刃の力で俺に勝てると思うなよ」


『小さいクセに生意気な小僧ダ。これで吹き飛べェェェェェェェェ!!』


 ディープリーダーが口をすぼめると口内からジェット水流の如き強力な水の奔流が発射される。

 射線上にいたスヴェンは前面に重力の壁――グラビティウォールを展開し、直撃したジェット水流は幾つにも分断され目標を逸れて消えていった。


『何だト!?』


「今度はこちらの番だ!」


 槍に重力の壁を展開したままスヴェンは高速でディープリーダーに接近しあっという間に間合いに入った。


「皮膚が硬いのが自慢のようだがこれならどうだ!」


 そのまま大きく振りかぶり重力の壁を鈍器に見立てて思い切り敵をぶん殴る。

 ディープリーダーは両腕で防御するが、その瞬間バキバキボキボキと不快な音が周囲に響きわたる。

 壁からハンマーへと変化した重力の一撃は防御の上から身体の内部を破壊し船上から殴り飛ばした。

 吹き飛ばされたディープリーダーは海面を勢いよく転がっていき最後は海岸に衝突し止まった。


『ぐ……うおおおオ……』


 両腕が複雑骨折し身体の外側も内側もズタズタになったディープリーダーは、苦しそうにうめき声を上げる。

 霞む視界の中央では紫色のローブに身を包む少年が優美な槍を携えて海面に立っていた。

 満身創痍の自分とは対照的に少年にはほとんどダメージが見られず、半魚人の怪物は恐怖した。


『ぐ……化け物ガ……!』


「貴様が言うな……と言いたいところだが、貴様からしたらそう思われても仕方がないだろうな。もっともこっちは実力の半分も出していない訳だが」


『なッ……!?』


 スヴェンが口にした事実を前にディープリーダーは驚愕し、自らの勝利と生存を諦めた。

 魔人の血液で変質した肉体が異常なスピードで破壊された骨や筋肉を修復していくのが分かったが、心は完全に折れて対抗しようとする気は完全に消え失せていた。


『くっ……殺セ』


「言われなくてもそうさせてもらう」

 

 スヴェンはブリューナクに魔力を集中させ穂先では重力の刃が形成される。その魔力の余波で周囲の海水が押しのけられ、スヴェンは宙に浮いている状態となった。

 その圧倒的な魔力と佇まいを見てディープリーダーは静かに笑う。


「何が可笑しい?」


『確かにお前は強イ。だがウェパル様と比べれば子供と同じヨ。我々ディープを手に掛けたお前の前にあの方は必ず現れル。そして俺たちのかたきを取ってくれるだろウ。その時の光景を考えたら面白くてナ』


「ふん、そういう事か。ならばそのウェパルという魔人も殺して貴様の所へ送ってやる。楽しみに待っているんだな」


 言い捨てると、スヴェンはブリューナクの穂先をディープリーダーに向けて突進した。


「これで跡形も無く消してやる! 重波じゅうは黒刃こくじんッッッ!!」


 スヴェンはブリューナクに形成した重力の刃を突き刺し、そのエネルギーを解放すると一瞬でディープリーダーを葬り去った。

 その場には重力の刃による刺突攻撃の爪痕が残っているのみで巨大な体躯を誇る半魚人の肉片一つすら落ちてはいない。

 敵の完全消滅を見届けたスヴェンは踵を返し再び騎士団船に向かい、この場にいたディープは一人残らずスヴェンに抹殺された。


 騎士団側も大勢の犠牲者が出た事で『アストライア王国』とディープは対立を強めていく事になるのだが、圧倒的な数がいるディープはそれだけに止まらず世界中の沿岸部で猛威を振るっていく事になる。


 


 敵を倒し終えたスヴェンとルイスは漁港に立ち寄っていた。


「今後漁をするのであれば近海に限定した方がいい。遠くまで行けばディープが襲って来る可能性が高くなるだろうからな」


「王国はディープと戦争をするのですか?」


 不安げな表情でロッシが訊ねるとルイスが答える。


「これまでにもディープは陸上で生活する他種族に何度も侵攻してきました。今回も同じと言えるでしょう。ですがそれは失敗に終わっています。そうでなければこうして陸で過ごせてはいませんから。すぐに王都から兵士が補充されるはずですから安心してください。それではあたし達はこれで失礼します」


 スヴェンとルイスがこの場を去ろうとするとロッシが二人を引き止める。


「助けてくださってありがとうございました。あなた方は今まで私たちが見てきた騎士団の方々とは違う。漁が再開されたらまた来てください。美味しい魚介類を沢山ご馳走しますので」


「……悪いが断る」


「そ、そうですか……」


 明らかに落胆するロッシ達を目の当たりにするとスヴェンはばつが悪そうに言った。


「気を悪くさせたのならすまない。その……俺は魚が苦手でな。それ以外なら問題ない」


「スヴェンったら、これを機に食わず嫌いを直しなさい。海で捕れた新鮮な魚介類なんて王都じゃ食べられないのよ?」


「うるさい。それならお前がもてなしを受ければいいだろう」


「本当に可愛くないわね。ああ言えばこう言うんだから。そうやって偏食ばっかりしてるから大きくならないのよ」


「ルイス貴様……俺が背が低い事を気にしているのは知っているだろ! そこに踏み込んで来るとは――」


「うっさいわね! 文句言う暇があったら魚だろうが乳製品だろうが文句を言わずちゃんと食べなさいよ! あんたの食べ物の好き嫌いに振り回されるこっちの身にもなりなさいっての!!」


 口喧嘩を始めるルイスとスヴェンに対してロッシ達は最初は戸惑っていたが、徐々にこの雰囲気に慣れていき二人が本気でいがみ合っていないと分かると温かい目で見守っていた。


 口喧嘩を終えた二人は戦いの報告を終えると再び飛竜に乗って目的地に向かって飛び始める。

 

「それで、これからあたし達が向かうのは『アーガム諸島』でいいのよね?」


「そうだ。万が一そこに滞在しなくても『ティターンブリッジ』の数ヶ所に検問所を要請しておいたから、それらしいパーティが通れば情報が入って来る。確実にこの橋にいる間に例の冒険者に会ってやる」


「会ってどうするつもり? まさかいきなり戦いを吹っかける気じゃないでしょうね」


「それは向こうの出方次第だな」


 質問に答えるスヴェンの目には狂気の光が宿っていた。それを見たルイスはまた一波乱ありそうだと深く溜息を吐く。

 しかし、この後待ち受ける『アーガム諸島』での邂逅はルイスにとっても運命的な再会を意味するものであった。

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