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マナギア~異世界で契約した銀髪メイドが魔剣だった件。魔人と戦う俺は生きた鎧へと変身し無双する~  作者: 河原 机宏
第六章 ティターンブリッジ

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アストライアの勇者スヴェン②

 『カボンバ』近海では先日の戦いで破壊された騎士団船の残骸回収作業が騎士団によって行われていた。

 このまま残骸が浮いていれば漁業は再開されず付近を航行する船の妨げにもなる為、急ピッチで作業は行われている。

 漁港の人々も少しでも早く漁業を再開する為、船を出して小さな残骸などを拾い上げている。

 その中にはアラタたちにクラーケン討伐を依頼したロッシの姿もあった。


 ロッシを始めとする漁師たちは回収した残骸を陸に降ろす為に一旦漁港に戻って休息を取っていた。


「ふぅー、一日でかなりの数が拾えたな。騎士団も思ったより積極的にやってくれているし、このペースなら明後日には漁を再開できそうだ」


「そうだな。これも昨日クラーケンを倒してくれた冒険者の方々のお陰だ。あの人たちが次に来た時にご馳走できるよう漁港を以前のように活気づけないとな」


「その冒険者たちの話を詳しく聞かせてもらえないか?」


 突然会話に入って来た声に驚いてロッシ達が後ろを振り返ると、そこには十代半ばの少年と少女が立っていた。

 雰囲気からして普通の子供ではない。昨日この漁港を救った少年たちに近い雰囲気を感じ取った漁師たちは顔を見合わせて口をつぐむ。

 

「……殊勝な心掛けだな。この漁港を救った恩人を見ず知らずの人間には売らないという事か。騎士団の連中などよりもお前たちの方が筋を通しているようだ」


「一体あんた達は何者なんだ? どうして彼等の事を質問してくるんだ?」


「名乗るのが遅れ失礼しました。彼は『アストライア王国』の勇者スヴェン。あたしは彼のパートナーのルイスと申します」


「し、失礼しました! まさかそのような高貴な方々とは知らず……」


 スヴェンとルイスの素性を知ったロッシ達は彼等の前にひれ伏して額を地面につけ謝罪した。

 その姿を見たスヴェンは小さく溜息を吐くと膝を折って自らの目線を下げる。


「頭を上げろ。俺はお前たちを処罰しようとは考えていない。ただ、この漁港を救った冒険者に興味があっただけだ。連中に不利だと思う情報は伝えなくて構わない。ただ、どういう考えでこの漁港を救おうとしたのか知りたいんだ」


「は、はぁ……」


 騎士団のような横柄な態度を取らないスヴェンに対しロッシは戸惑いを覚えつつも二人を自宅へと案内した。

 そこでアラタ達が自分たちの為にしてくれた事を説明した。

 スヴェンとルイスは途中で口を挟む様子はなく最後まで話を聞いていた。


「――以上が私たちが知っている彼等の話です。彼等は高額な報酬を要求する事も無く困っていた私たちを救ってくれた恩人です。執政官の件に関しても周囲にいた兵士たちを救う為の行動であったと思います。彼等がそうしてくれなければ、沢山の犠牲者が出ていたのは間違いないんです! ですから勇者様、お願いします。彼等に危害を加えるような事は――」


 ロッシがスヴェン達に懇願していた時、突然玄関の扉が勢いよく開けられ漁師仲間が青ざめた様子で入って来た。

 乱れた呼吸を何とか整えながらロッシのもとへと駆け寄って来る。


「た、大変だロッシ! 早く奥さんと子供たちを連れて逃げるんだ!!」


「そんなに血相を変えてどうしたんだ。一体何があったんだ!?」


「ディープだ! ディープが沢山現れて騎士団の船を襲ってるんだよ。じきにここにも上陸してくる。そしたら俺たちは皆殺しに遭う。その前に避難しないと!!」


「なんだって!?」


 話を聞いたロッシ達が家から出て海を見ると、残骸回収中だった騎士団船から火煙が立ち上っているのが見える。

 そこには船体中に貼り付く無数の半魚人の姿があり、兵士たちの断末魔の叫びが聞こえて来る。

 その光景と悲鳴を前にロッシ達は恐怖の余りに足をガクガクと震わせていた。


「何てこった。ディープがどうしてこんな事をするんだ。これじゃまるで戦争じゃないか!」


「まさにその戦争行為を奴等は仕掛けているんだろう。――お前たちは他の連中を連れて町中に避難しろ。この状況に気がついた騎士団が保護してくれるはずだ」


 スヴェンはすたすたと海に向かって歩きながらロッシ達に避難するように促す。その隣には彼のパートナーであるルイスが付き従う。


「勇者様はどうされるのですか!?」


「そんなの決まっているだろう。敵は排除する。それだけだ」


 ロッシの問いにスヴェンは振り向き笑みを見せて答える。ただ、その目には狂気の光が灯っていた。




 騎士団船の甲板では兵士たちとディープの集団が入り乱れながら死闘を繰り広げていた。

 船上の至る所に鮮血が飛び散り、所々血だまりが出来ている。その光景は正に地獄絵図そのものだ。

 その血だまりに躊躇なく足を踏み入れたのは半魚人姿の怪物……ではなく海中を住処すみかとする亜人族ディープ。

 ――つまりこれは人間同士の殺し合いであった。


「殺セ、殺セ、陸の生き物は全て殺セ! これからは海も陸も我々ディープの物ダ。反抗する者は全て皆殺しにしロ!!」


 ディープの群れは三又の槍を携えて騎士団の兵士たちに向かって行く。

 多勢に無勢な上に揺れる船上の戦いではまともに動けず一人また一人と槍に貫かれて倒れていった。


「た、助けてくれ!! もう我々には戦う力は残っていない。降参する。だから――」


 戦意を喪失し懇願する兵士の身体を無情にも三又の槍が貫く。

 半魚人が足で兵士を蹴飛ばし槍を力任せに引き抜くと、傷口からおびただしい量の血液が噴出しうつ伏せに倒れ動かなくなった。


「この世は……えーと、確か弱肉強食だったかナ。だから弱いヤツは全てを奪われル。弱いから皆殺しにされル。弱さこそ罪……ゲェッゲッゲッゲッ!」


「「「「ゲェッゲッゲッゲッ! ゲェッゲッゲッゲッ……」」」」


 勝利を確信したディープ達は一斉に不気味な声を出し始める。それは彼等の勝利の雄叫びであった。

 それが何度か続き残りの兵士たちが絶望の淵に立たされた時、紫色のマントに身を包んだ二人の男女が船に乗り込みディープ達の前に立ち塞がった。


「まったく……この声、うるさいったらありゃしないわ!」


「戦意を失った相手を前にして勝利の歌を合唱中か。随分と余裕だな。ルイス、持って来たポーションで兵士を回復してやれ。何人かはまだ間に合う」


「分かったわ。その間丸腰になっちゃうから無理しないでね」


「ああ」


 スヴェンは短く返答すると、目の前にわらわらと群がっている半魚人軍団を睨み付ける。それに対し半魚人たちは黄色くギョロっとした目を小柄な少年に一斉に注いだ。

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