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マナギア~異世界で契約した銀髪メイドが魔剣だった件。魔人と戦う俺は生きた鎧へと変身し無双する~  作者: 河原 机宏
第六章 ティターンブリッジ

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アストライアの勇者スヴェン①


 アラタ達がジャコブを倒した翌日、『カボンバ』に一頭の飛竜が舞い降りた。

 『アストライア王国』騎士団施設に設けられた飛竜発着所に着陸した飛竜の背から二人の男女が飛び降りる。

 十代半ばに見える二人は王都から休みなくここまで飛んできた飛竜の頬を撫でて労いの言葉を掛けた。


「ここまでご苦労だったな。お前が一晩中頑張ってくれたお陰でこんなに早く到着した。ゆっくり休んで俺たちが帰って来るのを待っていろ」


「スヴェンとあたしが後で美味しい食べ物を持ってきてあげるわね」


『グルルルルル』


 少女がたおやかな手で撫でると飛竜は心地よさそうに目を閉じて頭をぐりぐりと押し付けて来る。

 

「こいつはルイスを気に入っているからな。甘えているんだろうが俺たちには任務がある。行くぞルイス」


「分かったわ。それじゃここでいい子で待っていてね」


 少年の名はスヴェンと言い金色の髪と青い瞳の美しい外見をしていた。ただ、彼の眼光は鋭く他人を近づけさせない雰囲気を持っている。

 少女はルイスと言う名で桃色の長い髪をハーフツインにしておりスレンダーな体格をしている。


 二人は『アストライア王国』の勇者と国宝級アルムス用の特別仕様ローブを纏っていた。

 これは蜘蛛型魔物の中でも最強とされるアラクネの糸を原材料としており魔力伝導率が高く、少しでも魔力が通っていれば多少の魔術や刃物類をはじき返すほどの性能を持っている。

 それによりこのローブを纏っている者は一目で勇者とそれに付き従う国宝級のアルムスという事が分かる為、騎士団からすれば尊敬と畏怖の象徴と言えるものであった。


 二人が飛竜を休ませこの場から離れようとすると数名の兵士がやって来て彼らの到着を歓迎する。

 しかし歓迎ムードなのは表向きだけで実際は恐れを抱いている事をスヴェンとルイスは見抜いていた。


「これはこれは、勇者スヴェン・エスト・アストライア様と国宝級アルムスのルイス・ゼル・ブリューナク様ではありませんか。長旅でお疲れでしょう。お部屋を用意しておりますのでそちらでゆっくり休んでください」


 スヴェンはそんな歓迎ムードを無視してその鋭い視線を兵士たちに向けて要件を伝える。


「疲れているのは夜通し飛んでいた飛竜の方だ。あいつに食事と飲み物をやってくれ。それと俺たちは観光でここに来た訳ではない。ここの執政官ジャコブ・ジャーファーを処罰する為に来ただけだ。彼は何処にいる?」


 スヴェンの申し出に対し兵士たちは顔を見合わせて曇った表情を見せていた。


「あの……その事なんですが……」


 兵士たちの口から出て来たのはジャコブが既に故人になっているという事実であった。

 現場にいた兵士たちの証言をまとめた報告書が作成されており、施設内の執務室に通されたスヴェンとルイスは報告書に目を通し彼の最期の状況を知った。


 報告書にはジャコブが魔人の軍勢『アビス』の幹部である十司祭ウェパルと通じていた事、彼が非合法な手段で手に入れた魔石や金銀財宝をウェパルに横流しして、その見返りとして力を借りてやりたい放題だった事が書いてある。


 そして最終的にはウェパルの魔人の血を飲み自ら魔物と化し、暴れまわった挙句に冒険者パーティに倒されたという内容で終わっていた。


「まさかジャコブが既に亡くなっていたなんてね。何だか拍子抜けだわ。とにもかくにも任務完了って事で王都に帰還ね」


「王都には暫く戻るつもりはない」


 スヴェンが間髪入れずに王都に戻らない事を告げるとルイスは不思議そうに彼の顔を覗き込む。

 それに対しスヴェンは報告書に目を向けたまま彼女の疑問の眼差しに答えた。


「この報告書によればジャコブと内通していたウェパルと言う魔人はディープの姫のようだな。つまりディープという種族全体が魔人側に付いている可能性が高い。連中は『ティターンブリッジ』周辺に多数の根城を持っていて動きが活発だ。近々何かしらの行動を起こすはず」


「それに対応する為に暫くこの辺りで待機するって事ね」


「その通りだ。――それに他にも気になっている事がある。ジャコブを倒したという冒険者パーティだが、以前『ニーベルンゲン大森林』で魔人を討伐した冒険者と情報が似ている。だとしたら興味が湧かないか、ルイス?」


 スヴェンがソファの背もたれに体重を預けながら不敵な笑みを見せると、ルイスはやれやれといった表情で苦笑する。

 この少年は言い出したら気が済むまでやる性分なのを少女はよく分かっていたのである。


「――つまり、その冒険者たちと接触したいという訳ね。確かにジャコブを手に掛けた以上、彼等に話を訊く必要はあるわよね。でも当人たちはもうこの町にはいないでしょう。捜すにしても当てはあるの?」


「ここには二つの大陸を繋ぐ『ティターンブリッジ』がある。連中が活動していた『ファルナス』付近からここまで来たからには、当然橋を渡る事が目的なはず。そうであれば必ず道中の『アーガム諸島』に寄るだろう。そこに先回りして連中が来るのを待つ」


「分かったわ。でも、飛竜はしばらく休ませてあげましょう」


「そうだな。それなら行きたい所がある」


 執務室から出て騎士団施設の正面出入り口に向けて歩くスヴェンとルイス。彼等を遠目に見ながら兵士たちは小声で噂話をしていた。


「おい、あれが噂の勇者王子か。確か王位継承権はないんだろ?」


「ああ。何でも王様がめかけに産ませた子供らしいぜ。その妾は数年前に死んでそれからは城で育ったとか」


「それで王位継承権が無いから勇者になったって訳か。自分の居場所作りに必死だな」


「他の勇者は今でも王都で豪遊三昧の生活してんだろ? なのに末端とは言え王族自らがこんな所まで来るなんてなぁ。血筋に不純物が混ざるとああいう扱いになるんだな」


 周囲から聞こえてくるのはスヴェンを嘲る言葉の数々であった。ルイスが怒りの形相で声がする方に向かって行こうとするとスヴェンは彼女の肩を掴んで止めさせる。


「気にするなルイス。あいつ等が言っている事に間違いはない」


「でもっ!」


「他の連中の評価など俺は知らんし興味はない。俺は自分の信念に従い戦っている。ただそれだけだ。――行くぞ」


「ちょっとスヴェン、置いて行かないで」


 スヴェンとルイスは騎士団施設を後にし漁港に向かって歩いて行くのであった。

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