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旅路の始まり

 俺はアンジェの世界である『ソルシエル』へとやって来てしまった。

 どうやらあの魔法陣の効果範囲は予想以上に広く、俺はそれに巻き込まれてしまったようだ。


「申し訳ありませんでした。まさかこのような事態になるなんて。アラタ様が元の世界へ戻れる方法を必ず見つけますので、それまで辛抱していただけますか?」


「あ……うん。大丈夫、大丈夫、気にしないで。俺は大丈夫だから」


 アンジェは何度も俺に謝罪していた。

 一方の俺は最初の数分間はショックを受けていたが、段々冷静になってくるとこのファンタジーな世界観を楽しむ余裕が生まれていた。

 見たことの無い生物が時々走り去っていく。見るもの全てが新鮮だ。

 森の中は人の手が入った道が所々あり、近くに人が住んでいるはずとアンジェは言っていた。

 俺たちはとりあえずそこを目指して移動している。

 

「この森はアンジェが薬草を採っていた所じゃないってことか」


「そうですね。生息している生き物もかなり違いますから……あ、開けた場所に出るようですよ」


 森を抜けると平原が視界一杯に広がっていた。所々に林があり遠くには山々が見える。気持ちの良い風が駆け抜けて草木を揺らしている。

 この広大な大自然を前に俺は感動していた。そして幸運にも目標としていた場所も発見した。


「アンジェ、あそこに見えるのはもしかして」


「はい、町のようですね。思ったよりも近くにあって良かったです。太陽の位置からするともう少しで夕方のようですし、今日はあそこで休みましょう。ここが何処なのか情報収集もしなければなりませんし」


「分かった。それじゃ行こう」


 遠くに見えた町に向かって歩き出そうとした時、大切なことに気が付いた。俺はお金を持っていない。先立つものが無ければ宿屋に泊まるどころか夕食を摂ることすら出来ない。


「アンジェ……お金持ってる?」


「少しですが持ってはいます。ですが私も元々薬草採取のために出かけていたので、今晩の食事と宿屋代でほとんどなくなってしまうかと。ですので森の中を移動中に薬草やハーブ類を採取しておきました。これを道具屋に売れば多少は資金になるかと思います」


 森の中を歩いている時に彼女がそのように考え行動していたなんて気が付かなかった。それに比べて俺ときたらはしゃぐばかりで今後の事なんて全く考えていなかった。


「ごめん、こんな大事なことに全然気が付かなかった」


「気になさらないでください。元々、アラタ様がこのような目に遭ったのは私の責任なのですから。アラタ様が元の世界に帰られるまでは私が身の回りのお世話をさせていただきます。――本音を言わせて頂けば、アラタ様には何も考えず全てを私に委ねて欲しいのです」


「いや……さすがにそんなわけにはいかないよ」


「何故ですか!? 私が良いと言っているのですからいいじゃないですか。アラタ様には私がいないと生きていけないような、そう、アンジェリカ依存症な人間になっていただきたいのです」


「それ本気で言ってんの!? お前は俺をダメ人間にする気か!」


「だからそう言っているじゃないですか!」


 言い切った。こんなくだらないダメ人間育成計画を考えていると言い切った。本気で俺を養ってくれるつもりらしい。

 一瞬だけヒモ生活を送る自分の姿を考えたが、彼女にそんな重荷を背負わせるわけにはいかない。というか一回そんな楽な状況になったら俺は確実に人として終わる。


 とりあえず彼女に頼りっきりのヒモ男にならないように、今からでも町に着く間に何かお金になりそうな物はないか探してみよう。


 ――で、結局何も手に入らないまま町に到着してしまいましたとさ。


「…………」

 

「平原のあたりは地元の方が整備をされていますからね。珍しい物は中々見つからないでしょう。――えーと、ここは『マリク』という宿場町のようです。きっと必要な情報などが手に入ると思いますよ」


「……そうだね。気分を変えていきましょうかね」


 異世界生活はまだ始まったばかり。物事がうまくいかなくても焦る必要はない。ここから頑張ろう。前向きに考えよう。


 宿場町『マリク』の出入り口には屈強な男が四人立っている。外から来た人が町の中に入る際、小さな板のようなものを見せているようだ。


「あれは何を見せてるの?」


「身分証明のためのプレートです。私もちゃんと持っていますので安心してください」


 アンジェが銀色のプレートを見せてくれた。そこには日本語ではない文字で何か書かれていたが、意味はすんなりと理解できた。

 そこには彼女の名前や職業が記載されているようだ。このプレートは身分証明の他に昔で言えば手形のような役割をしているのか。


「俺はそのプレートを持っていないから町には入れないのかな?」


「そんなことはありませんよ。プレートを持っていない人は割といますし、そういった方はプレートを持っている人の所有物という立場で町に入れますから」


 所有物……俺はアンジェの持ち物ってことか。出来るなら俺も身分証明のプレートを手に入れて人間扱いされたい。

 そう思っているとアンジェが真面目な表情で俺を見ているのに気が付く。


「今のアラタ様はさしずめ私の恋の奴隷というところでしょうか」


「そういうセリフを恥ずかしげもなく言えるのは、さすがアンジェリカさんっすね」


 やっぱりアンジェはアンジェだった。しょうもない事を真面目に考え発信する。それがアンジェクオリティだ。

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