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マナギア~異世界で契約した銀髪メイドが魔剣だった件。魔人と戦う俺は生きた鎧へと変身し無双する~  作者: 河原 机宏
第六章 ティターンブリッジ

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港町の問題

「話には聞いていたけど実際に目の当たりにすると想像以上に圧巻だなぁ」


 町の港付近にある『ティターンブリッジ』の出入り口は非常に広大だった。

 幅が一キロメートルあるだけあって近くで見るとあれが橋とは気が付かない、陸続きのように思えてしまう。

 こんな桁外れに巨大な建造物を造るなんて異世界人の先輩方はとんでもない人ばかりだったんだな。


「それじゃ、早速行ってみるか」


 橋の出入り口には料金所が設けられている。

 一人当たり二万ゴールドかかるが、途中の宿屋代とかを考えなければこれだけで『カンパニュラ大陸』に行けてしまうので手頃な価格設定と言えるかもしれない。

 本音を言えば無料ただで通りたいところだが、橋の修繕費とか色々とお金はかかるのだろうしお布施の様なものだと考える事にした。


 『ティターンブリッジ』の料金所付近まで来ると、何やら人だかりが出来ている事に気が付く


「何かあったのでしょうか?」


 ルシアが言うと同時に人だかりに向かって行く。彼女はおっとりしているのだが割と行動力がある。

 ルシアに続いて俺たちも人だかりの方に言ってみると何やら男性の声が聞こえてきた。


「お願いです、助けてください!!」


 年齢は四十代ぐらいの人だろうか、その男性は冒険者らしき人物に懇願していた。 

 しかし、その冒険者は「先を急ぐので」と言うと男性を振り切って橋の料金所へと消えて行った。

 一人残された男性は地面に突っ伏したまま動かなくなり、集まっていた野次馬たちも興味を失ったらしくその場から散って行った。


「途中から話を聞いたから事情が呑み込めないな」


「それでしたら近くにいた方に聞いてみたので大丈夫ですよ」


 笑顔で答えるルシアの行動力の高さに改めて驚かされる。


「あの男性はこの町の漁師さんらしいんですけど、一ヶ月程前から海に巨大な魔物が出るようになって漁が出来なくなってしまったらしいんです。漁で生計を立てている人は他にも沢山いて、皆さんで冒険者に声をかけているんですけど……」


「さっきの冒険者のように相手にしてくれなかったってわけか。でもどうしてわざわざ取りすがりの冒険者に頼むんだ? この町の冒険者ギルドに依頼すればそれで済む話なんじゃないの?」


 すると以前この町に来たことがあるトリーシャが事情を説明してくれた。


「ここ『カボンバ』は『アストライア王国』の重要都市の一つで町の行政を取り仕切る執政官と騎士団がいるのよ。それで王国の支配体制が強くて各ギルドはこの町には存在しないの。だから、ここで問題が起きれば執政官に報告がいってその命令で騎士団が動くはずなんだけど、どうやら状況がおかしいみたいね」


「なるほど、じゃあ本人に聞いてみるのが一番手っ取り早いな」


「おいおい、良いのかよ。これって確実に面倒事になるパターンだぞ。それに――」


 ロックが目で合図した先には料金所の兵士がいた。明らかに俺たちを警戒している様子だ。


「話を聞くならここから離れた方がよさそうだぜ」


「……その言葉を聞いてお前がどうしたいのかがよく分かったよ。――すみません、ちょっと詳しい話を聞かせてもらってもいいですか?」


「えっ……?」


 うな垂れている男性に近づき声をかけると驚いたのか物凄い勢いで顔を上げたので俺たちも驚いてしまった。

 男性と一緒にこの場から離れると彼が家族と暮らしている漁港の方に案内してもらった。そこに行けばこの町の住人が直面している問題が分かるという事だった。

 そして、彼の言葉の意味を俺たちは間もなく理解する事になる。


 子供の頃、家族で漁港に行ったことがある。そこの市場では朝に運び込まれた新鮮な魚介類が沢山並べられていて働いている人たちも活気に満ちていた。

 俺の中では漁港はそういう活気づいた場所だというイメージがあったのだがここは違っていた。

 

 桟橋には船が沢山繋がれていて、漁に出られていない事が分かる。

 市場ではほとんどの店が閉まっていて例え開いていたとしても並べられている魚介類の数が少ない。

 市場がこんな状態なので当然ここを訪れる客もいない状況だ。


「これが今の『カボンバ』の裏の姿です。一ヶ月程前からこの付近の海域でクラーケンが現れるようになって、私たちは漁に出られなくなったんです」


「執政官には伝えたんですか?」


「もちろんすぐに伝えました! でも、そんな危険な魔物の為に貴重な騎士団を出すわけにはいかないと言われてしまって。それで最寄りの町の冒険者ギルドにも依頼を出したんですが、それも拒否されてしまってどうしようもなくなってしまったんです。だからあとはこの町に来た冒険者の方に直接お願いするしかないと行動したんですが……それも全然駄目でした」


 漁師の男性ロッシさん達が取った行動は至極当然のものだった。それにしても、こういう時に動かない執政官や騎士団の在り方に苛立ちを覚える。

 それに納得のいかない事は他にもある。


「執政官や騎士団はこの際一旦置いておくとして、どうして冒険者ギルドも動かなかったんだろう?」


「恐らく『アストライア王国』側から圧力があったものと考えられます。この件は王国側で解決するとでも言ったのでしょう。それと、相手がクラーケンとなれば海上での戦いになります。船を用意しなければなりませんし、敵のテリトリー……しかも身動きの取り難い状況で苦戦は必至です。おまけにギルドの依頼でない以上、討伐したとしても冒険者が得られる利益は魔石だけです。その魔石も回収し損ねたら旨味はゼロになってしまいますし」


 アンジェが状況を分かり易くまとめて説明してくれたお陰で合点がいった。


「――つまり、クラーケン退治にはハイリスクに対するリターンがほとんどないって事か。だから皆依頼を受けようとしなかったんだな」


「それに加えて、『アストライア王国』側から目をつけられる可能性が高いです。リターンはないどころかマイナスと言っても差し支えありません。計算が出来る冒険者であれば、まずこの依頼を受ける事はないでしょうね」


「く……うう……」


 会話を聞いていたロッシさんは力なくうな垂れてしまう。近くで話を聞いていた漁港の人々も同様に暗い顔をしている。

 アンジェが言った事は残酷かもしれないが真実だ。

 このまま通りすがりの冒険者にクラーケン討伐を求め続けても、応じてくれる人物はいないという現実を伝えたのだ。

 しかし、俺を見つめるアンジェの目はこう言っている。「それでは如何いたしましょうか?」と。


「……そう言えばトリーシャは以前この町に来たことがあったよな。漁業が盛んだっていうだから、当然魚介類は食べたんだろ?」


「当たり前でしょ? お魚が新鮮で美味しくて、つい連泊しちゃったわ」


「そうか……実は俺、肉以外にも刺身が大好物なんだよね。せっかく港町に来たんだし色んな種類を沢山食べたいと思ってたんだ。でも、それって新鮮な魚じゃないと無理だし漁で大量に獲れないと実現しないと思うんだよね」


 俺が言うと皆がニヤリと笑った。すると次々に皆も刺身を始めとする魚料理が食べたいと言い出した。

 この会話を聞いていたロッシさん達は呆然としながらもゆっくりと顔を上げる。


「――という訳で、俺たちがクラーケン退治の依頼を引き受けます。ただし、慈善事業ではないので当然報酬は貰います。報酬内容は漁で獲れた魚介類を使った料理でお願いします!」

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