リシュウの餞別
集合場所である正門に行くと既にロックとレオが待っていた。
「ロック、レオ、おはよう」
「おう、おはようさん。晴れて良かったな」
「オイラ達もさっき来たところだよ。あと先客が来てるよー」
レオが指し示した先には『クロスレイド』の人達が何人か来ていた。それは以前ガーゴイルと戦った時のメンバーだ。
彼等の先頭にはクランマスターのリシュウ爺さん、アシェンさん、コウガイさん、ルルさんがいた。
「よう、今日が出発だと聞いていたからな。見送りに来てやったぜ」
「ありがとう爺さん、それに皆さんも……しばらく『ファルナス』を留守にしますが、用事が済んだら戻ってきます。その時はまたよろしくお願いします」
「その時はうちで宴会でも開こうとするかね。アラタ達の旅の話を楽しみにしてるよ。それと――トリーシャ、あまり仲間に迷惑をかけるんじゃないよ」
「大きなお世話よ。ってか、いつ私がアラタ達に迷惑をかけたってのよ」
釘をさすアシェンさんをトリーシャが睨む。この二人は製作者が同じであり姉妹の様な関係だ。
トリーシャ自身本気で迷惑がっている訳ではなく身内からの心配に少し照れているみたいだ。
「少し前に『ブラッドペイン』に多額の借金をして返済を肩代わりしてもらったのはどこの誰だった?」
「――うぐっ!」
そう言えばそんな事もあったな。痛い過去を指摘されトリーシャはばつが悪そうだった。
その一方では、ルルさんとセレーネが話をしていた。この二人もまた製作者が同じな為か頻繁に会ってお茶をする程仲が良い。
「それでは行ってらっしゃい、セレーネちゃん。何か忘れ物はない?」
「そこは抜かりないですわ。旅の道中で必要な物は皆でチェックしましたから」
確かにその通りだ。最も主にチェックをしていたのは俺とアンジェとルシアだったのだが……。
ふとルシアを見ると彼女は別れを惜しんでいるトリーシャ達を羨むような、それでいてどこか寂しそうな表情で見つめていた。
「どうしたの、ルシア? 何か思う所でもあった?」
「アラタさん……その、彼女たちを見ていたら私の姉妹たちを思い出してしまって」
「確かルシアの姉妹たちは『アストライア王国』にいるんだよね?」
「……ええ。私の姉妹の多くは『アストライア王国』を興した魔闘士やその仲間と契約していて、その流れで王国が選抜した代々の勇者と契約をするようになっていったんです。戦後剣の状態で封印されていた私も王国に回収されて、そのまま何百年も宝物庫で保管されていました」
「それで数年前に封印が解けて、契約のいざこざに嫌気がさして城を出たんだったよね」
「その時は精神的に不安定だった私を心配した姉さまが送り出してくれたんですけど、妹には何も言えずに出てしまったんです。いつかあの子にはちゃんと謝りたいとは思っているんですけど今は状況的に難しくて……トリーシャちゃん達のやり取りを見ていたら、その姉妹の事を思い出してしまって……」
「そうか……いつか再会できるといいね」
「はい」
『アストライア王国』の勇者たちが聖剣であるルシアに固執している以上、迂闊に接触は出来ない。
今後は勇者関連の情報に注意してルシアと彼女の姉妹が再開できるような状況を作ってあげたい。
「何か考え事をしているようだな」
いきなり声を掛けられたので驚くと、その声の主はリシュウ爺さんだった。手に持っていた布で巻かれた物を俺に投げたのでそれをキャッチする。
「これは?」
「餞別だ。持って行きな」
布を解いてみると中にはナイフが入っていた。鞘から引き抜いてみると、鍔の部分に赤いエナジストが嵌められている以外は特に装飾のない無骨なナイフだ。
しかし肝心の刀身は研ぎ澄まされていて、腕の良い鍛冶職人によって鍛えられた物なのが分かる。
「こんなに良い物を貰っちゃっていいの?」
「構わんさ。そのナイフは以前お前たちが倒したアダマンタートルから採取したアダマント製だ。それを持つのにお前以上に相応しい奴はいねえだろ。嬢ちゃん達が近くにいないときは丸腰になっちまうからな。護身用として持っとけ」
「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
ナイフを鞘に戻して腰に装備した。そう言えばこうして常に武器を携帯していた事は無かったので何だか新鮮な気分だ。
「中々様になってるじゃねえか。しかしロックとレオがお前等とパーティを組むとはな。俺が目をつけていた連中が揃って何かを始めるのは興味深いもんだぜ。詳しい事情は知らんが頑張れよ」
「ああ。爺さん達も身体に気を付けて」
こうして俺たちは『クロスレイド』の皆に別れを告げて『ファルナス』を後にした。
その後は最初の目的地である『アーガム諸島』を目指し『レギネア大陸』の東端にある街『カボンバ』に向かった。




