異世界人たちの足跡
ロック達とパーティを組んで数日後、俺たちは冒険者ギルドの支部長室に来ていた。
以前依頼していたアンジェ達のかつての契約者――つまり千年前に召喚された異世界人たちの足跡に関して調査が終了したと連絡があった為だ。
「お忙しい所お呼びだてして申し訳ありませんでした。例の調査が終了したので説明をしたいのですが、彼等も一緒でいいのですか?」
支部長のリクルートさんがちらっと視線を向けた先にはロックとレオがいた。
二人は俺が異世界人である事を知っているし、今後行動を共にするので一緒に話を聞いてもらった方がいいと思ったので同席してもらった。
「ロックとレオとはパーティを組んだので二人にも聞いて欲しいと思いました。ですから大丈夫です」
「そうですか。分かりました、それでは早速調査結果を報告します。――まず結果から言いますと彼女たちの元マスター達は戦争終了後、『ソルシエル』中を回っていたようで、世界各地に彼等に関係する文献が残っていました」
どうやら異世界人たちは、少なくとも戦後しばらくはこの世界に残っていたようだ。
それにしても世界中に手がかりがあるのは嬉しい反面、今後自分たちで調べるとなると選択肢が多すぎて悩む。
「その中でも、四ヶ所なんですが彼等に関係していながらも内部調査が不可能だった建造物があります。その四つは特殊な石で組み上げられた立方体の建物で材質形状ともに全く同じものでした」
説明しながらリクルートさんが魔力で投影した写真をテーブルの上に置く。話の通りに黒いキューブ状の建造物が写っている。
「この四つの建造物には入り口が無く中に入る事が出来ませんでした。現地の住人に確認したところ、いずれも千年ほど前から存在しており異世界人により造られたとのことです。そして、それぞれ同じ言い伝えが残っていました。――『四人の剣姫集いし時、閉ざされた扉開かれん』というものです」
「それってつまり――」
言いかけてアンジェ、ルシア、トリーシャ、セレーネの四人を見る。彼女たちと目が合うとアンジェが口を開いた。
「恐らく私たち四人の事を指しているのだと思います。その言葉通りなら私たちがその場に行けば扉が現れて中に入れるという事でしょう」
「こんな手の込んだ物……中には何があるんだろう?」
「それは分かりかねます。あの方たちが考えている事は正直理解しかねる部分が多かったものですから。ですが、何の意味も無く造った物ではないはずです。行ってみる価値は十分にあると思います」
アンジェがそう言うと他の三人も頷く。
これでようやく『かつての異世界人の足跡を辿り元の世界に帰る手段を見つける』という冒険者になった目的の為に動き出す事が出来る。
俺たちの意志が固まったのを見てリクルートさんがこの四つの建造物の場所について説明を始めた。
そのためにテーブルに『ソルシエル』の世界地図が広げられる。
「この建造物は先程も説明したとおりに『ソルシエル』の四ヵ所に存在します。一つは『アーガム諸島』、二つ目は東の『カンパニュラ大陸』、三つ目は南の『フィットニア大陸』、四つ目は北の『ダリア大陸』にあります。詳細は追って説明しますが、大まかにはそのように分布しています。ここから一番近くにあるのは、一つ目に紹介した『アーガム諸島』の物になります」
リクルートさんが地図で位置を確認しながら説明してくれたので分かり易い。
今、俺たちがいるのは西の『レギネア大陸』の東側なのだが、『レギネア大陸』と『カンパニュラ大陸』の間には二千キロメートルにも及ぶ『ティターンブリッジ』という超巨大な橋が架けられていて、陸路で行き来が可能になっている。
『ティターンブリッジ』上には幾つか宿場町が設けられており、更に道中には複数の島からなる『アーガム諸島』があり、橋の途中で降りられるようになっている。
「地図を見た感じだと、まずは『ティターンブリッジ』を経由して『カンパニュラ大陸』を目指すルートが良いみたいね。これで目的の二ヶ所を通過できるわ」
「そうだね。トリーシャの言うルートならまっすぐ一本道になるから分かり易い」
俺も他の皆も異論はなく、『カンパニュラ大陸』にある建造物まではこのルートで進む事になった。
「それじゃ、まずは『ティターンブリッジ』を目指そう。旅の準備をして数日内には出発しよう」
出発日の予定を立てると皆が了解した。その後も異世界人ゆかりの場所について話を聞き、旅の途中で寄ってみることにした。
この中でも驚いたのは先程話題になった『ティターンブリッジ』だ。この超ド級サイズの橋建造には、アンジェ達の元マスターが関わっていたらしい。
彼等の力と当時高度に発達していた錬金術、それに魔術や建築技術を結集して僅か十年程で橋は完成した。
それから千年間、時々修理や増築などが行われ今もなお存在しているのだ。
この橋のお陰で二大陸間の人や物資の移動が非常に楽になったらしく世界史に残るほどの偉業だったようだ。
――しかし、この橋建造の功労者であった異世界人の存在は表向きには知られていない。
あくまで『ソルシエル』の住人のみで成し得た事だと一般的には教えられている。
おまけにその最大の功労者として、当時『ティターンブリッジ』建造ではほとんど関わりの無かった『アストライア王国』の名がある。
当時、まだ建国されたばかりの『アストライア王国』が他国に対して自国の力を示す為のネタとして利用されたのだろうというのが真実を知る者たちの考えのようだ。
「リクルートさん、ありがとうございました。それでは俺たちはこれでお暇させていただきます」
皆で会釈して部屋から出て行こうとした時、リクルートさんが俺たちを引き止めた。
「皆さん、この調査に関して情報が漏れないように注意はしていますが、各ギルド内で色々とやり取りをした為、情報の機密性は保証しかねると言うのが実情です。この件が『アビス』側に盛れている可能性もあります。道中どうかお気をつけて」
「アドバイスありがとうございます。もしも、そうなれば返り討ちにするだけです。――それじゃ、失礼します」
こうして冒険者ギルドの建物を出た俺たちは旅に向けて準備を始めるのであった。




