新たなる依頼
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戸建てを購入してから数日後、俺たちはリクルートさんに呼ばれ冒険者ギルドの支部長室へと来ていた。
「突然お呼び立てして申し訳ありません。実はあなた方にお願いしたいことがありまして……」
それは一ヶ月前に『ニーベルンゲン大森林』に入ったきり帰って来ない冒険者の捜索依頼だった。
捜索対象は銀等級の冒険者二名。一人はロック・オーガンという俺と同い年の少年。
もう一人は彼のアルムスで見た目は十代前半ぐらいのヒューマの姿をした少年で名前をレオという。
彼等はゴブリン退治の依頼を受けて同ダンジョンに入ったのだが、それから一ヶ月以上経過しても帰って来なかった。
本来なら二、三日で達成できる依頼だったので状況的に失敗した可能性が高い。
そのため生死をはっきりさせる為に彼らを救出するか、または彼等の所持品を見つけて欲しいというものだった。
「既にこの依頼は他の冒険者にも依頼をしていたのですが、結局両名の姿どころか持ち物すら見つけられませんでした。今までは彼等が依頼を受けたゴブリン種多発区域をメインに捜索をしていたのですが、ダンジョンのさらに奥へと進んだ可能性があります。――そこで、アラタさん達のパーティにお願いしたいと思ったのです」
「えーっと、それってつまり『ニーベルンゲン大森林』のゴブリン種多発区域よりも奥に進んで捜索して欲しいってことでいいですか?」
「はい、その通りです。ゴブリンが多発するエリアを抜けると今度はオーク系の魔物が頻出するエリアになります。オーク、ハイオーク、それにオーガといったパワータイプに加えて、引き続きゴブリン系も現れます。単体なら脅威ではありませんが、それらは必ずと言っていいほど集団で行動しています。おまけに先日のダンジョンブレイクの影響でダンジョン内の魔物が活発化しています。そのため実力のある冒険者にしか頼めないのです」
「なるほど……」
信頼してもらえるのは嬉しい事ではあるが、捜索範囲がとにかく広いので長丁場になる可能性が高い。
それに俺たちは、このダンジョンにそんなに慣れているわけではない。まだ入り口からちょっと進んだ大型植物のエリアで大暴れしただけだ。
『ニーベルンゲン大森林』は、とても広大なダンジョンだ。
第一層の巨大植物区域、第二層のゴブリン種多発区域、第三層のオーク種多発区域、第四層の昆虫種多発区域、第五層の大型種出現区域というふうに分けられている。
第一層なら初心者冒険者でもなんとかなるが、それより奥に行けば行くほど出現する魔物は凶暴になっていくため攻略難易度が一気に跳ね上がる。
だからこの依頼を受けるかどうか慎重に考える必要がある。そう思っているとアンジェたち四人の様子が少し変だった。
二人の捜索者のうちレオという少年の写真をまじまじと眺めている。ちなみに『ソルシエル』は『地球』とそこまで文明レベルに差はなく写真とかも普通にある。
なんか魔力で投影しているとか言っていたが具体的にはよく分からない。
「四人ともそのレオってコがどうかしたの? もしかして知り合いとか?」
「知り合いと言うか……このレオは私と製作者が同じでして、弟のようなコなんです」
「えええっ! アンジェの弟!?」
写真にはやんちゃそうな男の子が写っている。
アンジェのクールなイメージとは似ても似つかないのだが、アルムスでいう兄弟は人間のものとは意味合いが異なるので似ていないのも当然か。
そのレオについては他のメンバーも面識があった。
「魔人戦争の際にわたくしたちと一緒に戦っていたからよく覚えていますわ。かなり強力なアルムスでしたけれど、スカートめくりの常習犯でしたわね」
「あー、私もやられたわね。この私とスピード勝負できるすばしっこいお子様だったわね。確かルシアにかなり懐いていなかった?」
「私はレオ君にスカートめくりされたことは一度もありませんでしたよ? 私が作ったご飯をいつも美味しいって言って食べてくれた可愛い男の子でした」
それってつまり餌付けされていただけでは。しかし、スカートめくりが趣味とは小学校の悪ガキみたいだな。
ふとアンジェの様子を見ると表情が暗い。やはり弟と言うだけあって彼のことが心配なのだろう。それなら――。
「分かりました。この依頼、俺たちで引き受けます」
依頼を了承するとリクルートさんは安堵した様子を見せていた。
「ありがとうございます。無理を言って申し訳ありません。必要物資などについてはこちらで用意いたしますので必要な物があれば仰ってください。それと――」
「それと?」
「例の件なのですが、各ギルドに問い合わせをしたところ幾つか情報が入ってきまして」
「本当ですか!?」
それは俺が冒険者になろうと考えた動機の一つであり、元の世界へ帰る手がかり――アンジェ達の元契約者たちの足跡の件だった。
ダンジョンブレイク時の追加依頼を受ける際の条件で、住宅関係以外にも彼等のその後の情報が欲しいとお願いしていたのだ。
何かしら情報が入ればラッキーくらいにしか考えていなかったが、まさかこんなに早く判明するなんて思わなかった。
「ええ、どうやら『ソルシエル』中の至る場所で彼等と思われる伝承が残っているようなのです。現在はその情報を整理しているところなのでお知らせ出来るのはもう少し先になると思います」
俺も皆もリクルートさん達の仕事の早さに驚くばかりだ。しかし、これでこの先どう進めばいいのか見えて来た。
「ありがとうございます。それでは俺たちは準備が終わり次第、行方不明者捜索のためダンジョンに入ります!」




