今後の話し合い②
「確かに『アストライア王国』の戦力は侮りがたいものです。しかし内面では貴族至上主義による選民思想が蔓延し平民の生活は困窮しています。それに加えて、近年選ばれる勇者は貴族出身者に限定されていています。つまり勇者の多くは平民をないがしろにすることを厭わない考えの持ち主ばかりなのです。――これがどういう事か分かりますか?」
「つまり、村や町が魔物に襲われても勇者は動かないって事ですか?」
リクルートさんは首を縦に振り肯定した。
マジかよ、これがこの世界で言う勇者の本質なら全く期待なんて出来ないじゃないか。
「これが現実なのです。騎士団や勇者が動くのは基本的に王都周辺のみ。ここ『ファルナス』のような王都から離れた場所はその庇護を受けられません。それ故にこの付近の村や町の住人は私財を削り冒険者ギルドに魔物の討伐依頼を出しているのですよ」
そう言われれば『マリク』でも騎士団が来たとかそういう話を聞いたことが無かった。イビルプラントのような危険な魔物が出たという報告がされたにも関わらずだ。
考えれば考えるほど、この世界の平民階級の安全は守られていないのだと思わされる。
「そこで『アストライア王国』が目をつけたのが地方で活躍する実力ある冒険者なのです。裏で冒険者を支配下に置き任務を与え実行させる。その見返りとして破格の資金を提供する。もし、魔人を倒すほどの冒険者がいると分かればアストライアはあらゆる手段を使って従わせようとするでしょう」
「それで俺たちが魔人を倒したという事実を隠す事にしたんですね。もしそれが公になれば国が圧力をかけて来ると分かっているから」
「その通りです。アストライアは貴族である勇者を危険から遠ざける為に冒険者を利用する事を何とも思っていません。魔人活性化の件についても積極的に動いたという話も聞いた事がありませんし。ですから私たち冒険者ギルドは彼等から優秀な冒険者を守りたいと思っているのです。……いや、違いますね。正確に言えば戦う力の無い人々の為に戦って欲しいと切実に思っているのです」
ついさっきまで温和な表情をしていたリクルートさんは、今や切羽詰まった様子で話していた。
これこそ冒険者ギルドが冒険者に望んでいることなのだろう。
「リクルートさん、説明してくれてありがとうございました。俺は……いや、俺たちはアストライアの小間使いになんてなる気はさらさら無いですよ。だって冒険者は〝自由〟がモットーでしょ? 自分が戦う理由や相手は自分で見定めます」
「良かった。きっとアラタさんなら分かってくれると思いました。何といっても、あのリシュウさんが太鼓判を押す人物ですからね。それに北門での戦いの時に実際に応対してみて信頼のおける人物だと思いましたから」
何というか持ち上げられている感が物凄い。他人に信頼されるのは嬉しく思うけれど、ここまで言われるとさすがに照れくさい。
それにしてもリシュウ爺さんもそんな風に俺を評価してくれていたのか。
「あの……照れるんであまり褒めないでください。すんません」
「ははは、分かりました。それでは称賛の言葉よりも現実的な話にいきましょうか。『クロスレイド』救援の依頼を受けていただいた際の契約通り、あなた方の冒険者ランクはあの時点を持って鉄から銅等級に上がりました。それで無事依頼を達成されたという事で、さらにランクを一つ上げて皆さん全員を銀等級冒険者とさせていただきます」
「ええっ、全員銀等級!? それ本当なの?」
「これは凄いですよ。これで私たちは一人前の冒険者として認められたという事になります」
全員銀等級に昇格という報酬にトリーシャとルシアは信じられないという反応をしている。
冒険者になったばかりの俺やメイドのアンジェとセレーネは、この待遇の凄さがよく分からない。
そのため興奮しているトリーシャを置いておいてルシアが冷静に努めて話してくれた。
「えーっとですね。冒険者のランクは鉄から銅へは早い人で一ケ月ぐらいで昇格できるんですけど、それ以降はどんなに早くても昇格には一年以上はかかるんです。ですから、この昇格処置はかなりの好待遇なんですよ。それに依頼は金と銀等級の難易度が特に多いんです。つまり冒険者ランクが銀等級になる事で受けられる依頼の種類が爆発的に広がるんです!」
説明中、ルシアもヒートアップしていき顔が真っ赤になっていた。つまり、冒険者として下積み時代と言える鉄と銅等級を一気に飛び越えてしまったという事らしい。
「それだけじゃないわ。難易度金の依頼はかなり報酬が良いから、これを着実にこなしていけば生活がかなり良くなるわ。……諦めずに冒険者を続けてきてよかったぁ!」
トリーシャはかなり嬉しかったらしく目が潤んでいる。
俺としても受けられる依頼の数が増えるのは嬉しい。ここはありがたくこの報酬を戴こう。




