今後の話し合い①
治療を終え医療施設を出ると、正面出入り口には何十人もの強面の男たちが立っていた。
これは何の集会なのかとビビッていたら、リシュウ爺さんが男たちに近づいて行き声を掛ける。
「おう、お前ら心配かけたな。この通り、怪我もすっかり治った。今日からまたよろしく頼むぜ!」
労いの言葉を掛けると男たちは喜んだり感激したり、中には泣き出す者もいた。
どうやら『クロスレイド』の冒険者たちのようだが、皆相当爺さんに心酔しているみたいだ。
それにコウガイさんの周りにも人が集まっている。彼等のクランの中心人物の退院だからこれだけ大勢の人が集まったのだろう。
俺とアンジェ達が少し離れた所でその様子を見ていると爺さんがこっちの方に振り返る。同時に何十人もの冒険者が俺たちを見たのでちょっと怖かった。
「俺たちはホームに帰るぜ。てめえらは確か冒険者ギルドに行くんだったな。落ち着いたら、うちのホームに顔を出しな。じゃあな!」
「今度お邪魔させてもらうよ。それじゃあ!」
リシュウ爺さんはアシェンさんや多くの冒険者を引き連れ『クロスレイド』のクランホームへと帰って行った。
コウガイさんやルルさんは俺たちに軽く会釈をすると爺さんの後を追って行った。
クランホームとはクランに所属する冒険者たちが集う家のようなものだ。『クロスレイド』はメンバーが多いのでかなり立派な建物らしい。
「それでは私たちも行きましょう。リクルートさんが冒険者ギルドで待っているはずです」
ルシアに促され俺たちも目的地に向かって歩き出した。
数日振りに冒険者ギルドを訪れると相変わらず大勢の冒険者が殺到していた。依頼を受けに来たり、依頼を終えた者が報告と報酬を受け取りに来ている。
沢山の人でごった返した中を進んでいくと、何人もの冒険者が俺たちに気が付き声をかけて来た。
「おおっ! 兄ちゃん達はアダマンタートルをぶっ飛ばしたパーティだろ? あの後『ニーベルンゲン大森林』に行ったって聞いてたけど無事に戻って来たんだな」
「俺たちもあの戦場にいたんだが、兄ちゃんの炎の体当たりは凄かったぜ。あんた等のお陰で皆助かった。ありがとな!」
それからも何人もの冒険者に称賛されたりお礼を言われ、驚いて突っ立っているとアンジェが指で俺の腕を軽く突いてくる。
「この称賛はアラタ様があの時、死力を尽くして戦った結果です。立っているだけでも何ですし答えて差し上げるのがいいかと思います」
「あ、そうだね。確かに」
こうして他の冒険者と交流をしていると自分もまた冒険者になったのだと実感してくる。
強面のおっさん達も話してみると意外にも楽しい人や親切な人が多かった。
しばらく彼等と話していると受付嬢の一人がやって来て、俺たち五人を二階にある支部長室へと案内してくれた。
ドアをノックすると中から「どうぞ」と声がする。受付嬢がドアを開けると部屋の中ではリクルートさんが椅子から立ち上がって俺たちを迎えてくれた。
「支部長、ムトウ・アラタ様パーティ御一行をお連れしました」
「ありがとう。すまないが人数分の飲み物を用意してくれないかな?」
「かしこまりました」
受付嬢がその場から退席するとリクルートさんが室内にあるソファへと案内してくれる。
この人は外見も中身もまさに紳士的であり、その一つ一つの所作が板についている。俺もこの人と同じくらいの年齢になれば、こんなダンディーな感じになれるのだろうか。
支部長室の室内には奥に支部長専用デスクが設置されていて、その手前に応接用のテーブルとソファが置かれている。
俺たちはソファに座り、その対面側のソファにリクルートさんが座った。
間もなく先程の受付嬢がお茶を持ってきて応接テーブルに置いて部屋を後にする。
「まずは退院おめでとうございます。そして、『クロスレイド』の冒険者を助けていただきありがとうございました」
リクルートさんが深々と頭を下げたので慌てて頭を上げてもらうようにお願いした。
「頭を上げてください。俺たちは依頼をこなしただけです。それに医療施設にも無料で入院させてもらったし、お礼を言うのはこちらの方ですよ」
「――ですが、あの時こちらが依頼した内容には〝魔人討伐〟などというものは無かったでしょう」
「それはそうですけど」
魔人であるガーゴイルとの戦いは一般には知らされていない。強力な魔物がいてリシュウ爺さん達と俺たちとで協力して倒したという話になっている。
あの件をこういう形で収束させたのは、他ならぬ目の前にいるリクルートさんだ。無用の混乱を避けるための処置らしい。
実際にあの場にいた者たちには口外しないようにとのお達しがあった。
「その魔人の件についてですが、本来なら直接討伐したあなた方をギルドを上げて称えるところです。それを今回のように秘匿したのも重ねて申し訳なく思っています。ですが、これも今後のあなた方の事を考えての処置なのです」
俺は今一ピンと来なかったが、アンジェ達は納得した顔をしている。一人要領を得ない俺に気が付いたトリーシャが説明してくれた。
「私たちが魔人を討伐したという話が広く知られると、色んな連中に絡まれやすくなるのよ。嫉妬する者、利用しようとする者、その他にも色々とね。実際に魔人戦争の時にも権力者とかが接触してきたわ。他を犠牲にしてでも自分達を守れとか言ってね」
「――なるほど。今回もそういう状況になるかもしれないって事か」
「その通りです。実際に水面下ではクラン『ブラッドペイン』が色々と探りを入れて来ていますし、ギルド関係以外にも目を光らせておく必要がありますからね」
それってもしかして――。
「『アストライア王国』……ですね」
その名を口にしたのはルシアだった。彼女は長年にわたり王国の首都『アストライア』の『アストライア城』で封印保管されていた。
封印が解けると王国に所属する勇者たちがルシアを自分の物にしようといざこざを起こした為、それを嫌がった彼女は城から出奔しマーサさんと宿屋をしていたのだ。
「その通りです。『アストライア王国』は、魔人戦争で活躍した魔闘士が興した国です。現在では、絶大な戦力を誇る騎士団の力によってこの『レギネア大陸』全土を統一しています。さらに独自の方法で選抜した勇者を複数有しており、その存在が王国の力を強める要因となっています」
「俺もある程度は知っています。それだけの力を持つ『アストライア王国』なら自前の戦力だけで十分強いじゃないですか。冒険者をどうこうしようなんて思っていないんじゃないですか?」
俺の問いかけに対しリクルートさんは首を横に振る。ルシアも彼と同様にその表情は重いものだった。




