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マナギア~異世界で契約した銀髪メイドが魔剣だった件。魔人と戦う俺は生きた鎧へと変身し無双する~  作者: 河原 机宏
第四章 鎧闘衣――マナギア

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ツンデレのデレは素直になった瞬間

 ガーゴイルとの死闘から三日が経過し俺は意識を取り戻した。

 気絶した後、俺は『クロスレイド』の冒険者に担がれて『ファルナス』に戻って来たらしい。

 ダンジョンブレイクが起きていた『ニーベルンゲン大森林』は原因となっていたガーゴイルが倒された事で沈静化し現在は落ち着いている状態だ。

 『ファルナス』に大きな被害は無く、森で戦っていた『クロスレイド』の冒険者たちも全員無事に帰還し事なきを得た。


 俺は現在冒険者ギルド直営の医療施設で休ませてもらっており、別の部屋ではリシュウ爺さん達も休養していた。

 部屋は個室で、どうやら冒険者ギルド『ファルナス』支部長のリクルートさんの計らいらしい。


「アラタ様、りんごをどうぞ。はい、あーん」


 アンジェがりんごを切り分け、ベッドに座る俺の口元に運んでくれる。しかも「あーん」のおまけ付きだ。

 少々気恥ずかしいけどせっかくだし、ちょっと憧れのシチュエーションでもあったので素直に従いたいと思います。


「あ、あーん……もぐもぐ……ごくん。美味でございます」


「うふふ、次をどうぞ。あーん」


 その時ちょうどトリーシャが部屋に入って来て、俺たちのやり取りを目を細めて見ていた。


「何をいちゃついてるのよ、あんた達は」


「あうんっ!? ごほつ、げほっ、ぶほっ!!」


 突然の来訪者に恥ずかしいところを見られたので驚いて変な声が出てしまった。むせ込む俺の背を優しく叩きながらアンジェがトリーシャをたしなめる。

 

「トリーシャ、私とアラタ様のイチャイチャパラダイスタイムに介入するとは感心しませんね。それともあなたも交ざりますか? 交ざるなら『あーん』は必須科目ですよ」


「そんな恥ずかしい事やらないわよ。ってか何よそのイチャイチャなんたらって」


 口では「やらない」と言いながらもトリーシャはベッドサイドまでやって来て、切り分けられたりんごと俺を交互に見る。

 少しして意を決したのかりんごにフォークを刺すと俺の口元に持ってきた。


「しょ、しょうがないわね。ほら、あ……あーん……」


「それはやらないのではなかったのですか?」


「サービスよ。一応、私のマスターなんだし。それに借金を返してくれたし。……別に興味があったとか、そんなんじゃないからね。特別よ、特別!!」


 顔を真っ赤にしながら弁明するトリーシャを見てアンジェはクスクス笑っている。なんつーテンプレなツンデレだ。

 この申し出を無下に断る理由は無い。ツンデレさんがデレている瞬間は大切にしたいと思うのだ。

 だって、デレている瞬間は素直になっている時だと思うから。そういう訳でいただきます。


「あーん、もぐもぐ……ごくっ。瑞々しくて美味しいよ」


「そ、そう? それならもう一個どうぞ、あーん」


 まさかの連続だった。今のトリーシャはデレのゾーンに入ったようだ。しかし、この状況を快く思わない人物がすぐ近くにいた。


「連続はずるいですよ。今度は私の番です」


 アンジェが頬を膨らませて別のりんごを俺の口元へ運んでくる。眼前でりんご同士のぶつかり合いが始まった。


「別にいいでしょ、減るもんでもないし」


「減ります。私がアラタ様に『あーん』するりんごが減るんです!」


「りんごが無くなるなら新しいりんごを用意すればいいじゃない!」


「トリーシャ、あなたって人は――!」


 トリーシャが何か滅茶苦茶なことを言っている。アンジェなんか、そのアホな発言にびっくりして目をぱちくりさせている。

 ここはアンジェ先生の説教でトリーシャの思考回路を何とかしてもらうしかない。先生頼みます。


「――天才ですか! 確かにそれなら無限に『あーん』ができますね。早速次のを用意しましょう」


 先生!? ちょっと待って、新しいりんごを切り始めないで、皮剥かないで! 違うよ、そうじゃない。

 そりゃ確かに美味しいけどさ、無限に食べられないよ。だって今肉を食べたいし。身体が果実よりも動物性たんぱく質を欲しているんだ。


 そう心の中で叫んでいると間もなく綺麗に切り分けられたりんごが皿に並べられてやって来た。

 

「あれ? なんか……数多くね?」


「はい。りんご二個分ですから。これでより長く『あーん』を楽しめますね、マスター」


「さすがアンジェね」


 いやいやいや、「さすが」じゃないよ。さっきのを合わせてりんご三個連続はちょっと……。せめて途中で塩気のある物を挟ませて欲しい。

 そんな俺の心の叫びは空しくアンジェとトリーシャのりんごが運ばれて来た。


「「マスター。はい、あーん」」


「……あーん。美味いっす」


 悲しいかな、美女二人が食べさせてくれるりんごは何やかんやで美味しかった。

 三個分のりんごを食べた後に、アンジェが再びお代わりを用意しようとしたので土下座して肉を懇願したのは言うまでもない。

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