魔人は灰と消えて
俺たちは<マナ・オライオン>の執行形態であるモード黒獅子を発動させた。
それにより身体に漆黒のオーラを纏い全ての能力が大幅に向上する。
『覚悟しろよ、ガーゴイル。俺はお前と違って相手をじわじわ痛めつける趣味は無い。サクッと勝負を決めてやる! はああああああああああああああっ!!』
一瞬で間合いに入り一太刀入れると、そこから高速移動しつつ連続で斬撃を浴びせていく。
身体に纏ったオーラは漆黒のたてがみの如く揺らめき、闇の斬撃でガーゴイルの身体を斬り刻む。
『こんな……あり得ない。これから我々の時代が始まるというのに、こんな所で私が負けるはずが――!』
『これで終わりだ! 止めぇぇぇぇぇぇ!!』
『アラタ様、ファイナルフェイズに移行します!』
『『闇の闘技――黒獅無双!!』』
<マナ・オライオン>の前面にオーラを集中展開し猛スピードで突撃する。
その勢いのまま闇の魔力を込めたグランソラスでガーゴイルの身体を貫き、横薙ぎにして胴体を真っ二つに斬り裂いた。
『ぎゃあああああああああああああっ!!!』
ガーゴイルは悲鳴を上げながら地面を転がって行きしばらくして止まった。身体を巨大化させていた強化形態は解けて通常の姿に戻ったようだ。
『アラタ様、お見事です。宣言通り二分五十七秒で決着しました。我々の勝利です』
『そうか……やったな……』
絶対勝てないと思っていた強敵を倒し、もっと歓喜するかと思っていたが俺の心は非常に冷静だった。
上半身だけになり大地に仰向けで横たわる敵を見ると、傍まで移動し鎧闘衣を解く。
幾度となく俺たちに絶望を味合わせた灰色の魔人。その黄色い目には既に力は残ってはおらず、虚ろに俺を見つめている。
『ふ……とんだ誤算でしたよ。まさか戦いの中で成長し続けるとは。彼女たちのかつてのマスター以上に化け物ですよあなたは……』
「そうかい。一応褒め言葉として受け取っておくよ」
戦いに決着がつき俺の傍に仲間たちが集まって来る。その光景を見るガーゴイルは何処か寂しそうなそれでいて羨ましそうな表情をしていた。
「なあ、ガーゴイル。もしも……もしも、俺がお前の契約者になっていたらお前は魔人になんてならなかったか?」
別に同情した訳じゃない。ただ、漠然と思っていた事が無意識に口から出てしまった。ガーゴイルの目が大きく見開かれるが一旦目を閉じると空を見つめて話し始める。
『そんな〝もしも〟の話なんて無意味ですよ。今更どうしようもない事ですから。……でも、そうですねぇ。もし、あなたのようなバカが私のマスターだったなら……きっと毎日が楽しかったんでしょうね』
「……そうか」
『一つあなたにいい話をしましょう。我々『アビス』には大勢の魔人がいます。その中でも〝十司祭〟と呼ばれる十人は私などよりもずっと強力な力を持っています。彼等との戦いに生き延びたければもっと力をつけることです。あなたが契約した四人のアルムスの鎧闘衣、その能力を限界まで引き出せるようにするのは最低条件になるでしょうね』
「どうしてそんな大切な話を俺に? それにアドバイスまで……」
『さあ? たんなる気まぐれですよ』
ガーゴイルは虚空を見つめたまま話をはぐらかす。でも何故か満足そうな顔をしている様に見えた。
「でも、そんな危ない連中と俺が必ず戦うってわけでもないだろ。何て言ったって勇者様がいるんだしさ。そいつらが『アビス』と戦ってくれるんじゃないか?」
『私はそうは思いません。勇者がいようがいまいが、あなたは必ず魔人との戦いの矢面に立つ。見ず知らずの連中を助けるために、ダンジョンブレイクが起きたこの森にやって来たあなたなら必ずそうする。――私はここで退場しますが、地獄からあなたの戦いを鑑賞させてもらいますよ』
ガーゴイルの身体が崩壊を始め、崩れた箇所は灰になっていく。
「これは――!」
『これが魔人となった者の末路です。最後は灰となって完全に消滅するんです。これでお別れです。地獄であなたの健闘を祈って――』
そう言いかけてガーゴイルは灰となって息絶えた。灰は風によって運ばれ、ついさっきまでそこにいた灰色の魔人の痕跡は跡形も無く消え去った。
「ガーゴイル……」
敵の完全消滅を見届けた俺は緊張の糸が切れ意識を失い、次に目を覚ましたのはそれから三日後の事だった。




