氷刃の遊撃機
ドラグネスによってフライトラップの大群は粉々に砕け散り全滅した。
『やりましたわ!』
「いや……まだだ! 上から来るっ!!」
今度は空からポイズンビーの大群が飛んでくるのが見える。ざっと見たところ二十匹はいるだろう。
「私が叩き落としましょうか?」
トリーシャが風の槍を出して戦闘準備に入ろうとしていたが、俺はそれを手で制して止める。
「大丈夫、あの程度なら俺とセレーネだけで対処できる」
『空を飛ぶ敵はトリーシャが適任ではありませんこと?』
「確かにね。でもセレーネ――竜剣ドラグネスはこの四人の中で最も遠距離戦に特化した剣だ。あの程度の敵に遅れは取らない。そうだろ?」
『もしかして、わたくしのあの機能を使う気ですか? アレは前マスターには使いこなすのが難いと言われ、ちょい不評だったものですわ。契約したばかりのこの状況ではコントロールするのに難儀しますわよ』
セレーネから不安が伝わって来る。
彼女とシンクロした時に送られて来たドラグネスの情報から考えると確かに使いこなすのに慣れが必要だと思うが、逆に使いこなせればかなり強力な能力だ。
この先で面倒な魔物が出てくる前に試しておきたい。
「何事も経験だ。やってみよう、セレーネ!」
『分かりましたわ。わたくしの演算機能をフル回転してサポートします』
アホの子の計算能力に一瞬不安を抱いたが、ここはとにかくやってみるしかない。
「ドラグネス、ブレードパージ!」
『了解、アイシクルブレード分割完了。各セグメントとのリンク開始――アイシクルビット展開しますわ』
ドラグネスの本体は七支刀型の剣だ。刀身を覆うようにアイシクルブレードと呼ばれる氷の刃が展開され大剣としての姿を形作っている。
この氷の大剣は一見すればパワー重視、接近戦特化のように思われるがそれは全く逆の見解だ。ドラグネスは遠距離戦に特化した調整がされている。
言うなれば剣の形をした魔法の杖とでも言うべき代物なのだ。
そしてこの剣最大の特徴こそが、アイシクルブレードを七つに分割し遠隔操作で攻撃する術式兵装アイシクルビットだ。
現在俺の周囲には七つの氷の刃が浮遊している。その一つ一つがセレーネを通じて俺とシンクロしている。
セレーネの言う通り、中々クセの強い武装だが彼女のアシストのお陰でかなり感覚的に扱えそうだ。これならいける!
「セレーネ、これからアイシクルビットを使う。そっちは大丈夫そうか?」
『問題ありませんわ。想定よりも各セグメントとのシンクロ値が高いので負担は大したことはありません。全力でかまして大丈夫ですわ』
「よしっ! それなら早速使わせてもらうよ。アイシクルビット……いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
七つの氷刃を空にいるポイズンビーの群れに突っ込ませる。そのあまりの速度に蜂の魔物は反応できず、標的にしていた七匹が真っ二つになる。
仲間がやられた事に気が付いた他の蜂が散開しながら俺に向かってくる。しかし、それよりもアイシクルビットの方が動きが速い。
各ブレードを操って敵の迎撃に向かわせ各個撃破していく。
「こいつは想像以上に強力だ。もう少し慣れれば他の魔術を併用して攻撃範囲をさらに広げられそうだ」
『アイシクルビットを初見でこれだけ扱えれば大したものですわ』
「褒めてくれてありがとさん。それじゃあ、最後の締めに取り掛かるよ。――アイシクルビット、サークルフォーメーション! 斬り裂けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
七つの氷刃を円を描く様に配置して高速回転させる。その範囲内に侵入したポイズンビー達は細切れになり間もなく全滅した。
「いつ植物系の魔物が現れるか分からない。セレーネはこのままドラグネス形態でいく。それでいいかな?」
『分かりましたわ。わたくしの力を思う存分敵に味合わせてやりますわ!』
気合いの入ったドラグネスを装備したまま森の奥へと侵入していくと次から次へと巨大な植物の魔物が襲い掛かってきた。
大型のトレント、フライトラップを始めとする植物系の他にも毎度おなじみゴブリンやオークの群れにも遭遇した。
魔物の他にも森の大自然が猛威を振るった。
進行方向に崖のように立ちはだかる大木を登り、毒沼を迂回し、巨大な葉っぱの橋から落ちそうになったりと大変な目に遭った。
森の自然に振り回されながらもアンジェとトリーシャのサポートを受け、ドラグネスで魔物の群れを粉砕し進んでいくと大勢の人間が通り過ぎた跡を発見した。
トリーシャの見立てでは人数的に情報のあった『クロスレイド』のもので間違いないだろうとのことだ。
「このダンジョンは植物だらけだから足跡もすぐに消されちゃうのよ。それが残っているという事は、『クロスレイド』がここを通ってそんなに時間が経っていないという事になる。思ったよりも早く彼等と合流できそうね」
「ちょっと待ってください。索敵範囲ぎりぎりですが、この先からいくつもの魔力の気配があります。それを覆うようにさらに多くの気配も……どうやら戦闘中のようですね」
アンジェの言うように魔力を使って周囲の気配を探ると一ヶ所に沢山の魔力反応がある。たぶんこれが『クロスレイド』のものだろう。
「ゴールが見えて来たな。急いで行ってみよう」
地面に残っている足跡と魔力を辿って進んで行き開けた場所に出た。今まで密集していた植物の群れが不自然に周囲に広がって広間のようになっている。
それはまるで何かに恐怖してその場から距離を取っているかのように見えた。
この森に突如現れた広間の中心には一人の人物がいた。だが、それはヒューマや亜人族とも違う外見をしている。
全身が灰色で背中からはコウモリのような巨大な翼が生えている。そしてコウモリを連想させる顔をしていて、両目は黄色く光っていた。
「あいつは魔物なのか? それにこのプレッシャー……普通じゃない」
今まで見たこと無いそいつからは鳥肌が立つほどの魔力と敵意を感じる。そいつの前方では大量の魔物と戦っている者達がいた。




