神刀神薙ぎ
どうしようか悩んでいた時トリーシャの様子がおかしい事に気が付く。頬を赤く染めてある一点を見つめているのだ。
その視線の先には絶賛泣きわめいているセレーネがいた。これはいったいどういうことだ。トリーシャは今、どういう感情でセレーネを見ているのだろう。
「セレーネ……あんなに泣いて……あそこまでやるなんて、アラタ……あなたって人は」
トリーシャの視線が今度は俺を捉えている。何やら目つきが険しい。仲間を傷つけられたのだから怒っているんだろうな。こうなっては契約どころではないだろう。
「あなたは……私の見込み以上かもしれないわ。恩を身体で返すって言った時にもなんか笑っていたし」
「笑ってないよ! ちょ、なに言ってんのこの人。アンジェ、もしかしてトリーシャは……」
自分の中である可能性が脳裏をよぎったので、傍にいたアンジェに確認してみることにした。そしたら俺が訊く前に彼女は答えをくれる。
「お気づきになられたようですね。アラタ様の予想通りにトリーシャはドMです。ちなみに冒険者ギルドで彼女が言っていた『身体で返す』というのはそのまま夜のご奉仕の意味です。何だかんだでやる気満々ですよ、このコは」
「くそっ、やっぱりか。どうして俺の周囲にはこんな変態しかいないんだよ」
「――!」
俺が『変態』と言った瞬間、トリーシャのふさふさの尻尾が千切れんばかりに左右に揺れ始める。どうやら彼女を喜ばせたらしい。
空から魔力弾が降り注ぐ中、ドMのケモミミツンデレという属性が渋滞を起こしている少女と対面している混沌とした状況。
「もう訳が分からないよ……」
思っている事がそのまま口に出ると目の前で淡い緑色の光が発生しているのが見えた。
トリーシャの胸に現れたエメラルドグリーンの紋章、それは契約可能である事を証明するものだ。
「何故にこのタイミングで紋章が!?」
「恐らくアラタ様に自分の性癖を知られてしまったからだと思います。それに加えて先程のセレーネへの対応を見てアラタ様をご主人様認定したのでしょうね」
淡々と真顔でしょうもない事実を説明するアンジェ。あほらしいと思いトリーシャに目を向けると、彼女は頬を赤らめて俺に熱い眼差しを向けている。
「どうするの? 私と契約したいんでしょう? だったら早くしましょう、そうしましょう、というか……契約して」
俺に契約を急かしながらトリーシャが詰め寄って来る。お互いの身体が密着しそうになる中、俺の手を取って自身の紋章に触れさせる。
「自分からやるん!? 行動力凄いな!」
「ぐずぐずしない! 早くあの鳥を倒さないといけないでしょう! そのためには私の力がいる。だったらあなたの取る選択肢は一つのはずでしょ」
あまりにもぐいぐい来るのでビビっていたが、トリーシャの言う事は正しい。彼女の力でなければボンバーホークは倒せない。
「そうだね、トリーシャの言う通りだ。俺は君が欲しい。その力を俺に貸してくれ!」
「ええ、私の覚悟は出来ているわ。言ったでしょ、身体で返すのもやぶさかじゃないって」
「あの時からっ!? ま、まあいいか。それじゃいくよ、マテリアライズ――神刀神薙ぎ!!」
「……んくっ!」
一瞬艶めかしい声を上げるとトリーシャの身体は小規模の竜巻と化し俺を包み込んだ。突風が止むと俺の手には日本刀に近い形状をした剣が握られていた。
鍔ではエメラルドグリーンのエナジストが淡い光を放っており、俺の周りに風が舞っている。そのためか身体が軽い。
「これがトリーシャの武器化した姿――神刀神薙ぎか。日本刀のように研ぎ澄まされ反りのある刀身、この手に馴染む感覚、これならすぐに慣れそうだ。それに身体が凄く軽い、まるで自分自身が風になったような感覚だ」
『そうよそれが私、神薙ぎの能力。風の魔力を纏えばボンバーホークがいる高度まで一瞬で上がれるわ。後は思い切りあいつに私たちの技を叩き込んでやればいいのよ』
「確かに今の俺ならあれぐらいの高さなら余裕で飛べそうだ。いっちょやってみるか。皆は敵の魔力弾に当たらないように回避に徹してくれ。俺とトリーシャはこれから飛んであいつを倒す!」
アンジェたちは頷くと俺から離れる。泣きじゃくっていたセレーネもいくらか立ち直りアンジェとルシアに手を引かれながら移動を始めた。
俺は神薙ぎから生じる風の魔力を身に纏うと足が地面から離れ身体が浮く。魔力を足に集中して空中を蹴って移動するのとは違う。完全に飛んでいるのだ。
『魔力コントロールは問題ないみたいね――飛べるわ』
「ああ、これならいける。一気にいくよ、トリーシャ!」
『了解よ、マスター!』
空を蹴って地面から距離を取ると風の魔力をコントロールして一気に加速する。身体の周囲には風のバリアを張ってあるので高速飛行時も安心だ。
わずか数秒で俺たちはボンバーホークよりも高い位置に到達した。そんな俺の存在に気が付いた巨鳥が威嚇の声を上げ始める。
『グゥアッ! グゥアッ! グゥゥゥゥワァァァァァァァァッ!!』
やかましい鳴き声を出しつつも俺を危険と判断したのかボンバーホークはスピードを上げ、この空域から離脱を始める。
『私たちにビビッて逃げようとしているみたいね、どうする?』
「ここまで好き勝手暴れてくれたんだ。やり逃げは許さないよ。――叩き潰す!」
ボンバーホークを追って最大速度で飛ぶとあっという間に追いついてしまった。今まで体験したことの無いこのスピード感と浮遊感はクセになりそうだ。
俺の接近に気が付いたボンバーホークが大量の魔力弾を発射する。
不規則な軌道を描いて飛んでくる魔力ミサイルを躱したり神薙ぎで斬り落としたりしながらさらに接近していく。
『こっちの間合いに入ったわ!』
「まずは敵の飛行能力を殺す! 風の闘技、壱ノ型――疾風!!」
神薙ぎの刀身に魔力を集中し風の刃を形成すると、風の斬撃波を連続でボンバーホークの片翼に当てる。
巨鳥の片方の翼を斬り飛ばすと、バランスを崩した敵は地上目がけて急降下を始めた。
「次の一撃で決める!」
『それなら参ノ型が丁度良いわ!』
刀と化したトリーシャから送られてきた技のイメージを受け取ると自然と口角が上がる。
「確かにこれならヤツを倒し切れる。早速使わせてもらうよ」
落下していく敵の真上へと移動し神薙ぎに魔力を集中しつつ俺も急降下を始める。風の刃による斬撃と自らの落下速度のパワーを合わせた闘技、これこそ――。
「はああああああああああっ! 風の闘技、参ノ型――月閃!!」
ボンバーホークの背中に風の魔力と落下速度を合わせた三日月状の斬撃を浴びせると、敵は真っ二つになりながら地上に激突した。




