シャイニングノヴァ
俺の後ろの方ではアンジェ達が他の冒険者の援護に入って魔物を倒していた。少しずつ戦いが終局へと向かっていると思った矢先、突然大きな地震が発生した。
それは自然の地震じゃなかった。一定のリズムで『ズドン』という音と共に地面から振動が伝わってくる。
「これは……普通の地震じゃない。いったい何が?」
『アラタさん、前方を見てください。何かが近づいてきます』
前方に広がる平原の土煙の中から巨大なリクガメのような魔物が現れた。全高約十メートルは超えているだろう。
まるでマンションそのものが動いているみたいだ。
『あれはアダマントータスです。背中の甲羅がアダマントと呼ばれる金属で構成されている魔物です。アダマントは非常に硬く防御力に優れています。破壊するのは難しいです』
「防御力が高いのが甲羅なら下から叩けばいけるはずだ!」
アダマントータスの下側にフレイムウォールを発生させそのまま本体を攻撃した。これならアダマント製の甲羅とは関係なくダメージを与えられるはず。
そんな俺の予想とは裏腹にアダマントータスは何事も無かったように前進を続ける。
「効いていないのか!?」
『アダマントータスは甲羅だけじゃなく本体の皮膚も分厚くて防御力が高いんです。しかもあの個体はかなり成長が進んでいます。並大抵の攻撃では倒せないかもしれません』
厄介なヤツが現れたなと思っていると、その本人が口を大きく開いた。すると口の中から圧縮した水をレーザーのように発射し、そのまま薙ぎ払っていく。
水の砲撃が直撃した地面は大きく抉れており、何人かの冒険者が被害を受けて倒れている。
同じ攻撃を連続でやられたら間違いなく死人が出る。
「わたくしは負傷者に治癒術を掛けてきますわ!」
「頼んだよ。俺たちはあのデカブツを倒す!」
セレーネは治癒術を始めとする支援系魔術のスペシャリストだ。彼女の力なら怪我を負った冒険者たちもすぐに回復するだろう。
だが、アダマントータスを倒さない限りこの状況は変わらない。
何人もの冒険者が魔術で攻撃をしているがヤツにダメージを与えるどころか歩みを止めることも出来ない。
生半可な攻撃が効かないのなら強力な一撃で沈めるしかない。
「ルシア……アレを使うよ」
『アレですね。確かにアレならアダマントータスを倒せると思います。それでは準備に入ります』
「よし、いくぞ!!」
アンジェとトリーシャにアダマントータスへ牽制攻撃をしてもらい、魔力を高めながら接近する。
これから使う闘技は『試練の森』での一週間修行の終了前日に完成したものだ。実戦で使うのは初だがやれるはずだ。
『リアクター最大出力。刀身に魔力集中開始』
ブレイズキャリバーの核であるエナジストが最大出力で稼働し始め炎系統の魔力が集中する。
それと同時に俺の光系統の魔力を高めていく。
今俺たちがやっているのはイビルプラントを倒した光と闇の闘技、斬光白牙のブレイズキャリバー版だ。
それはつまり光と炎の魔力を同時に高め融合させた必殺闘技。相反する属性の光と闇とは違って、光と炎は特に反発することなく一つにまとまっていく。
「――よし、完成した!!」
ブレイズキャリバーから白い炎が立ち上り、それは俺の身体をも包み込んでいく。
「皆離れろ! これからそいつをぶっ潰す。ルシア、突撃するぞ!!」
『はい!!』
アダマントータスからアンジェ達が離れたのを確認すると、即座に突っ込んで行く。
そんな俺たちに気が付いた敵が水の砲撃を発射するが、回避はせずそのまま攻撃を受けた。
俺の身体を覆う白い炎はバリアの役目を果たし圧縮された水はバリアに触れた瞬間に蒸発していく。
「その程度の攻撃でやられるものか!!」
『その通りです。これが私たちの必殺闘技!』
「『シャイニングノヴァ!!』」
小型の太陽と化した俺たちは口を開けたままの敵の顔面に突撃し、そのまま真っすぐに体内を焼きながら突き進んで行く。
アダマントータスの身体を貫通した俺は地面に滑り込むように着地した。後ろを振り返ると巨大な亀の魔物は内部から炎上し力なく倒れていった。
「――勝った」
『やりましたね。アラタさん』
難攻不落の巨大な魔物を制した俺の左手にはアダマントータスの魔石が握られていた。
シャイニングノヴァでヤツの体内に侵入した際にたまたま見つけたので頂戴したのである。
燃え盛るアダマントータスを見送りながらアンジェ達が合流する。負傷していた冒険者たちの治癒も終わりとりあえず落ち着いた感じだ。
残りの敵は大したことはないので他の冒険者が倒してくれるだろう。
「アラタ様、お見事でした。シャイニングノヴァの威力は予想以上でしたね」
「魔力コントロールも斬光白牙ほど難しくなかったから問題無かったよ。ルシアもお疲れ様」
『お疲れ様でした』
ルシアの武器化を解くとトリーシャとセレーネが興味深そうに俺を見ているのに気が付く。
「どうしたの二人共?」
「あ……いえ、さっきの闘技の威力凄かったなと思って。契約してから数日しか経っていないのにあそこまでルシアの力を引き出すなんて、あなた本当に只者じゃなかったのね」
「普段はおとなしそうな感じですのに、戦いになると性格が変わるタイプのようですわね。とてもギラギラしていましたわ」
「そうかな? 無我夢中だから自分では分からなかったけど。――アンジェとルシアもそう思う?」
「「思います」」
どうやら二人もそう思っていたらしい。
普段は穏やかな人でも自動車のハンドルを握ると性格が豹変する場合があると聞いたことがあるが、自分は戦いの時にそうなるタイプだったようだ。
「……今後はそうならないように気を付けます」
「それは駄目ですっ!!」
「なんでっ!?」
ルシアが間髪入れず凄んで来た。普段大人しい彼女からしたら考えられない行動だ。
「アラタさんはそのギャップがいいんです。普段は優しいのに戦いの際はギラついている感じがいいんですよ。ですからアラタさんはそのままでいいんです。……分かりました?」
「あ……はい、分かりました。変なこと言ってすんませんでした」
早口で必死な感じが伝わって来たので気圧されてしまった。ルシアにはこういう一面もあったのだと驚かされる。
「ルシアって普段物静かなのにスイッチ入るとそんな感じになるわよねー。あははははははは!」
トリーシャ達が今のやり取りを見て笑っている。過去にもこういうことはあったようだ。
俺もそうだけど女性には色んな顔があるらしい。メモしておこう。




