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マナギア~異世界で契約した銀髪メイドが魔剣だった件。魔人と戦う俺は生きた鎧へと変身し無双する~  作者: 河原 机宏
第三章 風の神刀と氷なる竜剣

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トリーシャとセレーネ

 アルムスは武器形態の時に大きな損傷を受けると人の姿へと強制的に戻され、怪我が治らない限り武器化が不可能になる。

 彼等はコアであるエナジストを破壊されない限り息絶えることは無い。

 相棒のアルムスが床に倒れている中、恫喝男は信じられないと言った顔で俺を見つめていた。


「んな……バカな。武器化したアルムスを素手で壊しやがっただと!」


「あんたの相棒はあんたに付き合ってこのざまだ。このままじゃ不公平だと思うだろ? じゃ、そういう事で」


「ちょっと、ま――!」


 がに股で隙だらけの男に一気に接近し魔力を少しだけ込めた掌底をみぞおちに叩き付ける。


「がふぁ!!」


 滅茶苦茶に手を抜いて攻撃をしたはずなのだが、その男はろくな防御をすることなく直撃を受けて思い切り吹っ飛んだ。

 

「――あれ?」


 予想を上回る吹き飛び方にちょっとだけ感動を覚えつつ、そいつはまっすぐ壁に激突してうつ伏せに床に倒れ込んだ。

 結構派手にぶつかったにも関わらず壁には損傷した様子が無いので、冒険者ギルドの建物はかなり頑丈な作りのようだ。

 恫喝男は完全に意識を失い身体を痙攣させていた。少しだけ吹っ飛ばすつもりだったのにこんな結果になるなんて予想外だ。


「あちゃあ……」


「アラタ様、やりすぎです。アラタ様にとっては全力の三割に満たない攻撃でも、あそこで伸びている方にとってはオーバーキルな一撃なのですから程々に。遠慮しなくてよいのは夜のお戯れの時だけにしてください」


「夜の戯れって……そういう事を公衆の面前で暴露しないでくれる!?」


「そうですね。これでは私が夜な夜なご主人様から調教を受ける卑しいメイドであることが分かってしまいますね。――困りました」


 俺は耳を疑った。真顔であることないことを吹聴するアンジェの真意が分からない。というか困ったと言いながら全くそんな素振りは見られない。

 それよりもヤバいのは、こんなに沢山の人がいる場所でそんな事を言ったら何て思われるかなのだが……。


「変態だ」


「変態だわ」


「深夜の調教師だって……うわっ、ヤバ……」


 周囲から聞こえてくるのは俺を変態だと罵る声だった。今までの人生で他人に変態などと言われたのは初めてだ。

 これでは冒険者ギルドに登録する前に俺は変態としてこの街の人々に認知されてしまう。すぐに誤解を解かないと取り返しのつかない事になる。


「ち、違うんです……このメイドが言っているのは嘘なんです」


「嘘なんて酷いです、ご主人様。あの日、『天井のシミを数えている間に終わるよ』と言って私の初めてを奪ったのは私の勘違いだというのですか?」


 目を潤ませ声を震わせながらそう発言するアンジェははたから見れば悲劇のヒロインのようだ。

 だが、その目の奥には俺をからかう小悪魔メイドの本性が垣間見える。そんな彼女に対抗しようと口を開いたのだがそれが良くなかった。


「何が天井のシミの数だよ。あの時はテントの中だったじゃ……あ……」


 ざわついていた冒険者たちが一斉に静まり返る。目の前にいるアンジェは俺だけに見えるようにニコッと笑った。

 俺の馬鹿! 弁が立つ方じゃないのに口でアンジェと争おうと思ったのが間違いだった。瞬殺で自滅したわ。

 その日、俺は結局『ファルナス』の冒険者ギルドにおいて変態とか調教師とか言われるようになった。

 アンジェにどうしてこのような事をしたのか訊ねると彼女は俺の耳元で理由を語った。


「これからアラタ様は冒険者として有名になっていくと思います。それにアラタ様の雄姿を知った女性は少なからず恋心を抱いてしまうかもしれません。そうなる前にアラタ様を独占するための予防策のようなものです。独断でこのような事をしてしまい申しわけありません。その分たっぷりサービス致しますのでご容赦を」


ゆるします」


 即答で答える俺。きっとこれからもこうしてアンジェの掌の上で転がされていく人生なんだろうな。

 ――ま、いっか。


「よくもまあこんな状況でアホな夫婦漫才をやれたものね。それよりもアンジェ、話には聞いていたけど、あなた随分とキャラが変わったわね」


 これからの自分の人生を投げやりに考えていると金髪ケモミミ少女のトリーシャがアンジェに近寄って来た。

 その口ぶりからするとアンジェの事を知っているみたいだ。

 

「まったくですわ。『ゴシック』近くの森に出かけたきり帰って来ないので心配していたら、『マリク』にいるなんて連絡をよこして……ちゃんと説明してくださいね」


 今度はエルフメイドのセレーネが会話に参加する。三人共知り合いなのかと思ったらそれだけでは終わらなかった。

 トリーシャとセレーネは俺の隣にいるルシアを見て「ふぅ」と吐息をこぼす。一方のルシアは二人に笑顔で手を振っていた。


「トリーシャちゃん、セレーネちゃん、お久しぶりです」


 マイペースなルシアに慣れているようでトリーシャとセレーネも手を振っている。

 ここではゆっくり話も出来ないので俺たちはとりあえず冒険者ギルドを後にしてトリーシャ達の行きつけの酒場に移動した。


「紹介がまだだったわね。私はトリーシャ・フォン・神薙ぎよ。トリーシャで結構よ」


「わたくしはアンジェと同じく『ゴシック』でメイドをしております、セレーネ・アウ・ドラグネスと申します。どうぞセレーネとお呼びください」


「俺はムトウ・アラタです。アラタって呼んでください。この街には冒険者登録をしに来ました。その後の顛末は見た通りです。――ところでそれって真名だよね。不用意に他人に知られちゃまずいのでは?」


 色々とツッコミどころ満載の自己紹介だった。

 その名乗りで二人がアルムスだということ、それに二人がそれぞれ〝神薙かみなぎ〟と〝ドラグネス〟という名の武器であることが判明した。


 アルムスにとって真名は重要な情報が分かってしまうため、本来信頼のおける相手にしか教えない。

 ミドルネームからは彼女たちの製作者つまり鍛冶職人の名が分かり、ファミリーネームは武器化した時の名前が分かってしまう。

 強力なアルムスであればあるほど真名を知られると様々なリスクが高まる。

 騎士団、アルムスコレクター、そういったところにアルムスを売りつける組織。

 それらに狙われるリスクが高まるのだ。特に契約者がいないアルムスはその危険性がさらに増す。


 俺の心配に答えるセレーネの口から飛び出したのはとんでもない事実だった。

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