アラタ童貞卒業したってよ
「いやー、兄ちゃん強いね。凄腕の冒険者か何かかい? 盗賊たちを素手で一瞬で倒しちまうとは恐れ入ったよ」
「まだ冒険者じゃないんですよ。これから『ファルナス』の冒険者ギルドに登録しようと思っているんです。それに急所を突けばあれぐらい簡単ですよ。あいつら隙だらけでしたし」
「俺には兄ちゃんの動きが全く見えなかったよ。本物の魔闘士っていうのは兄ちゃんみたいな人のことを言うんだろうね。以前雇った冒険者は盗賊が出ると俺と馬車を置いてすぐに逃げちまって、命は助かったけど荷物は全部奪われちまってね。それからはどうも冒険者に対して良い印象を持っていなかったんだよ。でも兄ちゃんだったら安心して頼めそうだ。登録が住んだら今度護衛を引き受けてくれよ」
「喜んで! 早速お得意さんが出来て幸先いいや」
楽しくだべりながら山道を抜けると遠くに大きな街が見えた。『マリク』よりも何倍も広大で大きな建物がいくつもある。
「あれが『ファルナス』だよ。この辺りは王都から離れていて何もなかったんだけど二十年前に『ファルナス』が出来てからは一気に栄えてね。そのおかげで『マリク』を始めとした周辺の町も活気づいたんだよ。今じゃこの国の中でも有数の都市さ」
「すごい……思っていたよりもずっと大きい街だ。これからあそこで暮らすのか。楽しみだなぁ」
そこからは特にトラブルも無く予定通りに『ファルナス』に到着した。
『ファルナス』の正門の所で御者さんと別れ盗賊たちを門番に引き渡し、その後間もなく俺たちは街の中へと入ることが出来た。
「凄い活気づいていますね。御者さんが言っていたように、この国で有数の都市というのも頷けます」
「私はずっと『マリク』にいたから『ファルナス』には初めて来たんです。人が沢山いて目が回っちゃいそうですね」
三人共この街は初めてなので右も左も分からない状況だ。ここはとにかく当初の予定通りに今日泊まる宿屋を探すのが先決だ。
何せ大きな都市なので目的地を探すだけでも大変だ。
広場に『ファルナス』の地図があったのでそれを見てみると、この都市はざっくり分けると北側は冒険者ギルドや酒場、道具屋などがある商業区。南側は居住区になっているようだ。
まずは居住区で丁度いい宿屋を探す。
条件に合う物件を探していくと割とすんなり見つかった。ちなみにその条件とは――。
「三人同室、室内シャワー完備、防音対策がされているお部屋をお願いしたいのですが」
代表してアンジェが宿屋の女将さんと交渉する。この条件……どこのホテルだよ。こんな無理難題を言って泊まれる宿屋なんてあるわけ――。
「二〇二号室になります」
「あるの!?」
女将さんは親指を立てるサムズアップをしてドヤ顔を見せてくれた。その光景に既視感を覚え、何故かと思ったら俺んちの近所のコンビニ店員を思い出した。
どうして俺の周囲にはこんな変な店員しかいないんだ。
「ちなみにその部屋にはキングサイズのベッドがありまして……ちょっとやそっとの激しい運動ではびくともしませんのでご安心を」
「なるほど、それは素晴らしいですね」
「それでしたら安心ですね」
女将がニヤリと笑うとアンジェとルシアが妖しい笑みを浮かべながら女将にチップを渡していた。
「皆さまがお部屋でご就寝される前にお水をお運びします。何かと汗をかかれるでしょうし水分摂取は大事ですから……ね」
何だか生々しい話になってきたぞ。ルシアが女将にまたチップを渡しているのが見えた。その自然かつ素早い受け渡しに驚く。
――事後報告になるのだが、イビルプラントと戦ったあの日の夜。俺たちは一線を越えた。
大自然に囲まれた環境、死を覚悟した戦いに生き残った興奮、その戦いの中で深まった絆、それらがないまぜになってそれまで理性で抑えつけていたものが吹き飛んで本能の赴くまま二人を抱いた……いや、もしかしたら抱かれたような気がしないでもないが、とにかく俺は童貞を卒業した。
ちなみにアンジェとルシアもそういう経験は初めてだった。
そこからはもう毎晩のようにハッスルしているわけだが、自分で自分が怖くなるぐらい元気一杯だ。
さすがに『マリク』を出て馬車に乗っている間はそんなことは出来なかったので三人共今夜に向けてコンディションを整えているのだ。
予想以上に早く宿屋が決まったので北の商業区にある冒険者ギルドに向かう事にした。
他の建物と比較してかなり大きい三階建ての建物だ。
中に入ってみるとホテルのロビーのように広くなっていて奥にはカウンターがいくつもあり、そこには何人もの受付嬢がいる。
全員かなりの美女だ。そんな綺麗なお姉さんたちが相手をしているのは屈強な冒険者たちだ。
筋骨隆々の強面の男がいれば、細身の可憐な女性など様々な冒険者がいる。
「がはははははは!」と馬鹿笑いが聞こえたのでその方向を見ると何人ものがさつそうな男たちが酒を飲んで酔っ払っていた。
一階の脇の方は酒場になっていて冒険者たちが飲み食いをしているのが見える。
「皆さん楽しそうですね。それに活気があります。何となく『聖剣の鞘』の雰囲気に似ている気がしますね」
「マーサさんは宿屋の雰囲気を冒険者ギルドの感じに近づけて『マリク』を訪れた冒険者が安心して泊まれるような場所にしたいと言っていたんです。だからだと思います」
マーサさんが託してくれた旦那さんのローブ〝ダークブルーヴェル〟の胸部に手を置いて深呼吸をする。
「――よし、二人共行こう。早速登録するよ」
「「はい!」」
意気揚々と奥にある受け付けへと向かって行くといつの間にか人だかりができていて何やら騒がしくなっている事に気が付く。
ちょっと気になったので近づいて見てみると二人の女の子が強面の男たちと口論していた。
その少女のうち一人は金髪ロングの如何にも勝気そうな少女だった。怒りを露わにしている現在でも非常に美人であることが分かる。
それに彼女は頭には金毛の狐のようなケモノ耳が生えており、お尻の辺りにも同じく金毛の狐のものに近い尻尾が生えている。
身に付けている白いミニスカワンピースの下ではメリハリの効いたボディラインが主張していた。
もう一人の少女は亜麻色のロングヘアをツインテールにした上品な雰囲気が漂う少女だ。
胸の谷間をやたら強調したメイド服を着ているのだが、その今にもこぼれ落ちそうなバストは恐らくアンジェやルシア以上。何という大迫力よ。
もっとも特徴的なのは彼女の耳だ。ヒューマのものとは異なり耳が細長い。ファンタジーに出て来るエルフと同じ感じだった。




