馬車に揺られて盗賊に襲われて
『マリク』を発ってから馬車に揺られて三日後、俺たちは『ファルナス』近くの山道にいた。
馬車の御者さんの話ではこの山を越えれば『ファルナス』が見えるらしい。この調子でいけば今日の午後には現地に到着するとのことだった。
「もうすぐ『ファルナス』に到着ですね。まずは宿屋を探さないとですね」
「『ファルナス』は冒険者ギルドを始めとして鍛冶ギルドや錬金ギルドなど各ギルドの活動が盛んな所です。宿屋も沢山あるでしょうから寝る所には困らないでしょう。宿屋が決まれば早速冒険者ギルドに登録に行きませんか?」
今夜は宿屋のベッドで眠れるので二人共嬉しそうだ。俺もようやく冒険者ギルドに登録できるのですこぶる嬉しい。
そこで冒険者のライセンスを取得し身分証明用プレートを手に入れれば、単独でも町に自由に出入りできるようになるのだ。
「これでやっと俺も戸籍持ちになるわけだ。そう言えば手に入れた魔石は冒険者ギルドで買い取ってもらえるんだよね。いくらになるか楽しみだなぁ」
「マーサさんの予想ではだいたい五十万ゴールドぐらいじゃないかという事でした。数はあるんですけどほとんどがゴブリンなどの低級の魔物のものですからね。強い魔物から入手できる魔石は一気に値段が跳ね上がりますから、上級の依頼を受けられるような実力のある冒険者は裕福らしいです」
「そっかぁ。それなら俺たちにも一攫千金のチャンスがあるわけだ。夢があるな」
ルシアは元冒険者のマーサさんと長いこと一緒に暮らしていたので冒険者に関して色々と知っている。
ルシアの話によると冒険者は上から白金、金、銀、銅、鉄とランク付けされている。
登録して間もない冒険者は鉄等級から始まり白金等級は数多くいる冒険者の中でもごく僅かしかいない。
受注できる依頼は自分の等級の一つ上のランクまでらしい。
上級の依頼では強力な魔物と戦うものが多くあるのでそういった依頼をこなしていけば魔石と依頼報酬で資金が稼げる。
そのためにはまず、初級の依頼を地道にこなして冒険者ランクを上げていかないとな。
「アラタ様、これからの冒険者稼業について意気込むのは分かりますが大切な事を忘れてはいませんか?」
アンジェがたしなめるような目で俺を見る。実際、冒険者を目指す本来の目的を忘れかけていたのでばつが悪い。
「ちゃんと覚えているに決まっているじゃないか。アンジェは疑り深いなぁもう」
「それならばよいのですが……アラタ様がハイテンションの時は大抵目的を見失っている事があるので一応忠告してみました」
段々付き合いが長くなってきたので自分でも気が付かなかったクセがアンジェには分かって来たようだ。
はぐらかすように荷台から外の風景を見つつ、俺は冒険者を目指す真の目的を改めて見直す。
この世界『ソルシエル』には千年前に俺と同じように地球から召喚された者たちがいた。彼等はアンジェたちのマスターとなって魔人の軍勢と戦い勝利した。
それから少ししてアンジェ達は封印されたので、召喚者たちはその後どうなったのか詳しくは分からない。
もしかしたら彼等はその後地球に戻る方法を見つけ無事に帰還したかもしれないのだ。
冒険者となって千年前の彼等の足跡を辿って行けば俺も地球に帰る手段が見つかるかもしれない。
一般的には知られていない召喚者たちのその後は伝説や古い記録として残っている可能性がある。
依頼を受けて様々な所に行く冒険者になればそれらを知るチャンスがあるのだ。
――とまあ、こんな感じで地球帰還を最終目標とした冒険者生活が始まるわけだが当面は生活を安定させるために新人冒険者として頑張っていこうと思っている次第であります。
これからの生活を色々と考えている時に馬車が大きく揺れた。荷台から振り落とされないようにしながら周囲の気配を探る。
「アラタさん……!」
「うん、五人……だな。魔物じゃなく人間……盗賊ってところか」
馬車が止まり御者さんの慌てふためいた声と何やら上機嫌な男たちの声が聞こえてくる。
「何なんだお前達は!? この馬車には金目の物なんて載っていないぞ!」
「荷台に人間くらい乗ってるだろ? そいつらを売り飛ばせばそれなりに金になるんだよ。恨むのなら護衛の一人も付けずに馬車一台でうろうろしていた自分たちを恨むんだな!!」
どうやらヤツらのお目当ては俺たちのようだ。せっかくもう少しで目的地に到着するってのに……とっとと終わらすか。
俺たちは荷台から降りると御者さんを下がらせて盗賊たちと対峙した。
「お客さん方……こんな事になっちまってすまない。やっぱり冒険者ギルドに頼んで護衛を依頼すりゃよかった」
「気にしないでください。先を急ぎたいって急かしたのは俺だし護衛も兼任するって言ったじゃないですか。御者さんは彼女たちの後ろにいてください」
盗賊たちはアンジェとルシアを舐めまわすように見ると下卑た笑みを浮かべて笑い始めた。
「げっへっへっへ、すげぇ上玉が二人もいるじゃねぇか。これなら娼館にでも売ればいい金になるぜ。その前にたっぷりと楽しませてもらおうじゃねーか。なあ、お前等! ぎゃははははははははははは!!」
何というか、テンプレ的な発言をする連中だな。こんなヤツらにアンジェとルシアをいいいようにさせるか。というか、どうやら俺の事は眼中にないようだ。
「アラタ様……私でいきますか? それともグランソラスでいきますか?」
「それってどっちにしてもアンジェの事じゃないか。――この程度の相手なら俺だけで十分だ。二人はそこで見ててくれ」
いちいちアンジェのボケにツッコむのも疲れるので、ここは敢えてスルーする。当の本人はちょっとつまらなそうな顔をしていた。
「分かりました」
「はい」
というわけで俺は一人で盗賊たちの方に歩いて行く。それを見た連中はこれまた大笑いをしている。
「おいおいおいおいおい! 一人でしかも丸腰かよ。可愛い彼女たちの前で良いカッコしたい気持ちも分かるけどよ。お前……死んだぜ」
――十数秒後。地面には気絶した盗賊五人組が転がっていた。口から泡を吹いて完全にのびている。
そいつら全員を縄で縛って動けないようにして『ファルナス』まで連れて行くことにした。
盗賊は荷台に乗せてアンジェとルシアに見張ってもらい、俺は御者さんの隣に座り馬車は再出発した。




