脅威の魔物イビルプラント
空中でもイビルプラントの攻撃の手は緩まず前後上下から狙ってくる。
俺は身体の周囲に魔力を纏い防御力を上げると同時に足底部に魔力を集中し、空中を蹴って軌道を変えながら目標に向かって行く。
目の前にはさっき歯が立たなかった植物の壁が立ち塞がった。
「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ブレイズエッジの連続斬りで分厚い壁を焼き斬っていき、ようやく真っ二つにして前へ進んだ。
アンジェは既に大量の触手によって形成された球体状の檻の中に飲み込まれている。
これを斬って助け出さなければならないが、炎の出力を間違えると中にいるアンジェを傷つけてしまう。
『炎の微調整は私がやります。アラタさんは斬撃に集中してください!』
「分かった。頼んだよ、ルシア!」
迎撃してくる触手を斬り払い植物の檻を斬り崩す。その中にいたアンジェに絡まる植物を焼き斬って左腕で彼女を抱えてその場から急いで離脱する。
イビルプラントから離れた位置に着地しアンジェを見ると目立った外傷はない。植物の触手で締め付けられていた部分が少しアザになっていたが命に別状はないだろう。
「う……うう……ん」
か細い声を出しながらアンジェがうっすらと目を開く。俺の姿を認めるとその目が大きく見開かれた。
「アラタ……様?」
「ごめん遅くなって。間に合って本当に良かった」
意識がハッキリするとアンジェは俺を抱きしめてきた。
大きく柔らかい胸が押し付けられる感触が心地よい。いやホント心地よくて凄い。大事だから二回言った。
『二人共、まだ戦闘中ですよ!』
ルシアがちょっと怒り口調で言ってくる。そうだ、アンジェを助け出しただけで敵はまだ健在だ。
聖剣形態になったルシアから憤りの感情が流れ込んでくる。これはもしかして……。
「ルシアさん……嫉妬してる?」
『してますよ! 私だってアラタさんとハグしたいです。でもその前に敵を倒さないといけないでしょう? それが終わったらたっぷりハグさせてもらいます!』
大人しい性格かと思いきや、ルシアは結構情熱系みたいだ。あんなナイスバディに抱き付かれて俺の理性はこれ以上持つのだろうか。
「とにかく今はイビルプラントをぶっ潰さないと。アンジェは離れていてくれ」
「いえ、大丈夫です。いくらか魔力を奪われましたが戦闘は十分可能です。援護します」
「分かった。無理するなよ! 行くよ、二人共!!」
俺の狙いはイビルプラントの本体のみ。触手の群れを斬り払いこっちの魔術の射程範囲まで接近する。
その間、アンジェにはシャドーダガーで露払いをしてもらう。そのおかげで敵の攻撃が弱まり隙が出来た。
「ここまで接近すればいける。――ルシアッ!」
『はいっ! 術式展開、魔法陣構築開始!』
剣先をイビルプラントに向けると巨大な魔法陣が展開され即座に魔力を充填していく。魔力が満たされた魔法陣は赤く発光し、その中から巨大な炎の塊が出現した。
「これでも食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! エクス……プロージョンッッッ!!」
ファイアーボール数十個分に相当する炎の球体を発射すると、それは植物の触手を燃やし尽くしてイビルプラント本体に直撃した。
今の俺とルシアに出来る最大火力の魔術だ。ワニ顔が炎に包まれ沢山咲いていた赤い花も燃え散っていく。
ここまで燃えればさすがに終わっただろう。
「やったか……?」
「アラタ様、そのセリフはこのタイミングだと少々危ういのでは?」
隣にいたアンジェが俺のセリフにツッコんできた。
その時、イビルプラントを覆っていた炎が一瞬で鎮火され中から表面が焦げた敵の姿が露わになる。
すると表面の焦げが剥がれ落ちその下から再生された植物のツタが姿を現すと、あっという間にイビルプラントは元の姿へと戻ってしまった。
「あー、やっぱり。アラタ様がお約束を言うからぁ」
「俺のせいっすか!? すんませんでした!!」
いやさ、俺も思ったよ。あの時に「やったか?」なんて言うのはフラグだと。でもさ、つい言っちゃうじゃん。条件反射で言っちゃうじゃん。
元通りになったイビルプラントは何事も無かったように触手で攻撃してくる。さらに枝先に実っていた赤い果実をいくつもこっちに飛ばしてきた。
『あの実は危険です。全力で回避してください!!』
ルシアの指示通りに後ろに思い切り跳んで距離を取る。赤い果実は地面に落下した瞬間爆発して巨大なクレーターを作った。
「なっ……あの魔物、あんな攻撃もできるのか!? 再生するし攻撃力も高いし、無茶苦茶だ!」
『アンジェちゃんも助け出した事ですし、ここは撤退を提案します』
ルシアの言うことは最もだ。こいつを倒すには再生が追いつかない程の火力で攻撃しないと話にならない。
退路が確保されているのを確認し逃げようとした時に俺は周囲の異変に気が付いた。
さっきまで一面緑色だった木々がいつの間にか枯れ果てていたのだ。うっそうと茂っていた草原も枯れていて地面は水気を失いカラカラになっている。
「これはどうなっているんだ? どうして森が……」
『イビルプラントのせいです。あの魔物は自分を成長させるために周囲からマナを吸収します。これまでの戦いにおける触手の大量発生や異常な再生速度も周りからマナを奪うことで可能としていたんです』
「それじゃ、俺たちがここに来てこいつを刺激したからこうなったのか……」
『……アラタさん、実はイビルプラントは自然発生する魔物ではないんです。千年前に人工的に造られた魔物で周囲から無尽蔵にマナを吸収し成長を続けます。それによってイビルプラントが発生した土地は高い確率で砂漠化します。私が前回ここを訪れたのは二週間前、その間に何者かがイビルプラントの種子をここに植えて、大樹へと成長していたんだと思います。むしろ私たちがここを訪れなければ、あの魔物は誰にも気付かれることなくこの一帯のマナを吸い尽くし徐々にかつ確実に周囲を砂漠化させていたはずです』
「ちなみに現在確認されているイビルプラントは砂漠化した土地に残っている個体ばかりです。それ故周囲からマナを吸収する術を持ちません。それでも討伐には複数の魔闘士の力が必要なのです。それに比べてここでは無尽蔵とも言えるマナが周りにあります。とても私たちだけで倒せる相手ではありません。――ここは撤退しましょう」
千年前の戦争を知る二人だからこその結論だというのは俺にもよく分かる。けど、こいつを放っておけば確実にこの森は砂漠化してしまう。
周囲の枯れ具合から考えて町に戻って冒険者を募ってからでは遅すぎる。
「……一撃で倒せばいいんだよな」
「……え?」
全く策が無い訳じゃない。でもこれは昨夜眠れない時に漠然と思いついた事であって練習とかは全くしていない。――作戦というか博打に近い。
「アンジェ……グランソラスで試してみたい技が一つだけあるんだ。危険だと思うし成功するかどうかも分からない。上手く発動したとしてもあいつを一発で倒せる威力があるかも分からない。それでも付き合ってくれるか?」
「勿論です。私はあなたに何度も命を救っていただきました。この命はマスターであるあなたのものです。存分に使ってください」
「ありがとう。ルシア、聖剣状態を解除するよ」
「分かりました」
ルシアが人間の姿に戻ると俺はアンジェと魔力を通わせる。アンジェの胸に深紅の紋章が浮かび上がり、そこに手を触れるとその刺激で彼女から微かに声が漏れる。
「あ……んん……」
「マテリアライズ――グランソラス!!」
アンジェが一瞬で漆黒の魔剣へと変わると俺は彼女を手に取り魔力を流し込む。それと同時に俺がやろうとしている技のイメージを彼女に送る。
『これは……本気ですか!?』
「本気だよ。どうなるかは全然分からない。けど何故か凄い技が出来るんじゃないかっていう自信はあるんだ」
『……分かりました。このような試みは私も初ですがやってみましょう』
「ありがとう。ルシアは魔術で援護を頼む」
「了解です!」
作戦が決まると俺は体内の魔力を練り上げながら敵の攻撃を回避して出来るだけ接近する。
ルシアがファイアーボールで果実爆弾を迎撃し空中でいくつもの爆発が起きる。
その時の爆発で煙幕が発生し俺の姿が見えにくくなる。この隙にグランソラスに魔力を集中し始めた。




