母の教え
『ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナァァァァァァァ!!!』
黄色い目を血走らせながらキマリスが吠え、再びクリムゾンランスに魔力を集中し始めた。――闘技が来る!
こちらもグランソラスに魔力を這わせて敵の攻撃に備える。すると槍の穂先から血しぶきのように赤いオーラが舞い散り俺へと放たれた。
『コレガキマリスノ闘技――ブラッディハウリング!! ズタズタニナッテ砕ケ散レェェェェェェェ!!』
『敵、正面から来ます! このタイミングでは回避は間に合いません』
『最初から逃げるつもりはない! 受けて立ってやる!!』
キマリスの槍から放たれたブラッディハウリングは奴の刺突エネルギーが幾つにも分散し無数の攻撃となって襲いかかってくる技みたいだ。
魔眼の力によって一瞬でキマリスの闘技の正体を看破し、無数の刺突エネルギーの一つ一つをグランソラスで叩き落としていった。
『ブラッディハウリングヲ見切ッタ!?』
キマリスは自分にとって唯一かつ最大の威力を持つ技を初手で無力化されてショックを受けていた。
こっちは少しばかり装甲にダメージを受けたがキマリスの闘技は完全に見切った。今度仕掛けてきた時はもっと上手く対応してみせる。
『装甲表面に少々傷が付きましたが、戦闘継続に問題はありません。さすがです、マスター』
『これならいけそうだな。キマリス、お前の攻撃は見切ったよ。――今度はこっちから仕掛ける!』
氷原を思い切り蹴り込み瞬時に加速しキマリスに斬りかかる。動揺のせいかキマリスの反応が一瞬遅れる。
『コイツ……ヤハリ速イ!!』
グランソラスで袈裟懸けに一太刀浴びせるとキマリスはすぐに持ち直し再び剣戟に突入する。
さっきの斬り合いで分かったがこいつは異常に柔軟な筋肉と関節を持っている。
それ故、腕が鞭のようにしなり普通ではあり得ない角度から攻撃が迫ってくる。
おまけに我流で鍛え上げた戦術はパターンが読みづらい上に一から自分の力だけで叩き上げた技術は絶対的な自信を作り上げている。
そんな野生で培った暴力の塊がキマリスだ。こいつの戦い方の根本にあるのは『狩り』だ。
相対している敵を獲物として捉え、戦いにおいて正々堂々とか騎士道精神のような礼節さは持ち合わせていない。
単純に狩りの獲物として見ている。だから手負いの相手にも容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
『そんなに狩りが好きなら山奥にでもこもって独りでシコシコやってろよ。こんな大勢の人がいるところで暴れられたら大迷惑だ!』
『戦イハ狩リダト、アスモダイモ言ッテタ。ダカラ、キマリス敵ヲ狩リ続ケル。沢山ノ人間狩ッタ時、凄ク楽シカッタ! アノ楽シサ知ッタラ、モウ昔ノ様ニハ戻レナイ!!』
『こいつ……! それなら俺がお前をぶっ倒してやる。――相手を傷つけると言うのなら、当然自分も傷つけられる覚悟は出来てるよな!!』
『アラタ様、その言葉は……!?』
『俺のお袋の受け売りだよ。昔俺が喧嘩して相手を怪我させた時に教えてくれた。……大切な心構えの言葉なんだ』
柔軟な筋肉と関節を活かしてキマリスは意表を突く角度から槍で攻撃してくる。こいつにはセオリーなんてものは通用しない。
槍攻撃に対し集中力を維持し丁寧に捌いていく。油断をした瞬間、こいつの様な野性味溢れる奴はそれを察知して攻撃してくる。大変危険だ。
子供の頃から親父に剣術や体術を教わってきた俺には、その流派の『型』が叩き込まれている。一方のキマリスは完全我流の為、そんなものは存在しない。
言うなればキマリスのそれは『無型』と言えるだろう。実戦のセオリーを無視する奴の技は強力だ。
でも、既に攻略法は見えた。キマリスの言動から察するに、奴はあの自由な戦法を使って今まで大きく苦戦することなく勝利してきた。
敵と何度も斬り結ぶなんて事はしたことがなかったのだろう。
さっきの斬り合いの時も奴は俺にまともに攻撃を入れる事ができずにしびれを切らして闘技を放とうとした。
――そう、キマリスは剣戟の時間が長引くほど焦りが強くなってボロが出る。
つまりキマリスには忍耐強さが欠けている。戦いに身を置く者は大抵何かしらの流派に入って修行するのだが、その中で最初に教わるのが忍耐力だ。
その最も大切な基盤があいつには欠けている。
『――だから、こうなるんだよ!!』
鍔迫り合いが続くとキマリスの攻撃が粗くなり始めた。その瞬間を逃さず斬撃を連続で浴びせ着実にダメージを与えていく。
『クソォォォォォォォォォ!! 何デ……何デマタ、キマリスガ打チ負ケル!?』
『教えてやらないよ! アンジェ、このまま執行形態へのシフト頼む!』
『承りました。リミッター解除、リアクターオーバーフロー。執行形態モード黒獅子発動します』
<マナ・オライオン>の装甲各部が開放され、放熱部から余剰マナの赤い粒子が熱と共に放出されていく。
後頭部から放出された粒子は獅子のたてがみの様になって風にたなびいていた。
執行形態を発動させた事で全ての性能が向上し、そのパワーとスピードでキマリスとの斬り合いを徐々に優位に運んでいく。
『チィィィィィィィィ! コイツ、サッキヨリパワーモスピードモ上ガッテイル!!』
『どうした、キマリス。どんどん動きが粗くなってるぞ。お前は戦いを狩り感覚で楽しんでいるみたいだけど、戦いってのは魂と魂のぶつかり合いなんだよ。その魂の重さを軽く見たお前の罪は重い!!』
キマリスの刺突攻撃にタイミングを合わせて切り払うと奴は体勢を崩した。その隙を逃さずグランソラスに魔力を集中し間合いに入る。
『こいつを食らっても平気でいられるか!? 黒獅……無双ォォォォォォォォ!!』
黒い獅子のオーラを纏って体当たりを食らわせるとキマリスはふらついた。
無防備になったところへ闇の魔力を纏わせたグランソラスで何度も斬撃を浴びせていった。