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反撃のマナ・オライオン

 氷原を蹴ってその場から勢いよく飛び出し前方で繰り広げられている戦いに乱入する。

 最初から体力も魔力も限界近くだった仲間たちは必死にその場に留まり壁となってキマリスの侵攻を食い止めてくれていた。


『皆、下がってくれ! あとは俺とアンジェに任せろ!!』

 

 一斉に仲間たちが散開し、その場にはキマリスだけが残った。そこにグランソラスを構えて突っ込む。

 

『はあああああああああっ!!』


『ナニッ!?』


 グランソラスとクリムゾンランスが激突し刃から火花が散る中、パワーでそのまま押し込んでいく。

 鍔迫り合いをしたままキマリスを後方に押し出し、建物のように巨大な氷塊に衝突した。


『グ……クソ! 何デ押シ返セナイ。キマリスガパワーデ負ケル!?』

 

『お前が体内のマナを身体能力向上に回しているのは分かった。それならこっちは魔力を高めて全能力を引き上げればいい。この<マナ・オライオン>とお前のパワー、どっちが上か比べてみようじゃないか!』


 魔力をさらに引き上げていくと氷塊に亀裂が入り砕け崩れる。背部に何もなくなったキマリスは後方に大きく跳んで俺から離れた。

 俯いていた顔を上げると奴は仮面の奥に見える鋭い眼光を向ける。相当怒ってるなこれは。


『キマリス強イ。ダカラ負ケル、ナイ。オ前殺シテ、ソレ証明スル!!』


 跳躍して落下のスピードを上乗せして襲ってくる。その攻撃をグランソラスの刀身で受け流し間髪入れず斬撃を叩き込む。

 このやり取りを皮切りに俺とキマリスの斬り合いが始まった。互いの刃をひたすらにぶつけ合う剣戟が続く。

 神経を研ぎ澄まし相手の動きに注意し攻撃と防御を繰り返す。


 集中力を少しずつ削っていくこのやり取りをしていると、つい大技を出して相手を一気にぶっ飛ばしたくなってしまう。

 その誘惑に負けてしまえば相手に隙を突かれてこの膠着状態が崩れる。そうなれば一気呵成に連続攻撃を受けることになるだろう。

 つまり、この戦いはいつ終わるか分からない剣戟のチキンレースから逃げた方が敗北する。


『コノ……! 何デダ……何デ、オ前止マラナイ!? 今マデ戦ッテキタ奴ラハ、キマリスノ攻撃止メラレナカッタ。オ前ハ連中ト何ガ違ウ!?』


『バカかお前は? そんなの簡単だろう。俺がお前と互角以上の力を持ってるからだよ。逆を言えば、お前はこれまで自分よりも弱い者を選んで戦ってきたって事さ!』


『違ウ!! キマリス、ズット戦ッテキタ。色ンナ奴ト戦ッテ生キ抜イテキタ!』


『だからその戦いの多くは勝てる相手を選んで挑んでたって事だろ! さっきだって魔力を使い果たした連中をお前は襲撃した。満身創痍の相手に何の躊躇もなく止めを刺そうとしたんだ。――卑劣なんだよ、お前はっ!!』


 キマリスの槍捌きが粗くなった。精細さを欠いた攻撃は動きが読みやすく徐々に俺の刃が奴に届くようになっていく。

 流れはこっちにきている。重要なのはここからだ。手堅く着実に攻めて相手がつけいる隙を与えず反撃の手を潰していく。

 ――そうすれば、自然と相手が自らボロを出す。この状況を踏ん張れるのは、勝利への執念とこころざしの土台がしっかりしている者だ。


『グ……ギ……ガアアアアアアアアアアアッ!!!』


 キマリスが咆哮を上げクリムゾンランスに魔力を集中する。今まで闘技を使ってこなかったが、どうやら全く使えない訳ではないらしい。

 問題はタイミングだ。行動を誤れば一瞬で状況が覆る現状でその選択は――悪手だ。


 魔力を溜め始めた瞬間にグランソラスによる袈裟懸けを浴びせて怯ませると、そこから手を止めることなく連続で斬撃を叩き込んでいく。


『メン! ドウ! コテ! ツキィィィィィ! まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 キマリスが反撃に転じようとした瞬間に槍を斬り払って中断させ本体への攻撃を再開する。奴の黒血が飛び散り氷原を黒く染めていく。


『グギャ……ギャギャギャギャギャギャギャ!! ギャァァァァァァァァァァァァ!!!』


 キマリスの怒りだか恐怖だか分からない叫びが轟く中、奴の胴体を斬り上げて空中に飛ばす。その間に魔力をグランソラスに集中し更に上空へと跳躍する。

 俺とキマリスの目が合い、奴の黄色い目が見開かれるのが見えた。


『これを食らいな! 闇の闘技、無影斬!!』


 無影斬をキマリスに叩き込むと、奴は絶叫を上げながら身体を抉る闇の斬撃と共に勢いよく落下し、分厚い氷原を突き破って海中へと沈んでいった。

 手応えはあった。けれど魔神化ゴエティアした魔人の耐久力を考えればこの程度で死ぬはずはない。

 必ず再び姿を現すはず。その瞬間を見逃さないように目だけじゃなく、魔力をセンサーのように張り巡らせて気配を読む。


『アラタ様、お見事な剣戟でした。あの粘り強い刃の応酬は例のお父様との訓練で得たものなのですか?』


 キマリスの気配を逃さないように気をつけながらアンジェの質問に答える。


『まあね。親父の口癖で『戦いにおいて冷静さを失った方が負ける』っていうのがあってさ、その練習として手の感覚が無くなるまで剣戟を続けるという地獄特訓をやらされた』


『それはまたスパルタですね』


『当時はここまでやるかって思ったけど今は凄く感謝してる。親父のスパルタ訓練の全てがこうして活かされてるからね。――上がってきたか』


『キマリスの魔力を察知しました。<マナ・オライオン>の直下――来ます』


 その場から急速離脱すると、さっきまでいた場所の真下から赤い閃光がほとばしり周囲の氷原を吹き飛ばした。

 細かくなった氷の粒が日光に反射してキラキラ輝く中、真っ赤な魔神が再び姿を現す。

 身体につけられた傷はほとんど修復していて戦闘続行が可能なことが窺える。この光景にもさすがに慣れた。

 一度や二度、致命傷と思えるダメージを与えてもすぐに傷が治り平然としているのが魔人だ。十司祭ともなればその傾向は顕著となる。


 だから別に驚きもしない。傷が癒えるのなら癒えなくなるまで潰せばいい。

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