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絆のマテリアライズチェンジ

 キマリスと斬り結んで攻略の糸口は掴めた。白兵戦を得意とするあいつと渡り合うには同じく白兵戦重視の<マナ・オライオン>で戦うのが望ましい。

 しかし、マテリアライズチェンジと<マナ・オライオン>への変身を実行するには最低でも十数秒ほどの時間が掛かる。

 僅かな時間とはいえ、高速戦闘を得意とするキマリスの前で無防備になるのは自殺行為だ。


『くそっ、何かないか十数秒だけあいつの注意を引くものは……』


 無い物ねだりをしているのは分かっている。こうなったら一か八かキマリスの前でグランソラスに切り替えるしかない。

 アンジェの魔力を付近に感じる。いつでも交代できるように待機してくれている。


『危険だけどキマリスの目の前でグランソラスに切り替える。ルシアは武器化解除後はすぐにここから離れてくれ』


『そんな……! 危険すぎます。マテリアライズチェンジの無防備な瞬間をキマリスが見逃すはずはありません。何か対策を立てないと』


『それは分かってるよ。けど他にどうしようも――』


「十数秒時間を稼げばいいのだな」


 声が聞こえその方に視線を向けるとフォルネウスがいた。サレオスとフォカロルも彼に続いて僅かに残った魔力を高めている。


『そうだけど、お前たちには戦う魔力は残ってないだろ。そんな状態でキマリスと戦おうなんて自殺行為だ!』


「この状況を覆す策がお前にはあるのだろう。ならば、その為の十数秒命を賭して守ってみせる。確かに魔力はほとんど残ってはいないが、我ら三人肉壁ぐらいにはなるはずだ」


『どうしてそこまで私たちに協力してくれるんですか?』


 ルシアが訊ねるとサレオス達が答えた。


「お主等は命がけでウェパル様との対話を試みてくれた。そして、我々ディープに新しい道を指し示してくれた。それに報いる為にもここでお主等をやらせるわけにはいかん」


「そういう事でやんす。それにあんたらはあのツンデレ勇者の仲間なんでやんしょ? わっち、何だかんだであのおちびさんが気に入ってるでやんす。それも理由の一つでやんすねぇ」


「不純な動機の奴が一人いるが、まあそういう訳だ。ムトウ・アラタ……ロックの仲間であるお前たちに託す。だから――」


『サッキカラ、オマエラコソコソトナニ話シテル? 全員マトメテ殺シテヤロウカ……』


 これ以上問答をしている時間はなさそうだ。確かにフォルネウス達なら時間稼ぎをしてくれるだろうが、確実に犠牲が出る。

 ――どうすればいい?


『時間稼ぎなら俺たちに任せな!!』


 心強い台詞と共に氷原に現れたのは<マナ・ライガー>、<マナ・ファルコン>、<マナ・ユニコーン>の三体だった。

 キマリスの前に立ちはだかるようにして並び立ち、各々武器を構える。


『ロック……!? それにスヴェンとシルフィまで……競技場で待機していたはずじゃ……』


『ウェパルとの戦いは終わったんだろ? 既にディープは撤退を始めた。それに島内に入り込んだ魔物も増援の冒険者たちにほとんど倒された。――あとはこいつをやれば終わりだ!』


『そういう訳だ。お前はとっとと態勢を整えてこい。その間の露払い程度なら今の俺たちでも十分やれる』


『その通り! サレオス達も危ないから下がってて。この魔人の相手はボク達がするよ!』


 心強い仲間のお陰で状況が一気に好転した。これならいける!


『分かった! 十数秒だけ頼む!!』


『おうよ! 任された!!』


 後退して戦いの場から距離を取る。この瞬間にキマリスとロック達の戦闘が始まり激しい金属音と氷原を破壊する様子が視界に入る。急がないと――!


『アンジェ、来てくれ!!』


「既にここにいますが」


 気が付くとすぐ隣にアンジェが立っていた。真剣かつ涼しげな表情の中で彼女の目だけは闘志に満ちていた。

 鎧闘衣マナギア形態を解除すると人間の姿になったルシアが手を伸ばしてアンジェとハイタッチした。

 『パァン!』と小気味よくそれでいて力強い音が聞こえた。


「アンジェちゃん、あとはお願い!」


「ええ、お疲れ様ルシア。ここから先は私が請け負うわ!」


 選手交代をするとルシアはその場で脱力し地面に座り込んでしまう。そこにセレーネとトリーシャが来て介抱を始めた。

 これなら安心だ。あとは――!


 アンジェが俺の側に来てアイコンタクトするとお互い頷く。彼女の目からは「この戦いを終わらせよう」という強い意志が感じられた。

 そして、その気持ちは俺も同じだ。俺たち二人の意志が通じ合いアンジェの胸元に深紅の紋章が出現する。

 紋章に触れるとアンジェが小さく甘い声を出し身体を震わせた。


「行くぞ、アンジェ! マテリアライズ――魔剣グランソラス!!」


 アンジェは漆黒のオーラに包まれグランソラスとなって俺の手に収まった。


『ふぅ……なるほど。皆から話は聞いていましたが、封印が解けたアラタ様の魔力はかなり奥まで効きますね。軽くイッてしまいました』


「表現!! それよりも一刻の猶予もない状況だ。すぐに鎧闘衣になるよ」


『ええ、準備は出来ています。いつでもどうぞ、マスター』


 グランソラスの核である深紅のエナジストが淡い光を放つ。手中にある漆黒の剣に魔力を送り込み。俺は鎧闘衣の名を呼んだ。


「イクシード! ――来い! <マナ・オライオン>!!」


 周囲に展開された魔法陣の中でグランソラス――アンジェと共にマナの粒子となって一つの存在へと融合する。

 強固なマナ製の人工筋肉、骨格、外骨格で構成された対魔人用の最終兵器――鎧闘衣。アルムスとそのマスターが融合することによって完成する生命を宿した鎧。

 アンジェと俺から成る漆黒の鎧闘衣<マナ・オライオン>がここに顕現した。


 目を開くと俺の身体は<マナ・オライオン>そのものとなり、人間の肉体とは比較にならない力が身体中に溢れているのを自覚する。


『リアクター出力正常、各可動部問題なし。鎧闘衣<マナ・オライオン>正常に起動しました。――参りましょう、マスター』


『ああ! 俺たちでレムール祭から始まったこの戦いを終わらせる。行くぞ、アンジェ!!』

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