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魔人となったレッドキャップ

『シャイニングノヴァ及びエグゼキューション形態フォーム終了。放熱部解放、強制冷却開始します』


 <マナ・フェネクス>の装甲表面から煙が立ち上り、身体と接した氷原がジュワッと音を立てて蒸発していく。

 放熱部から体内に溜まった熱が強制排出されていき、オーバーヒートが解除される。


『ふぃ~、シャイニングノヴァは威力は凄いんだけど自分にもダメージが来るのがネックだなぁ』


『以前生身で使用した時は火傷しちゃいましたからね。でも……』


『ああ、勝負はついた』


 俺とルシアの前方にはシャイニングノヴァを食らって戦闘不能に追い込まれたウェパルが横たわっていた。

 圧倒的巨体を誇っていた海蛇は氷結無防備状態から超高温の炎で焼かれて瀕死の状態。ただ、魔人の圧倒的回復力ならば命に別状はないレベルだ。


『ルシアが炎の調節をしてくれたお陰で上手くいった。俺がやっていたらウェパルを消し炭にしていたかもしれない。ありがとな』


『マスターのサポートをするのが私たちアルムスの役目ですから。役に立てて良かったです』


 ウェパルに近づいていくと、これ以上進ませまいと三体の人影が間に入ってきた。

 こいつらはウェパルと戦闘中、彼女の後方に避難させられていた連中だ。皆と戦ったウェパルの部下――確かフォルネウス、サレオス、フォカロルだったか。


「これ以上戦うというのなら我々が相手をさせていただく!!」


「お嬢は我らディープの希望。殺さる訳にはいかん!」


「ここから先に行きたいのならわっちらを倒してからにするでやんす」


 必死の形相で俺の前に立ちはだかる三人の魔人。全員見た目は全快してるみたいだが、魔力は底をついている。

 こうして立っているだけでも辛いはずだ。それなのに主君を守るため勝ち目のない戦いに挑もうとしている。

 その姿は俺たちと何ら変わりは無い。少なくとも俺はそう思う。


『――どけ。魔力がほとんど残っていないお前等じゃ俺の相手にはならない。それに勘違いしているようだけど勝負はもうついた。俺はウェパルとこれ以上戦うつもりはないよ』


 それでもウェパルを守るように立ちはだかる三人の魔人。俺としてはこいつらとこれ以上事を構えるつもりはないんだけどな。

 どうしようか迷っていると彼等の後方から弱々しい声が聞こえてきた。


『彼を通しなさい。あたくしも彼に話があります』


『ウェパル様……』


 三人組は渋々といった様子で俺を通してくれた。俺は彼等の側を通り過ぎ氷原に横たわるウェパルの近くまで来た。

 彼女は大ダメージで弱ってはいたが、その傷も少しずつ修復されていき思いのほか元気だった。


『……あたくしの完敗ですわね。ここまで実力差を見せつけられたからには、あなた方の力を認めざるを得ないでしょう』


『そこまで賞賛されるほど力の差は無かっただろ? そっちは仲間を復活させる為にかなり魔力を消耗してたからな』


『例えあたくしが万全な状態であったとしても結果は変わらなかったでしょう。あなた方は、あたくしを殺さないように攻撃を加減していました。そちらにはそんな微調整をするだけの余裕があったという証拠です。――ですから、あたくしの完敗ですわ』


 ウェパルからはもう敵対する意志は感じられない。それは俺も同じだ。戦いの終わりを感じ取った彼女の側近たちも安心した様子を見せている。

 俺は<マナ・フェネクス>形態の自分の手を差し出した。


『海の民であるディープと俺たち陸の民が傷つけ合わずに済む道を一緒に探そう。そして恐怖や暴力による支配なんかじゃない、皆が笑って過ごせる……そんな世界に出来るように協力していうこう。――だから俺たちの手を取れ、ウェパル』


『……このあたくしを信用させたのですから、その人生を終えるまで協力して貰いますわよ。――ムトウ・アラタさん』


 巨大海蛇と化したウェパルには手がないのでヒレで握手をしようと俺の手に伸ばしてくる。

 俺の手とウェパルのヒレが触れ合おうとすると、彼女はおもむろにヒレで俺を吹き飛ばした。


『ウェパルッ!?』


 和解したと思った直後の訳の分からない行動に困惑する。すぐに体勢を立て直して彼女の方を見ると凄惨な光景が俺の目に飛び込んできた。


『裏切リ者ハ殺ス……』


『キマ……リス……何故あなたがここに……? あなたは東の……『カンパニュラ大陸』で活動していたはず……』


『キマリス、アスモダイカラノ命令アッタ。ウェパル、裏切ル可能性高イ。陸ノ民ニホダサレル。ソノ時、キマリスガウェパル殺ス役目。アスモダイ言ウ通リニナッタ。ダカラ――キマリス、ウェパル殺シニキタ!』


 全身が血のように赤い人型の怪物が槍でウェパルの身体を刺し貫いていた。そいつはフルフェイスのマスクを被り後頭部から赤い長髪が伸びている。

 そして、マスクの目元からはギラついた黄色い目が妖しい光を放っていた。


『何だこいつは……!?』


『アラタさん、このままじゃウェパルが!』


 そうだ、驚いている場合じゃない。俺たちはあの赤い奴の接近に気が付かなかった。状況的に俺を巻き込ませまいとウェパルはヒレで俺を吹き飛ばしたんだ。

 俺を庇って敵の攻撃を甘んじて受けたんだ。早く助けないと!


 俺が動こうとするよりも早く彼女の側近たちが鬼の形相で赤い乱入者に襲いかかった。

 すると赤い奴は槍を力ずくで引き抜きウェパルを蹴り飛ばすと、その反動で後方に飛び退いた。

 

「ウェパル様、ご無事ですか!?」


『……致命傷には至っていませんわ。けれどこの状況でまさか十司祭の襲撃があるとは……どうやらあたくしは最初からアスモダイ様……いいえ、アスモダイに信用されてはいなかったみたいですわね』


 フォルネウスはウェパルの無事に安堵すると、赤い奴の方を見て怒りを露わにする。サレオスとフォカロルも同様に敵を睨んでいた。

 一方の赤い奴は仮面から覗く黄色い目を細めている。……笑っているのか?


 俺はウェパルの側に行き安否を確認すると、槍に刺された傷口が塞がっていない事に気が付く。魔神化した魔人の再生力ならすぐに塞がる傷のはずなのに様子がおかしい。


『ウェパル、さっきは助かった。俺たちを庇ってくれたんだろ?』


『キマリスの狙いは最初からあたくしです。それに巻き込む訳にはいかないでしょう』


『キマリス……それがあの赤い奴の名前か』


 ウェパルは小さく頷くとか細い声でキマリスについて話をしてくれた。


『キマリスは元々レッドキャップだった男です。今の姿は魔神化ゴエティアした状態ですわ』


『レッドキャップ……って事は種族的にはゴブリンだったっていうのか!? あんな怪物が?』


 十司祭キマリスの姿からはゴブリンの面影はこれっぽっちもない。ただし、全身血のように赤い姿からはレッドキャップの名残が所々ある。

 奴が持っている槍に注目すると付着していたウェパルの血液が赤い穂先に吸収されていくのが見えた。

 「ゴクッゴクッ」と音を立てながらのその行為はまるで血を飲んでいるかのようだった。

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