白き不死鳥となって
「ルシア、いけるか?」
「はい、いつでも鎧闘衣になれるように準備は出来てます」
ルシアとアイコンタクトを取り頷き合う。ルシアの胸元に山吹色の紋章が浮かび上がり触れると彼女がビクンと震えた。
「はうっ! なにこれ……今までと違いますぅぅぅぅぅ!!」
ルシアの艶のある声に一瞬だけ戦闘中なのを忘れそうになるも頭を左右に振って常在戦場の心を取り戻す。
「マ、マテリアライズ――聖剣ブレイズキャリバー!」
ルシアは深紅の聖剣へと変身し、俺はその剣を携えウェパルに切っ先を向けた。俺の意思とは関係なく刀身から炎が噴き出し始めたので慌てて魔力を抑え込む。
「なっ! ちょ、大丈夫かルシア!」
『は、はい! アラタさんから送られる魔力の量と質が凄く強くなっていてびっくりしちゃいましたぁ。何て言うかこう、『子宮にズンッ!』っていう感じの刺激があったんですけど段々慣れてきました』
「え、ちょ、ル……ルシアさん!? 何か台詞がアンジェみたいになってんですけど本当に大丈夫!?」
『はい、大丈夫ですよー』
朗らかに返答するルシアだけど、あのアンジェと仲が良いだけあって普通の性格ではない。
俺と契約した四人のアルムスの中で実は一番淫奔な面があったりと中々に激しかったりする。
アンジェという変態の親友を持ち、ルイスという変態の妹を持っているだけの事はある。
こんな感じで、うちのエロテロリストの発言に惑わされているとブレイズキャリバーを見たウェパルが静かな声で指摘してきた。
『……炎の剣ですか。水の加護のあるあたくしに炎は無意味。悪手ですわね』
「そいつはどうかな? 確かに小さな火は水で消えるかも知れないけど、燃え盛る炎の前ではその限りじゃない。蒸発――水は炎に消されるんだよ。全身が凍って動けない状態で超高温の炎を食らったらどうなるんだろうな……」
『――っ!』
魔神化したウェパルの巨大な身体がビクッと震えた。その目には明らかに動揺が見える。
「いくぞ、ルシア!」
『はい! リアクター出力最大、シンクロ率及び魔力レベル問題なし。――いけます!』
「イクシード! ――来いっ! <マナ・フェネクス>!!」
俺を包むように魔法陣が展開され、俺とルシアの心と身体が融合し人型の鎧へと再構築される。
不死鳥の意匠を持つ深紅の鎧闘衣――<マナ・フェネクス>へと変身すると、機械仕掛けの翼を広げ炎の羽を放出して空を飛んだ。
意気揚々と攻撃準備に入る俺を目の当たりにしてウェパルの目が大きく見開かれる。
『それじゃあ、いっちょ全力でやってみるか。――覚悟しろよ、ウェパル。俺はやると言ったからにはやるからな。取りあえずお前には、どぎつい一撃を受けてもらう!』
『リミッター解除します。リアクター出力オーバーフロー、装甲オープン放熱開始、執行形態ディバインフェニックス稼働します!』
<マナ・フェネクス>の各部装甲が解放され内部に蓄積された魔力が炎となって放出される。
炎の翼の出力も増加し全身に炎を纏った俺たちはウェパルの直上に移動する。
『くっこの……動け……動きなさい!』
ウェパルが氷漬けになった身体を動かそうと必死にあがく。その度に身体の表面を覆う氷の一部が砕けて落下していく。
けれど、体内まで凍っているので動ける訳がなかった。
『そう簡単に動けるようになってもらっちゃ困るんだよ。そのためにセレーネに頑張ってもらったんだからな』
『<マナ・ドラグーン>のあの攻撃は、あたくしを倒すのではなく行動不能にするための布石だったということですか!?』
『ああ、そうだよ。今更気が付いても遅いけどな。止めは最初からこの<マナ・フェネクス>最大火力の一撃だと決めていた。――それに俺にはまだ<マナ・オライオン>という切り札が残ってる』
こっちにはまだ戦力が残っている事を告げると真下にいる巨大な海蛇が笑った。
『あたくしがこんな事を言うのも何ですが。――あなたは化け物ですわ』
『魔人と戦う俺にとっちゃ最高の褒め言葉だ。俺は連中にとっての天敵を目指してるからな。そろそろ決めさせてもらう!!』
光と炎の魔力を同時に高めていくと<マナ・フェネクス>の全身から放たれている深紅の炎が白色へと変化していく。
『エナジスト魔力最大解放、オーバーヒート発生! アラタさん!!』
『自滅したら元も子もないからな。こいつで決めるっ! ――シャイニングノヴァ!!』
<マナ・フェネクス>を覆う白い炎は巨大な不死鳥の形を取ってウェパル目がけて飛翔する。
このままの出力で突っ込めば確実に倒せるだろうが、威力を見誤ると相手の命まで取りかねない。
『シャイニングノヴァのパワー調整は私がやります。アラタさんは<マナ・フェネクス>のコントロールに集中してください!』
『分かった! 頼んだよ』
魔力調節はルシアに任せて俺は巨大海蛇の表面を削るように飛行していく。
ウェパルの凍り付いた身体が超高温の炎に焼かれて爆発を起こしていき、彼女の絶叫が周囲に響き渡った。
その声を耳にしながらも攻撃の手は緩めず、彼女の巨大な胴体を焼き切り<マナ・フェネクス>は氷原に着地した。