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絶対零度の魔術

『各セグメントとのシンクロ完了。――行けっ、アイシクルビット!!』


 通常の倍にあたる十四基のアイシクルビット全てと意識をシンクロして射出、メイルシュトロームの中心部を囲むように配置させる。


『よし、全基とも位置に着いた。全アイシクルビットに魔力集中――セルシウスフォーメーション!!』


 全てのアイシクルビットに魔力を集中し、大渦の周囲を不規則に高速飛行させるとその軌跡で巨大かつ立体的な魔法陣を作り上げる。

 

『術式構築、魔法陣形成……魔力注入開始……終了。ご主人様、いけますわ!』


 術式に魔力が行き渡り魔術の発動が可能になった魔法陣が光を放つ。


『この期に及んで何をする気かは知りませんが、今更メイルシュトロームを止める事は不可能ですわ。この魔術は一度発動してしまえば、あたくしの手から離れ全てを呑み込むまで消える事はありません。この世界――『ソルシエル』の意思そのものとなって全てを滅ぼすのです!』


 メイルシュトロームに絶対の自信を持つウェパルは巻き込まれないように大渦の中心部から離れ、削れていく『ミスカト島』を眺めながら笑っている。

 その様子は勝ち誇っているというよりも何処か自嘲気味な感じがした。

 大海を住処とするディープにとって陸地は新たなる生活環境として重要な場所だ。

 それを戦いに勝つためとはいえ、自分の手で破壊することに苦渋を感じているのかもしれない。


 ――だが、そんな結末は俺たちの目が黒いうちは絶対に許さない。


『人の手で誘発した天災だというのなら人の手で鎮めてみせる! 自然の力を悪用させてたまるかよ! 相手が大規模な渦だとしても、その中心部の動きが止まれば何とかなるはずだ!!』


『その通りですわ。極寒の絶対零度の中ではありとあらゆる物はその動きを停止します!』


『これで止まれぇぇぇぇぇぇ!! アブソリュート……ゼロッッッ!!!』


 魔法陣から絶対零度のブリザードが発生し大渦の中心部に降り注ぐ。

 渦の周囲に配置した十四基のアイシクルビットでアブソリュートゼロの力を強化し魔力を渦の凍結に集中する。

 すると少しずつ渦の流れが弱まっていき海がシャーベット状になったかと思うと一気に凍結した。

 こうなってしまえばこっちのもんだ。アブソリュートゼロの効果範囲を広げてメイルシュトロームの勢力下だった場所全てを凍らせ沈黙させた。


 その結果、『ミスカト島』と『ダウィッチ島』の周囲の海は全て氷原と化し、一仕事終えた俺たちは氷の大地へと着陸した。

 前方には巨大海蛇の姿ながら信じられないといった表情を見せているウェパルがいた。


『そんな……ありえませんわ! メイルシュトロームは母なる海の怒り……抗うことなど出来るはずがありません。それを……』


『それがお前の限界だって言うんなら、メイルシュトロームを止めた俺たちはお前以上に強いって事さ。――ウェパル、そろそろこの辺りで終わりにしないか?』


『なん……ですって?』


『お前はディープの未来の為に戦っているんだろ? そんな風に仲間を大切に思える人間が『アビス』にいるのはおかしいじゃないか。弱肉強食の世界を作ろうとしている奴等と行動を供にしているのは、ディープという種族を守る為なんだろ!?』


 戦い始めてからずっと感じていた。ウェパルはガミジンやアスタロトと違って利己的な思想の持ち主じゃない。

 彼女もまた俺たちと同じで仲間を守るために必死に戦っているだけだ。『アビス』側に付いているのは連中の方が強いから。

 もしも人間側に味方をすれば戦いに負けた時に魔人たちによってディープという種が根絶やしにされると考えたからだろう。


『確かにあたくしが『アビス』の一員になったのはディープを存続させるためです。『アビス』……いえ、アスモダイ様の思想は弱肉強食の世界。強者が世界を支配し弱者の命など無価値なものになる。例えそのような世界でも魔人として『アビス』側にいればディープの命は保証されるはずですわ』


 ウェパルの同族を守るという意志は固い。世界を支配する力を持つ『アビス』側にいればその未来は安泰だと思うのも納得出来る。

 だが、そんな彼女の希望に対しセレーネは否定的だった。


『……千年前にもあなたと同じ考えで魔人の軍勢側に味方した者たちがいましたわ。でも、その力が微力なものであると分かるとアスモダイは彼等を簡単に切り捨てました。――あの男は他人を自分にとって有用かそうでないかで判別する冷酷な者です。『アビス』側にいたからといって、あなたもディープも安全とは言えません。即刻手を切るべきですわ!』


『そんな事は分かっています。あの方にとって十司祭すらも都合の良い駒でしかないということは。それに、今更『アビス』から抜けた所でどうすればいいと? あなた方、陸の民はディープを魔物と同じと考えています。誰も味方がいない状況でどう生きていけばいいのですか? あなたはその答えを持っていますの!?』


 ウェパルの切実な問いに対しセレーネは黙ってしまう。ディープという種の存続に対する問題なのだから当然だ。

 その問題が簡単に解決できれば、そもそもウェパルは魔人の軍勢側に味方していない。

 

『ウェパル、今の俺たちはお前たちディープの問題を解決する答えを持っていない』


『そうでしょうね』


『でも、一緒に協力してその方法を模索する事はできるはずだ。世界は広い。必ずディープが安心して暮らせる方法があるはずだ!』


『言葉にするだけなら誰でも出来ますわ。言うだけ言ってほったらかしにするのが陸の民の常套手段です。その言葉に今まであたくし達が何度騙されてきたことか……!』


『そうか……それなら、もし俺が約束を破ってディープをないがしろにするようだったら俺を殺せばいい。――俺は本気だ。この戦いを止めさせたくて一時しのぎで言ってるんじゃないぞ!!』


『あなた……本気で言ってますの……?』


 ウェパルの目が大きく見開かれ、その巨大が後ずさりするように後退した。

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