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仲間の為に

 氷漬けになった敵を無言で見つめていると、付近の瓦礫が動いているのが視界に入った。


『何だ……?』


 警戒すると瓦礫の下から<マナ・ライガー>が勢いよく現れた。

 その他にも<マナ・ファルコン>、<マナ・ユニコーン>、それにアンジェとルシアの無事が確認できた。


『良かった。皆無事ですわ』


 セレーネが安堵していると皆が集まり、氷漬けになったウェパルを見つめる。


『ウェパルは死んだのか?』


 ロックが重々しい雰囲気で質問してきた。


『いや、一時的に凍っているだけだ。すぐに動き出す』


『そうか……あのさ、アラタ……』


『事情はアンジェから聞いた。――ったく、俺よりも頭が切れる奴が何人もいたのに何やってんだよ。あんなにぶち切れた奴を説得しようとしたって、話を聞くわけないだろ!』


 ロックの言葉を遮ってつい怒ってしまった。少し考えれば説得は無理だと分かったはずだ。


『いや、まあ、それはそうなんだけどよ。……でも、それでも俺たちはこれ以上ディープとの戦いはすべきじゃないって思ったんだ。だから――』


『……無駄な血が流れずに済むなら俺も賛成だよ。けど、今のウェパルはそれを聴いてくれる状態じゃない。――気乗りはしないけど、まずは弱らせてぶち切れ状態を鎮める必要がある』


 そう言うと皆がハッとした様子で俺を見る。その中でアンジェがウェパルを見ながら質問した。


「それで頭を冷やせという意味でウェパルを氷漬けにしたのですか?」


『そんなとんちが利いた感じで凍らせた訳じゃないよ。それに頭だけじゃなく全身凍らせちゃったし。――でも、これで終わりじゃない。まだ奴の怒りは収まっていない』


 話をしていると『ビキビキ』という物々しい音と共に氷柱に亀裂が入っていくのが見える。間もなくウェパルは再び動き出すだろう。

 その前にこれからの作戦を皆に説明しておかないと。


『ウェパルとは俺が戦う。アンジェとルシアはいつでもマテリアライズチェンジ出来るように準備をよろしく。ウェパルを戦闘不能に追い込むには二人の力も必要だ。残りの皆は競技場を守ってくれ』


「「――はい!」」


 アンジェとルシアは頷き武器化に備える。鎧闘衣マナギアとなった残りのメンバーは困惑していた。


『貴様一人で戦うというのか? 治癒術のお陰で俺たちも回復した。一緒に戦うのに支障は無い!』


 スヴェンがブリューナクを携えてやる気を見せている。けど、いつもの闘争心が鳴りを潜めている。


『……駄目だ。お前等はディープの魔人と戦ったことで連中に感情移入しすぎた。その結果、ウェパルに足元をすくわれたんだ。ロックに関しては……お前女性と戦うどころか触れられないだろ。――という訳で全員足手まといになるから下がってろ。お前等には俺がウェパルをボコボコにした後に奴を説得するっていう仕事がある。それまでは戦いの余波で競技場が壊れないように守りに徹してくれ』


『……分かったよ。アラタの言う通りにする。悔しいけど君が言った通り、ボク達は彼等に感情移入してしまった。お互いにこれ以上、傷つけ合いたくないと思ってしまったんだ。――ごめん、申し訳ないけど後はアラタに託すよ』


 話が終わると氷柱が砕け始めて巨大海蛇の目に生気が戻った。間もなく本格的にウェパルが動き出す。


『それじゃ行ってくる!』


 皆をこの場に残し、俺は<マナ・ドラグーン>の翼を広げてウェパルに先制攻撃を仕掛けるべく飛翔した。


『――少々キツい言い方でしたわね。『危険だから離れていろ』とか他にも言い方があったのではなくて?』


『そんな甘い言い方したら、ロックあたりは無理にでも戦いに参加しようとするだろ。皆の怪我は治ったけど魔力は既に底をついてる。鎧闘衣を維持するのが精一杯なはずだ。魔神化ゴエティアしたウェパルには鎧闘衣でなければ対抗できない。今の状態で皆が戦闘に加わったら瞬殺されるのは目に見えている。とても戦わせられないさ。それに――』


『それに……何ですの?』


 飛行しながらどんどん小さくなっていく仲間たちに向かって少しの間振り向く。

 俺が競技場から姿を現した時、皆はボロボロの状態だった。それでも逃げず戦い抜いた。

 それはきっと俺が必ず来ると信じてくれていたから。俺を信頼してくれていた証に他ならない。


『――皆は俺が回復して戻ってくる事を信じて戦ってくれた。だから、今度は俺が戦う番だ。仲間の信頼に報いる為にも俺は戦う。セレーネ、力を貸してくれ』


『…………ぽっ』


『……どうした? 何だか集中力が落ちているみたいだけど、大丈夫?』


『なっ、何でもありませんわ! ――全く、うちのマスターは時々そうやってカッコつけようとするんですから』


『はぁ? いきなり何を言ってんだよ。別にカッコつけてないよ! それと言っておくけどな、俺たちは今融合しててお前の感情丸わかりだからな。それに何だよ『ぽっ』て。表現が古いんだよ』


 セレーネからは好意的な感情が溢れんばかりに出ている。最初はそれを流そうと思ったが言い争ううちについ暴露してしまった。

 そんな俺の発言に反応したセレーネは恥ずかしさと怒りで俺に噛みついてきた。


『古くて悪かったですわね! どうせわたくしは千年前から生きている女ですわよ! このプライバシー侵害マスター!!』


『別に知りたくて知った訳じゃないよ! 逆を言えばお前だって俺の考えてること分かるだろ。おあいこだよ、おあいこ!』


 なし崩し的にセレーネと口喧嘩が始まってしまった。そんな事をしながらウェパルのハイドロブレスで出来たばかりの湖の上空に入る。

 その瞬間、俺たちを狙う殺気と魔力を感知した。


『下方の湖に魔法陣の展開を確認、攻撃が来ますわ!』


 直後、湖から巨大な水柱が発生し何とか回避すると、逃げた先の真下からも水柱が襲ってきた。


『これは……スプラッシュか!? 次から次へと……!』


 回避を繰り返すうちにいつの間にかウェパルの目の前に誘導されていたことに気が付く。

 そこで氷漬けになっていたはずのウェパルと目が合った。


『既に意識が戻っていたのか!』


『あたくしをこんな目に遭わせておいて、何をイチャついているんですの!!』


 ウェパルは身体の凍結を解除すると同時に自身を覆っていた氷柱を砕いて身体の自由を取り戻した。

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