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絶望の中の希望

「だああああああああっ!!」


 イポスの懐に入り込み奴の左腕を斬り飛ばした。切断した前腕が離れた場所に落下し、本体の方は痛みで怒り苦しみ俺を睨んでいる。


「ぐっ……チクショオオオオオオオオオオ!! 何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だぁぁぁぁぁぁぁぁ!? こんな陸の人間風情に、何故俺様がこうも圧倒される!? ウェパル様の血で魔人に生まれ変わった俺様がぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「……うるせーな。ヒステリーを起こすな、みっともない。お前の力はウェパルの血によって得たものなんだろ? つまりお前は他人から与えられた力で強くなっただけだ。突然手にした力に振り回され自滅するのを恐れて無意識に力を抑えてる。俺にはそれが分かる」


 魔眼を通してイポスの魔力の流れが手に取るように分かる。こいつはかつての俺と同じで力のコントロールが出来ていない。

 それなのに手に入れた力を制御する努力をせずに自分より実力の劣る相手にイキり散らす愚か者だ。


「それを見抜かれたのは初めてだ。こうなったら全ての魔力を解放してやる。そうすれば、ここにいる連中は俺の魔力に当てられてショック死するだろうよ!」


「そんな事をさせる訳ないだろ」


 イポスが魔力を練り上げようとした瞬間、奴の頭上に高速移動し上から頭を殴って地面に叩きつける。

 そこから上空に向かって蹴り飛ばすと奴は脱力したように空中で回転していた。

 気絶したのかと思っていたら、回転はぴたりと止まって頭上から俺を見下ろす。


「よくも……よくもやってくれたな!! 残りの魔力を全部使ってこの場所ごとお前を消し去ってやる。――くたばれぇぇぇぇぇ、異世界人ッ!!」


 イポスが残った右腕のヒレに高密度の魔力を集中させ始めた。あの魔力量を放たれれば俺は無事でも避難民が確実にやられる。

 俺はイポスに向かって跳躍しナイフを逆手に持って魔力を込めた。

 ディストラクションは俺の意思のままに、その破壊に特化した魔力を収束していく。


 トリーシャと一緒に戦っていた時は彼女の風の魔力をメインにしていたから、俺自身の力は抑え気味だった。

 だからこそ今回は力のコントロールの確認をするために単独戦闘をすることにした。その結果、俺はディストラクションを制御できる事が分かった。

 あの頃は怖くて仕方が無かった敵が、今は俺の味方となって共に戦ってくれている。


「全員仲良く斬り刻まれろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 イポスは余力を全てつぎ込んだ斬撃を俺に向けて飛ばしてきた。俺はそれをナイフの刀身で受け止めると砕いて消滅させた。


「こんな攻撃でやられるか!」


「そんな、俺様の残りの魔力を全て乗せた一撃だぞ。それをこうも簡単に……!?」


 空を蹴ってさらに加速しイポス目がけて飛翔する。魔力を集中しているナイフの刀身を白いオーラが包み大剣のように巨大な刃を形成した。

 それを目の当たりにしたイポスは悔しそうな表情をしていた。


「俺様は……俺様は、こんな所で終わらない!! フォルネウスのような臆病者とは違う。陸の人間共を全て皆殺しにして、いずれはディープの王になるんだ! それを邪魔するお前は一体なんなんだ!!」


「知りたいか? なら教えてやる。俺はムトウ・アラタ。お前等魔人にとっての天敵だ! ――これで消え去れ、白牙びゃくがァァァァァァァ!!」


「俺様は……俺様はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 白い光刃を直接イポスに刻み込みその身体を真っ二つにすると、イポスは断末魔の叫びと共に消滅した。




 イポスを倒し戦いが終わると周囲が水を打ったように静かになる。それから一呼吸おいて歓声が沸き起こった。

 そんな中、セレーネとトリーシャがギーグさんと一緒にこっちに歩いてくるのが見えた。


「怪我は大丈夫ですか?」


「ああ、彼女たちのお陰で傷は塞がったよ。ありがとう、君のお陰で助かった」


「俺は魔人を倒しただけです。それにあいつは俺を追ってここに来ました。そのせいでここに避難してきた人やあなた達に迷惑を掛けました」


 申し訳なさで唇を噛むとギーグさんが俺の肩に手を置いて顔を左右に振った。


「それは違うぞ。君が戦ってくれなければ、『ミスカト島』の住人は全員魔人の手に掛かっていたはずだ。君と君の仲間たちのお陰で沢山の人々が助かったのは事実なんだ。だから気に病んだりしないで欲しい」


 ギーグさんもその他の冒険者たちも頷いていた。

 その言葉に心が軽くなるのを感じていると、競技場の外から咆哮が聞こえてきた。きっと皆が戦っているに違いない。

 

「セレーネ、いけるか?」


「ええ、こっちは問題ありませんわ。早く行きましょう」


「ああ、急ごう。トリーシャはここに残ってギーグさん達と一緒に競技場の防衛に当たってくれ」


「分かったわ。悔しいけど、今の状態の私が行っても足手まといになるだけでしょうから」


 セレーネの胸元に青色の紋章が浮かび上がり、そこに手を触れる。


「マテリアライズ――竜剣ドラグネス!」


 セレーネは青いオーラに包まれると大型の七支刀へと変身し氷の刃を形成した。外から感じる魔力から考えると戦いは魔神と鎧闘衣マナギアの戦いになっているはず。

 それならこっちも最初から鎧闘衣になっておいた方がいいだろう。


「セレーネ、鎧闘衣になって外に出る。すぐに魔神との戦いになるはずだ」


「分かりましたわ。エナジスト状態問題なし、リアクター出力上昇。――いけますわ」


「よし! イクシード――来い、<マナ・ドラグーン>!」


 俺を包むように魔法陣が展開されて俺とセレーネは融合し、青い装甲に身を包み背中には竜の翼、臀部からは尻尾を生やした人型の竜騎士へと変身した。


 <マナ・ドラグーン>となった俺の姿を見てギーグさんを始めとする冒険者たちが驚きの表情を見せている。


「こいつは驚いた。伝説の鎧闘衣を立て続けに目の当たりにする事になるとは……。<マナ・レムール>に<マナ・ドラグーン>……千年前の魔人戦争を終結に導いた鎧闘衣のうちの二体……か」


『伝説の鎧闘衣なんて買いかぶりですわ。わたくし達があの戦いで成すことが出来たのは些細なことだけです。真に評価されるべきはホタル教官とそのマスターです』


「そうね。ホタル教官に比べれば私たちなんて実力不足だったものね。ホタル教官の鎧闘衣<マナ・シリウス>こそ最強の名にふさわしいと思うわ」


 セレーネとトリーシャがかつて一緒に戦っていた先輩アルムスの事を思い出し、嬉しさと寂しさが入り交じった感情が伝わってくる。

 それにしてもホタルって母さんと同じ名前なんだけど、まさかね――。

 とにかく今は外で戦っている皆と合流しないと。


『それじゃ、俺たちは外に出て魔神との戦闘に入ります。ギーグさん達は競技場の守りをお願いします』


「了解した。――ご武運を!」


 俺は頷くと翼を羽ばたかせて一気に競技場上空に浮上する。そこから見えた風景は最悪のものだった。

 観光業で賑わっていた煌びやかな街並みは崩壊し、多くの建物が破壊され廃墟と化していた。

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