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寝ぼすけは圧倒する

 身を隠していた作戦会議室を急いで出ると、腰に備え付けてあるアダマント製ナイフを鞘から抜いて装備する。

 魔人と戦っていた冒険者たちは皆やられて倒れ、セレーネが首を掴まれて宙づりにされている。


「あの……ヤロウッ!!」


 多くの冒険者が瀕死になり、セレーネが苦しんでいる姿を目の当たりにして怒りでぶち切れそうになる。

 足底部に集中した魔力を爆発させて一気に加速、敵の懐に飛び込んだ。


「いい加減にしろよ、このクズ魚類!!」


 セレーネの首を掴んでいた魔人の手首をナイフで斬り落とし、その顔面を思い切りぶん殴った。

 

「なにっ!? ぶるぁっ!!」


 半魚人の姿をした魔人は吹っ飛ぶと競技が行われるコース上を転がっていき壁に直撃して止まった。

 その場に投げ出されたセレーネをキャッチすると、咳き込みながら彼女が俺の方を見る。

 彼女の目の焦点が徐々に元に戻っていき、俺と目が合うと途端にギャン泣きを始めた。

 

「うう……ひっく……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇん、ご主人様ァァァァァ!!」


「遅れてごめん。でも、もう大丈夫だ。後は俺に任せろ!」


 セレーネに謝り彼女の髪をそっと撫でていると、俺の襟を掴んで思い切り揺らしながら泣きわめく。


「本当に目を覚ますのが遅いですわ! こんな時まで寝起きが悪いなんて、何を考えているんですの!!」


「ちょっ! 前後に揺すらないで!! まだ寝起きで……うぷっ、気持ち悪く……この、やかましい! トリーシャ、こいつを連れて重傷者の回復に当たってくれ」


 セレーネの首根っこを掴まえて後を追ってきたトリーシャに投げ渡す。


「ちょっと待って。もしかしてあの魔人と一人で戦うつもりなの!?」


「ああ。あいつをぶっ潰すのにアルムスの力を借りなくても問題ない。ナイフ一本あれば十分だ。――あいつを倒したらすぐに外に出るからそれまでに一人でも多く治療してくれ」


 二人に指示を出していると魔人が起き上がった。敵意むき出しの顔で俺を睨んでいる。

 この一触即発の雰囲気を感じ取ったセレーネとトリーシャは、頷くと魔人にやられ倒れているギーグさん達の所へ向かっていった。


 周囲を見てみれば酷い有様だった。ここに避難してきた人たちは戦いに巻き込まれ大勢が怪我をしている。

 いたる場所から家族の名を必死で呼ぶ声や泣き声が聞こえてくる。俺が眠っている間にこんな事になっていたなんて……。


「お前が異世界人のガキか。よくもこのイポス様の身体に傷を付けてくれたな。この代償は高くつくぞ!」


「その言葉そっくりそのまま返す。よくもやってくれたな! お前は絶対に許さない……ここで跡形もなくぶっ潰してやる!!」


 イポスはその場から走り出し真っ直ぐ俺に向かってくる。両腕のヒレに魔力が集まり、禍々しいオーラを纏わせている。


「お前を倒せば俺様は魔人として箔が付く。それにお前のアルムス全員をもらってやるよ! 優しいだろぉぉぉぉぉ!!」


 奴のヒレは俺の首目がけて打ち込まれる。それをアダマント製ナイフで受け止めると魔力が干渉して火花と甲高い金属音が響く。

 今の攻撃に自信があったのかヒレを防御されてイポスの黄色いギョロ目は見開かれ驚いていた。


「受け止めただと!?」


「……お前は色々と勘違いをしてる。自分が優しいかどうかなんてのは自分で決める事じゃない。自分の在り方を見た周りの人たちが判断することだ。それと、お前みたいな三下にやられるほど俺は甘くないぞ」


 ナイフで奴のヒレを弾きそのまま袈裟懸けに斬る。斬撃を入れた箇所から黒血が噴き出しイポスは驚きながら後ずさりする。


「な……に……? いつの間に斬られたんだ? それに、その魔力と動き……お前はもう動けなかったんじゃ……!?」


「その情報は少し古い。今はこうしてほぼ全快してるよ。もしかして、お前は俺が動けないところを襲ってきたのか? ――だとしたら、随分とせこいな」


 ナイフに魔力をわせて斬りつける。イポスは左右のヒレで受け止め、俺は連続でナイフを振るった。

 相手は二刀流でこっちの武器は一つ。単純に考えれば向こうに分があるように思えるが、二振りの防御を崩す速度でナイフを振るい奴の両腕を打ち上げる。


「何だ、この速度は? 俺様がスピードで負ける……だと!?」


「その程度でスピード自慢か? アスタロトに比べればスローモーションに見えるぞ」


 腹に蹴りを入れて吹っ飛ばすとイポスはそこを押さえて苦しんでいた。

 俺は今、魔人を単独で圧倒しているが、そこには一欠片の慢心はない。左頬に残した傷が疼き一分の隙も見せず敵を潰せと言っている。

 こいつは弱っていた俺に止めを刺す為に送られただけの雑魚だ。本命は今、皆が外で戦っている連中だ。とっとと決めさせてもらう。

 

 俺は魔力を全身に巡らせ、その力をコントロール出来ている事実に安堵していた。元々俺の中にあった力――ディストラクション。


 子供の頃はその力の強大さに振り回され、強力な封印を施さなければならなかった。封印された後は、力が戻った場合に備えて父さんが俺を鍛えてくれた。

 父さんだけじゃない。母さんと姉さんも俺をずっと支えてくれた。生活の中心であった退魔師の存在を忘れた俺に合わせて普通の家庭の子供として育ててくれた。


 父さん……母さん……姉さん……ありがとう。あなた達が守り育ててくれたお陰で俺は今この力を制御し戦うことが出来ている。

 理不尽な暴力の前に震え傷つき泣いている人の為に、俺はこの力で戦い抜いてみせる。

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