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お熱いのはお好き?

 ロック達がウェパル傘下の魔人たちと死闘を繰り広げている時、アンジェとルシアは十司祭ウェパルと相対していた。

 

「うふふふ、予想以上にやりますわね。二人がかりとはいえマスター不在のアルムスが魔人たるあたくしとここまで長く渡り合えるなんて、さすがは魔人戦争を戦い抜いただけのことはありますわね」


「お褒めいただき痛み入ります。あなたも陸に上がってきてからそれなりに時間が経過しましたが干上がったりはしていないようですね。やはり普段から陸で日光に晒されて、しおしおになっているからですか?」


「どうして日常的に干物になる練習をしなければならないんですの!? あなたさっきからやたらとあたくしを弄りますわね!! あたくしを舐めてるんですの!?」


 アンジェの挑発によって激怒したウェパルは水の鞭――ウォーターウィップで乱れ打つが怒りで狙いが定まらず、アンジェとルシアは魔力で形作った剣でいなす。


「そんな、舐めるわけないじゃないですか。そんな海水まみれの身体なんて舐めたら血圧が上がってしまうでしょう?」


「失礼な、塩分控えめですわよ! ここまであたくしを苛立たせるなんて一種の才能ですわね。良いでしょう、一気にひねり殺して差し上げますわ!!」


 さらに怒りを増したウェパルの攻撃は強力になるものの精細さを欠き、二人は何とか交わし続ける。

 

「アンジェちゃんのお陰で敵の攻撃が雑になってる。これなら何とか時間稼ぎができそうね」


「とは言ってもそろそろ私の煽りに耐性がついてきた頃だ。水の魔術は変幻自在……ウェパルが冷静さを取り戻せば対応が難しくなる。悔しいが彼女の言う通りアルムス単体の力では魔人を倒すのは難しいな」


「そうね……よし、私も相手を怒らせる台詞を考えてみる。……お刺身にしちゃうぞっていうのはどう?」


「それは開幕早々に使ってしまったな。魚ネタではもう効果は薄いかもしれないな」


 攻撃を躱しつつ作戦を立てる二人の会話にウェパルが乱入する。


「お刺身とか干物とか、散々言ってくれましたわね。――ところでメイドのあなた。さっきから気になっていたのですけれど、あたくしと話すときと味方と話すときで言葉遣いが変わりますわね。それって何か意図があるのですか?」


「――別に、今の方が地の話し方なだけだ。気になるのならこのままで行かせてもらうが?」


「どっちでも構いませんわ。本当に変なアルムスですわね。あなたと話していると調子が狂いますわ。……もしかしてそれが狙いでわざとあたくしを怒らせていたとか?」


「ばれたか」


「あー、気づかれちゃったね」


 悪びれないアンジェとルシアの態度に怒りを感じつつも、それでは敵の思うつぼと我慢するウェパル。

 一方の二人は、ここからが正念場と考え武器を構える手に力を入れる。左右に分かれウェパルを挟撃する。


「出し惜しみをしていたらやられる。シャドーブレイド最大出力……!」


「まずは私からいくわっ! 炎よ、無数の槍となりて敵を穿うがて――フレイムランス!」


 ルシアがいくつもの炎の槍をウェパル目がけて放つ。アンジェはそれによって出来る隙を狙ってシャドーブレイドの威力を高めながら接近する。


「いいコンビネーションと言いたいところですが、詰めが甘いですわ!」


 ウェパルは水の壁を作ると、そこに直撃したフレイムランスは一瞬で水に呑み込まれて消滅してしまった。

 その隙にアンジェは接近するがウォーターウィップが剣を持った腕に絡みつき、そのまま振り回され地面に叩きつけられる。


「かはっ!」


「その程度でやれるほどあたくしは甘くありませんわよ」


「アンジェちゃん! このぉ……!」


 ピンチに陥るアンジェを助ける為にウェパルに斬りかかろうとすると、ルシアの真下から凄まじい勢いで水柱が発生し彼女を空高く吹き飛ばす。


「きゃああああああああ!!」


 ルシアはそのまま地面に落下し、時折身体を痙攣させる。その姿を見下ろすと、ウェパルは魔術で作りだした水を喉を鳴らしながら飲んで見せる。


「うふふふふ、痛いでしょう? 普段はこんなに清らかな水も水圧を上げれば岩をも砕く威力になる。今あなたに放ったスプラッシュも同様。まるでハンマーで殴られたかのような痛みがあるはず。ごめんなさいね」


 ルシアが突っ伏していると、アンジェはシャドーブレイドで水の鞭を切断しウェパルに接近した。

 そんな闇の斬撃に対しウェパルは鞭を棒状に変化させて受け止める。


「大した瞬発力ですがパワー不足ですわ」


「そのようだな。ここまで実力差があるのは悔しいが、それならば今の自分に出来る最善を尽くすまでだ!」


「健気ですわねぇ。それはアスタロトと戦って精根尽き果てた、あなた方のマスターへの忠義ですか?」


「そうだ! 十司祭との重要な局面であったのにアラタ様とトリーシャに全てを背負わせて側にいることさえ出来なかった。――こんな屈辱があってたまるか!!」


 自分のマスターと仲間の危機に立ち会えなかった苦渋の怒りを爆発させたアンジェは、怒濤の剣さばきでウェパルを追い詰めていく。

 その鬼気迫る勢いにさすがのウェパルも余裕をなくす。


「ちっ、接近戦はあなたの方が得意のようですわね。だからと言ってこのまま押し切られるあたくしではありません事よ!」


「そんな事は百も承知だ」


 その言葉を吐いた瞬間アンジェは後方に全力で下がった。その動きに疑問を抱いた直後、ウェパルの真下から炎の壁が噴出し彼女を巻き込み燃え盛る。

 ――が、炎の壁は瞬く間に消滅してしまった。その中から水の障壁を張ったウェパルが姿を現す。

 彼女の視線の先にはうつ伏せの姿勢で魔力を込めた手を地面に伏せているルシアがいた。ルシアもまたウェパルを悔しそうに見つめ返していた。


「フレイムウォールが一瞬でかき消されるなんて……」


「ほんの一瞬だけ肝を冷やしましたわ。ですが炎は水で消える――子供でも知っていることです。あなたの炎はあたくしには通用しません。残念でしたわね」


「そんな子供でも知っている知識をひけらかして楽しいか?」


 ウェパルが後方から聞こえる澄んだ声の方を見やるとそこには巨大な闇の大鎌を携えたアンジェがいた。

 クールメイドの薄紫色の瞳はウェパルを真っ直ぐに捉え、大鎌を振るために腕を大きく振りかぶっていた。


「こいつ、いつの間に――!」


「本命を叩き込んでやる! ――デスサイズッ!!」


 腰の回転を利用し素早くかつ重い一薙ぎをウェパルにお見舞いする。斬撃の直線上にあった物は余波で真っ二つに切断され、ずれ落ちていった。

 抜群の切れ味と威力を誇るデスサイズ。ウェパルを斬り飛ばした後、アンジェが大鎌の刃に目を向けると途中から刃は折れており、瞬く間に闇の大鎌は消失した。


「くっ、確実に命中したのにこれでも倒せないか」


 アンジェが悔しそうにしていると、斬り飛ばされ倒れていたウェパルが何事もなかったかのように上体を起こす。

 その腕には切り傷があり黒血が流れていたが、自身の治癒術で傷跡も残らず完治してしまった。

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