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拳を交えた後は

 既に魔神化ゴエティアは解除され満身創痍となったフォルネウスの姿から、もはや戦うことは不可能だという事は明白だった。


 ロックとレオは鎧闘衣マナギア形態を解除すると倒れたまま動かないフォルネウスの側まで歩いて行く。

 二人は全身傷だらけで歩くのがやっとという状況だ。

 フォルネウスは目だけを動かしそんな姿の二人を見ると微かに笑って見せる。


「ふっ……随分とボロボロの姿だな。私に勝ったというのにそれでは格好がつくまい」


「うるせーよ。それだけお前が強かったんだよ。――こうして自分がここに立っているのが不思議なくらいだぜ」


「……そうか……私は強かったか……」


「ああ、俺がこれまで戦った相手の中でもトップクラスだった。師匠やガミジン級だったぜ……」


 その名を聞いたフォルネウスは深呼吸すると微かな声を絞り出す


「十司祭と同等のレベルとは恐れ入る……な」


「本当だよ。オイラの記憶が確かなら魔人戦争で戦った相手を数に入れても上位に入る強さだったよ」


「……なるほど。千年前の戦争を経験したアルムスが言うのなら間違いないか」


「お前……俺の言うことは信じなくてレオの言うことは信じるのかよ。ったく、やってらんねーよ!」


 ロックは不機嫌そうな顔を見せるが、レオが笑うとロックも笑いそしてフォルネウスも笑みを見せていた。

 そんな好敵手の姿を見てロックはその場に座ると顔の高さを近づけ語りかける。


「フォルネウス……お前言ってたよな。同族であったなら友達になれただろうって。俺はそうは思わないぜ。――例え違う種族でも、育った場所が陸と海で違っていても、拳を合わせて互いを認め合った俺たちは……既に友だと思ってる」


「……っ!?」


「俺は確かにお前みたいなすかした野郎は嫌いだが、お前の真っ直ぐな拳は滅茶苦茶好きだぜ! 戦った後でこんなにスカッとした気分は初めてだ」


 ロックがニカッと歯を見せて笑うとフォルネウスは目を閉じて笑っていた。

 

「私も同じだ。この戦いは我々ディープにとって陸の民への宣戦布告となる重要なものだったのに、お前と戦っているうちにそんな事も忘れ拳を交えることに夢中になっていた。ウェパル様の側近として失格ではあるが……本当に……楽しかった!」


 今まで見せたことないフォルネウスの笑顔を見てロックとレオの目から涙が流れ始める。

 激戦の末に瀕死の状態となったフォルネウスがもう助からないということが分かっていたから。

 敵でありながら拳を交わし友となった相手がいなくなってしまう事実に目が熱くなるのを止められなかった。


 もう自分が助からないという事はフォルネウス自身が一番よく分かっていた。だからこそ、死にゆく自分の為に涙を流す二人を見て驚き目が見開かれる。


「不思議な気分だ。さっき会ったばかりの殺し合いをした相手だというのに、まるで何年も共に過ごした朋友との別れの気分だ。――ロック、レオ……アロケル殿はここより東にある『カンパニュラ大陸』にいる。そこに住む亜人たちに介入しヒューマが治める国々と戦わせ自滅させようとしているのだ。私も詳しくは知らないが、そういう作戦らしい。……頼む、彼を止めてくれ! お前たちにしか止められない。あの悲しい目をしたアロケル殿を止められるのは、きっとお前たちだけだ!」


 フォルネウスがズタズタになった手を震わせながら何とか持ち上げると、ロックとレオはその手を握りしめた。


「ああ……ああ! 分かった! 師匠は俺とレオが必ず止めてみせる!! だから、だから……お前はゆっくり休め……」


「そうか……それなら安心……だ。……ウェパル様、先に逝く私をお許しください。……さらばだ……ロック……レオ……」


 忠義を捧げた者と友となった者の名を言うと、フォルネウスの手から力が抜けた。急に重くなったその手を握りしめてロックとレオは声を押し殺して涙を流す。

 その時、急激に膨れ上がる魔力と共に天をくように巨大な海蛇が出現するのをロック達は目撃する。


「なん……だ、あれは……!?」


「この魔力は……ウェパルだ。あんな規格外な魔神化なんて見たことないよ……!」


 戦う力が残っていない二人にとって突如現れた魔神は絶望の象徴とも呼べる姿をしていた。

 その巨大な海蛇は上空に戦場一帯を範囲に収める巨大な魔法陣を展開する。

 魔法陣からオーロラのような淡く温かい光が地上に放たれ、もう駄目かと二人が諦めかけた時、信じられない現象が起こる。

 

 大怪我をしていた二人の傷が瞬く間に完治したのだ。しかし、その光が起こした奇跡はこれからだった。

 ロックとレオの目の前で生きを引き取ったはずのフォルネウスの身体もまた治癒したのである。

 

「おい……これってまさか……!」


 ロックが言いかけた時、死んだはずのフォルネウスの目が開かれ上半身を起こす。そして近くにいるロックとレオと目が合うと不思議そうな顔をする。


「これは……私は……?」


「フォルネウスが起き上がった!?」


 三人は状況が呑み込めずしばらく固まっていた。すると巨大な海蛇と上空の魔法陣に気が付いたフォルネウスの表情が青ざめる。

 

「あれはウェパル様……魔神化したのか。それに上空のあの魔法陣は……それに私は死んだはず……しかし、生きている。という事はまさか〝リザレクション〟を使われたのか!?」


「おい、フォルネウス。これは一体どうなってんだ? お前は確かに死んだはずだろ。それがどうして……?」


 状況について行けないロックが質問すると息を吹き返したフォルネウスは重い口を開く。


「……そう、確かに私は死んだ。しかし、ウェパル様のリザレクションによって復活したらしい」


「リザレクションだって!?」


 レオがいきなり大きい声で叫んだので近くにいたロックは驚いてのけぞってしまう。


「びっくりした! いきなり大声出すなよ。耳がキーンてなったわ! つーか、レオ。お前そのリザレクションて魔術知ってるのか?」


「うん。リザレクションは治癒術の最上位に位置する魔術だよ。怪我を完全治癒し死後間もない者なら蘇生させられる。その分、自分の魔力や生命力にかなり負担が掛かる魔術なんだよ。多分ウェパルはフォルネウスが息絶えるのを感知してリザレクションを使ったんだ。オイラ達の怪我が完治したのはそのおまけ効果ってとこじゃないかな?」


「……その通りだ。リザレクションをこのような広範囲で使用したため敵味方の識別を無視して使用されたのだろう。私がふがいないばかりに主にこのような負担を掛けてしまうとは……情けない!」


 ロックはフォルネウスと遠くで巨大な海蛇と化したウェパルを交互に見ると、ある想いを言葉にする。


「……なあ、フォルネウス。俺たちは怪我は治ったがもう戦えるような力は残ってない。だからここで一旦休戦しねぇか? それでウェパルの所に行って戦いを止めさせられねーかな?」


「何だと? それはどういう風の吹き回しだ?」


「お前と戦っていて思ったんだ。俺たちとお前たちは似てるって。ウェパルは十司祭の一人だが、部下のお前を死なせないために身を削るようなとんでもない魔術を使ったんだろ? そんな奴なら、もしかしたら戦わなくてすむ道があるんじゃないか?」


 ロックの予想外の提案にフォルネウスは驚きしばらく考え込む。その姿を見ていたレオは更に言葉を重ねた。


「オイラもロックの意見に賛成。こうしてフォルネウスとも分かり合えたんだし、説得する価値はあると思う。ここで考え込んでいても仕方ないし、とにかくウェパルの所に行こうよ。あそこにはアンジェ姉ちゃんとルシア姉ちゃんもいるはずだしさ」


 こうして三人は激闘で鉛のように重くなった身体を起こして移動を開始した。一方で、その胸中にはこれ以上血を流さずに戦いを終わらせたいという希望が芽生えていた。

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