炸裂! 獅子王武神流奥義
クロスカウンターから始まった<マナ・ライガー>と魔神化したフォルネウスの戦いは最初から全力の応酬となった。
『――っつ、まだまだぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『もっと私をたぎらせてみろ、ロック!!』
常に肉弾戦を繰り広げる二体は目にも留まらぬスピードでパンチやキックを放ち、それを紙一重で躱しカウンターを狙いあう。
武闘家としての鍛錬と数々の実戦により洗練された技術を総動員して息をもつかせぬ攻防が続く中、先に仕掛けたのはロックだった。
『奴の左腕から繰り出されるシャークバイトは危険すぎる。――それならっ!!』
ロックはフォルネウスの右側面に高速移動し全力の拳を打ち込んだ。しかし、その打撃は相手には届かなかった。
フォルネウスは右腕を覆うサメのオーラで完全に防御していたのである。
『なんっ――!?』
『シャークバイトが左腕でしか使えないと何故そう思った? 思い込みは戦いの判断を鈍らせ、時には取り返しのつかない結果を生み出すことになるぞ。――こんな風にな!!』
左腕にもサメのオーラを纏わせ<マナ・ライガー>の腹部に打ち込むとすかさず右腕のシャークバイトを打ち込む。
両腕に展開したシャークバイトでフォルネウスはロック達を圧倒し始める。
堅固なマナの金属で構成される鎧闘衣の装甲に亀裂が入り砕け散ったマナの破片が雪解けのように大気に還っていく。
『胸部装甲に亀裂発生! このまま攻撃を受け続けたらヤバいよ!!』
『そんなこたぁ分かってる! けど、パワーが段違いなんだよ!!』
翻弄され反撃の糸口がつかめない<マナ・ライガー>の両腕にシャークバイトが食らいつくと、そのまま持ち上げ宙づりにする。
『くそ……振りほどけねぇ!!』
『無駄だ。シャークバイト双咬合によって捕縛されて脱出できた者は一人もいない。このまま両腕を噛み千切ってやろう。そうなれば鎧闘衣とてただではすまないはずだ』
徐々にサメの歯先が前腕に食い込んでいく中、ロックとレオは為す術なくフォルネウスを見下ろしていた。
そんなロック達を見上げるフォルネウスは攻撃の手を緩めることなく<マナ・ライガー>の両腕破壊を続ける。
『お前の拳は実に真っ直ぐで好感が持てる。もしも、お前が陸の者でなかったなら良き友人となれたかもしれないな。――実に残念だよ、ロック・オーガン』
『……そうかよ。俺はお前みたいなキザ野郎が大嫌いでな。例え同族だったとしても仲良くなれたとは思えねぇけどな!』
『そうか、そうだな。私としたことが感傷的になっていたようだ。そろそろ終わりにさせて……なんだ? 歯がこれ以上進まない……だと!?』
驚いたフォルネウスが<マナ・ライガー>の腕部に目をやると集中した魔力によってシャークバイトの歯が押し返されているのを目の当たりにする。
するとロックの笑い声が聞こえてくるのであった。
『へへへ……驚いたかこの野郎! このままやられる俺たちじゃないんだよ! ――レオ、執行形態いくぞ!!』
『合点承知! リアクター全開、リミッター解除。――執行形態ライガーハート発動するよ!!』
<マナ・ライガー>の各部に取り付けられた爪パーツが開き放熱が開始、琥珀色の粒子が放出され始め周囲に光が満ちていく。
その幻想的な光景に目を奪われたフォルネウスは一瞬だけシャークバイトの咬合力を弱めてしまう。
ロックはその隙を逃さずフルパワーでサメ歯を押し返すとフォルネウスに蹴りを入れてその場から脱出した。
『私としたことが戦いの中で戦いを忘れてしまうとは。まだまだ修行が足りないな……』
『それだけ強くてよく言うぜ。ったくショックだぜ、この技は対十司祭用に温存しておくつもりだったのによ。まさかこんなに早く使うことになるとは思ってなかったぜ』
『そんな事言ってここでやられたら元も子もないでしょ。全力を出し切らないと負けちゃうよ!』
『分かってるっつーの! だからこうしてやろうとしてるだろうが!!』
渋々といった様子のロックをレオが説教する。二人の会話を聞いていたフォルネウスは緊張感のない相手に憤りを覚える。
『ハッタリを言ってこの真剣勝負に泥を塗るつもりか? 正直がっかりしたぞ。この失望はお前の命であがなってもらう。――さらばだ!!』
怒りに身を任せたフォルネウスは両腕にシャークバイト双咬合を纏わせて戦いに終止符を打とうと接近を開始した。
その怒れる眼差しの先にいる鎧闘衣は両前腕と両脚部に魔力を集中し、その箇所はオーラによって琥珀色に染まっていた。
『何だ? 魔力を局所的に集中しているのか!?』
『ああ、その通りだ。それによって生み出される圧倒的なスピードとパワーによる連撃。これこそ――』
言いかけてロックは四肢に集中させた魔力を解き放つ。
すると、ついさっきまでフォルネウスの前方にいた<マナ・ライガー>は一瞬でゼロ距離まで接近し、鋭い眼光でフォルネウスを睨み付けていた。
『はやっ――』
その圧倒的なスピードに驚くと同時に身体の芯まで響くダメージを受けてフォルネウスは身体をくの字に曲げた。
その一撃を皮切りに次々にオーラを纏った拳と蹴りの乱舞がフォルネウスの身体中に叩き込まれる。
両腕のシャークバイトで防ぐことも攻撃を当てることもできず<マナ・ライガー>の猛攻は止まらない。
『なん……だ……これは……!?』
『獅子王武神流奥義、獣王蓮華。――もっとも、昔師匠が使ってるのを再現した我流に近い技だけどな!』
『獅子王武神流継承者と長年契約してきたオイラのお墨付きだから威力は本物と遜色ないよ。これなら倒しきれるはずだ!』
獣王蓮華を受け続けたフォルネウスの身体はダメージによって黒血がほとばしり追い詰められていく。
『あともう少しで勝てる! これで……っ!?』
フォルネウスから反撃の意志が消え止めを刺そうとした瞬間、ロックは敵と目が合い背筋が寒くなるのを感じた。
そして攻撃の手を止め後ろに跳んで距離を取った。