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決戦ミスカト島

 ウェパル達と対峙したロック達は敵から発せられる膨大な魔力を前に背筋が凍るような感覚に襲われていた。


「なんて……プレッシャーだ。十司祭のウェパルはともかく、他の三人からも凄い魔力を感じやがる」


「ウェパル以外の魔人も相当なレベルだよ。それこそ魔人戦争の時でも上級クラスに分類されるぐらいの……。これはまずいよ」


 敵の強さを千年前の戦争と比較し、改めて仲間に注意を促すレオ。

 かつての激戦を経験した彼やアンジェにルシア、クレアにルイスといったアルムス勢は警戒態勢を最大にまで上げ、彼等の契約者たちもアルムス達の反応を感じ取り身構える。


 そんな折、ロックは共に戦おうとしているスヴェン達に謝罪をするのであった。


「……スヴェン、ルイス、シルフィ、クレア……奴等と戦う前に謝らせてくれ。『ダウィッチ島』でアラタを助けに行くと俺が言ってきかなかった時、お前等を仲間じゃないと言ってすまなかった」


「突然何を言い出すんだ? こういうタイミングでそんな事を言う奴は大概その戦いで死亡する。そんなジンクスを知らないのか?」


「別に死亡フラグを立てたつもりはねえよ! ただ、あんなヤバい連中と戦う前に謝れるうちに謝っておこうと思っただけだ」


 ロックが神妙な面持ちで話すあまりにスヴェンが茶々を入れると、ロックは顔を赤くして反論する。


「それならば気にする必要は無い。実際、俺もお前たちを仲間だとは思ってはいない。昨日今日知り合ったばかりの人間に対して、そのような信頼関係を築ける訳でもないしな」


「あら、でもスヴェン。『アストライア王国』の他の勇者たちよりも先生やロック達のほうが断然信頼できるって言ってなかった?」


「……ルイス、おしゃべりが過ぎるぞ!」


「全く、そんな風に斜に構えたスタイルが格好良いと思っている内はまだまだお子様ね」


「誰がミニマムチビ助だ!! 悪かったな、器量が小さい人間で!!」


「誰も小さいなんて言ってないでしょ! お子様って言っただけです。自分が小柄なのを気にしてるんなら偏食しないで何でも食べなさいよ!!」


 敵を前に喧嘩を始める勇者勢。この夫婦漫才風の喧嘩を終わらせたのはルシアであった。


「ルイス、そんなに怒っちゃ駄目よ。スヴェン君は身長が小さいのを気にしているんだから、そこを指摘しちゃ可哀想よ。――スヴェン君も少しずつ好き嫌いなく食べられる様にしましょうね」


「お姉様がそう言うのなら……。スヴェン、今回はお姉様に免じて許してあげるから、気合いを入れて戦いに臨むわよ!」


「……今、お前の姉さん俺の事を小さいってストレートに言わなかった? 悪気はなさそうだが……え、天然なの? これ怒った方がいいの? ……いや、もういいです」


 女神のような笑顔で二人を説得したルシアの天然ストレート発言に若干心を抉られたスヴェンであったが、その有無を言わせない微笑みを前に反論する気は失せ気持ちを切り替えることにした。


 そんな彼等を差し置いて前に出たのはメイド姿の三名――アンジェ、シルフィ、クレアのゴシック勢であった。

 その戦場に場違いなメイド達にディープの魔人たちは戸惑いを覚えていた。


「あなた方がディープの魔人たちですね。それと……久しぶりですね、十司祭ウェパル」


 アンジェが睨みを利かせ一瞥いちべつするとウェパルが嘲笑で返す。

 女性同士が睨み合う中、敵味方の男性陣は今は自分の出番ではないと一歩後ろに下がって様子を見る。


「『ティターンブリッジ』の入り口の町『カボンバ』以来ですわね。お元気そうで何よりですわ。ですが我々の策を止めることは出来なかったご様子。魔人戦争で活躍したあなた方でも島一つをどうこうする事は不可能だったという事ですわね。うふふふふふ……」

 

「その話し方はセレーネと似ていて実に紛らわしいですね。――そう言えば魚類の下半身はどうしたのですか? 陸では邪魔だから脱いでどこかに置いてきたとか?」


「そんな訳ないでしょう! 陸上ではあなた方と同じように二本脚を形成することが可能なのです。あまり適当なこと言っていると怒りますわよ!」


 アンジェの煽りに怒りを露わにするウェパル。女性陣の言い争いを側で聞いていた男性陣は、その苛烈な内容に震える。


「……俺、今日ほどアンジェ達の仲間で良かったと思った日はねえよ」


「そうだね。オイラも本当にそう思うよ。アンジェ姉ちゃんと同じディの工房出身で良かったぁ」


 ひとしきり罵り合うと呼吸を荒げながらウェパルが会話を切り上げる。

 アンジェ達が尚も食らいつこうとすると彼女たちの考えを見透かしたウェパルはクスクス笑い始める。


「ふふふふ……ついヒートアップしてしまいましたが、あなた方の意図は読めていますわよ。――時間稼ぎなのでしょう?」


「――っ!」


「その反応……やはり当たりの様ですわね。差し詰めアスタロトとの戦いで精根尽き果てた異世界人――確かムトウ・アラタさんでしたっけ? 彼の回復のために少しでも時間を稼ぎたいといったところなのでしょうね」


「なるほど、こちらの考えはお見通しという事ですか。ならば――」


 アンジェはこれ以上会話で時間を稼ぐ事は不可能と考え実力行使のため魔力を高め始める。


「あら、以外と短気なのですね。見た目は冷静そうに見えて実際は情熱的……嫌いじゃありませんわ。――フォルネウス」


「――はっ! ウェパル様は後方へ。あの者は私が相手をします」


「何を馬鹿なことを言ってるんですの? あのアルムスの相手はあたくしがします。あなたは邪魔をしないように」


 ウェパルからの意外な命令にフォルネウスは慌てふためく。自分がいる戦場で主君であるウェパルを戦わせようとは微塵にも思っていなかったからである。


「しかし――!」


「フォルネウス、あなたに命じます。あたくしの戦いを邪魔する不埒者共を抹殺しなさい。――特にあのロックという筋肉魔闘士には注意なさい。どうやら彼はアロケルの関係者のようですから」


「アロケル殿の!?」


 フォルネウスは十司祭アロケルの名が出ると眼光を一層光らせロックを睨む。その視線に気が付いたロックもまたフォルネウスを睨み返した。


「どうやらお前が俺の相手らしいな。見たところその体格からしてお前も武闘家なんだろ?」


「如何にも。十司祭ウェパル様の親衛隊が一人フォルネウスだ。短い付き合いになるとは思うがよろしく頼むぞ」


「獅子王武神流の使い手、ロック・オーガンだ。その言葉そのまま返すぜ!!」


 ロックとフォルネウスが一触即発の雰囲気になる中、スヴェンの前にはフォカロルが舞い降り、シルフィとサレオスが対峙する。

 

「……俺の相手は貴様か。悪いが俺は相手が女であろうと手加減をするつもりはない。邪魔をする者は等しく殺す。覚悟するんだな」


「あらあら、これはまた可愛いぼんでやんすなぁ。わっち、あんたみたいな威勢の良い坊は大好物でやんすよ。――それじゃ、たぁっぷり楽しませてもらうでやんす」


「おじいちゃんも戦うの? いくら相手が魔人といっても何かやりにくいなぁ。ボクはあっちのハーピーの方と戦いたいんだけど……やっぱりダメだよね。スヴェンは既にやる気満々みたいだし……」


「ふぉっふぉっふぉっ、これは初手から嫌われたものだ。それがし相手では不服そうだが、ここは余り者どうし仲良くしようではないか」


 そしてアンジェとルシアはウェパルと向かい合い魔力で構成した剣を構える。ウェパルもまた魔力で作り出した水の玉を自身の周りに浮遊させ戦闘態勢を整えていた。


「相手は高レベルの魔人……マスター不在の私たちでどこまで戦えるか分かりませんが最善を尽くしましょう」


「分かったわ、アンジェちゃん。私たちの目的はあくまで時間を稼ぐこと。勝つのではなく負けない事が最優先。頑張りましょう!」


「うふふふふ……先の戦争でアスモダイ様の計画を邪魔したあなた方の実力。それがいかほどか見せてもらいますわ。もっとも、マスターのいないアルムスでは大した事はないでしょうけど……ね」


 それぞれが自分の敵と相対し、『ミスカト島』での決戦が火蓋を切るのであった。

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