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深海より現れし者

 『ミスカト島』の海岸と競技場の中間点、そこでは何人もの魔闘士が傷つき倒れていた。

 横たわる彼等を見下ろし先に進むのはウェパルを始めとする四人の魔人であった。

 彼等は一様にヒューマに近い姿をしているが、身体の一部が普通のそれとは異なっていた。


 陸に上がったウェパルは脚を人魚様から二足歩行のものへと変化させ、水中とは違う歩行感覚を楽しんでいた。

 そんな彼女をたしなめるのはディープ族であり側近のフォルネウスだ。彼はサメを思わせる鋭い歯と眼光を放ち筋骨隆々の肉体を有した武闘家だ。


「ウェパル様、我々の前を歩かないでください。敵の攻撃があった時危険です。私が先頭を歩きます」


「あら、フォルネウス。あなたはあたくしが陸の魔闘士などに後れを取ると思っているのですか? それにあなたよりもあたくしの方が強いのですから、あなたこそあたくしの後ろにいなさい」


 ウェパルに言い負かされてため息を吐くフォルネウス。そんな彼に救いの手を差し伸べたのは高齢のディープであるサレオスだ。

 先代から側近を務めている彼は年長者としてウェパルの手綱を握ることが出来る唯一の人物であった。

 ワニのような肌と凶悪な顔をしているが、魔人の中では珍しく穏やかな性格をしている。


「お嬢、そんなにフォルネウスを困らせては可哀想ですぞ。こやつは万が一でもお嬢が傷つくのを危惧しているだけです。それにここにはアスタロト殿を倒した異世界人とその仲間がいます。注意をするにこした事はありませんからな」


「サレオスはそうやってあたくしを子供扱いする。……分かりましたわ。先頭はフォルネウスに譲ります」


 ファルネウスは安堵するとサレオスに礼を言いパーティの先頭に立つ。

 そんな彼をクスクス笑いながら茶化すのは、顔と体幹は人間の女性、両腕は鳥の翼、両足は鳥の脚部の形状をした魔物ハーピーであった。

 彼女は魔物であったが過去にウェパルに助けられ、それ以降は忠誠を誓って魔人となりフォカロルと名乗っている。


「あの泣く子も黙るディープの武闘派フォルネウスもウェパル様の前ではたじたじでやんすなぁ。これを他のディープ達が見たらどう思うでやんすかねぇ? ふふふふふ……」


「……フォカロル、あまり私をからかうと……!」


「はいはい、フォルネウスは冗談が通じないから面白くないでやんす。――そういえば、イポスの姿が見えないでやんすが何処に行ったか知ってるでやんすか?」


「いや、私は知らないが……。陸に上がる前までは一緒にいたはずだ」


 フォカロルとフォルネウスが仲間の魔人イポスを探していると、最年長のサレオスがその行き先を知っていた。


「イポスには緊急任務に当たってもらうことにした。その為、それがし達とは別行動を取っている」


「それは初耳でやんす。ちなみにそれはどんな任務でやんすか?」


「アスタロト殿を倒した異世界人がこの島の競技場に担ぎ込まれたと報告があってな。そちらに行ってもらったのだ」


「なっ……! 戦いを終え傷ついた者に追い打ちを掛けるというのですか!?」


 サレオスが話した任務の内容にフォルネウスが噛みつく。

 武闘家である彼は正々堂々をモットーとしており、一対一でアスタロトを討ったアラタに少なからず畏敬の念を抱いていた。

 そのため激戦で消耗したアラタを襲うという作戦に納得がいかなかったのである。


「お前ならそう言うと思ったからこの件を黙っていたのだ」


「確かに融通の利かないフォルネウスならこの作戦を知った瞬間に大反対したでやんすねぇ」


「あの異世界人は愚劣なアスタロトを正々堂々と倒した男だ。万全の状態まで回復した時に戦いを挑もうと考えていた。それを――!」


 アラタを奇襲する作戦に断固反対するフォルネウスに対しサレオスはため息を吐いて諭すように語り掛けた。


「――よく聞けフォルネウス。お前は一人の武人である前にウェパル様を支える守護者なのだ。ウェパル様の血を飲み魔人へと進化した時にそう誓ったはず。ならば清濁併せ呑む度量を持て」


「――!!」


「それにあの異世界人は危険すぎる。ガーゴイル殿、ガミジン殿、その上今回はアスタロト殿を打ち負かしている。その潜在能力と成長スピードがとにかく異常なのだ。あの者は既に単独で十司祭と互角に戦える力を得ている。これ以上成長されればどこまで伸びるのか見当がつかん。それ故まともに戦えないこの機を逃すわけにはいかないのだ」


「それでイポスに奇襲に行かせたと……。なぜ奴に……? まだイポスは魔人となって日が浅く魔神化もできません。あの異世界人の周りには腕の立つ仲間がいます。それらを相手取るのは難しいのでは?」


「まあそう言うな。あやつにも手柄を上げさせてやれ。それに異世界人の仲間ついては問題ない。連中は用意した餌に必ず食いつき彼奴きゃつの近くを離れる。イポスにはそこを襲撃するように伝えてある」


「……餌……?」


 フォルネウスが怪訝な顔をしていると彼等の前に立ちはだかっていた魔闘士たちが一斉に退き始めた。

 その様子を見たサレオスがニヤリと不敵な笑みを見せる。


「どうやら予想通り食いついた様だな」


 魔闘士とすれ違うようにしてフォルネウス達の前に現れたのは、例の異世界人の仲間たちであった。

 それでフォルネウスはサレオスが話していた〝餌〟の正体に気が付いた。


「……まさか我々だけでなくウェパル様までも敵の標的にするとは……」


「フォルネウス、この件は事前にサレオスから相談され、あたくしが許可を出しました。問題はないでしょう?」


「……はぁ……、分かりました! この作戦についてはこれ以上口を挟みません。私の役目はウェパル様にたてつく愚か共を抹殺すること……。露払いはお任せください!」


 フォルネウスは深くため息を吐くと気を取り直して敵に向かって歩いて行く。

 ウェパル、サレオス、フォカロルの三人は何処までも真っ直ぐな彼の姿を見て笑みをこぼすのであった。

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