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心を動かすとき

 彼等は俺たちを先導し魔物を倒しながら競技場へと到着した。

 出入り口のほとんどは固く閉ざされ、まるで要塞みたいになっている。唯一開かれた出入り口には何人もの魔闘士がいて魔物の侵入を防いでいた。

 俺たちは先導してくれた彼等と一緒に中に通された。何はともあれ安全な場所に到着した事で皆ほっとして戦闘状態を解く。


 スヴェンはグラビティを解き、アスタロトにやられた選手たちは競技場内に待機していた魔闘士たちに運ばれていった。


「彼等は選手控え室に運んで休ませる。連戦続きで君たちも疲れただろう。ここにはポーションも置いてあるからそれで回復してくれ。それと――よいしょ!」


 先導してくれた魔闘士のリーダー格の人が俺を背負ってくれた。誰かにおんぶしてもらうのなんて子供の時以来だったのでちょっと恥ずかしい。


「あ、ありがとうございます。でも一人で歩けますから……」


「無理をするな、君は魔力を使い切った状態だろう。立っているのも辛いはずだ。それと礼を言わせてくれ。君があの魔人を倒してくれなければ我々は今頃どうなっていたか。それに君たちのお陰で本戦に出場していた彼等は死なずにすんだ。――ありがとう」


 「ありがとう」という一言が胸に染み渡る。誰かにお礼を言われるのがこんなに嬉しく温かく感じるものだったなんて知らなかった。

 俺を背負ってくれた冒険者はギーグと名乗り、俺たちをVIPルームに連れて行ってくれた。

 そこは現在作戦会議室として使われていて、最新の情報が集められているらしい。今後の事を話し合うために俺たちにも話し合いに参加して欲しいという事だった。


 VIPルームに向かう途中、競技場内は避難してきた人々が沢山いた。すれ違う度に彼等が目を見開くようにして俺たちを見ていたのが気になる。

 競技場には避難民の他にも彼等を守護する魔闘士たちが何人もいた。彼等は俺たちが通ると敬礼をして見送ってくれた。


「何だかすれ違う人たちの態度が普通じゃない気がするんだけど……」


「私もそう思っていたわ。どうして敬礼されたりするのかしら?」


 俺とトリーシャが不思議がっているとギーグさんが笑いながら答えを教えてくれた。


「皆、競技場のスクリーンで君たちの戦いを観ていたんだよ。使い魔がやられて全てを観れたじゃないが、それでも君たちが信用に値する人間だということは十分に伝わった。――実際の所、我々は最初逃げようと思っていたんだ。しかし、君たちの戦いを観ていて……何て言えばいいかな……冒険者を目指した頃の初心を思い出したんだよ」


「初心……ですか?」


「うん……。冒険者を目指す者の多くは身分も低ければ学もない荒くれ者ばかりだ。そんな自分たちでも誰かの役に立てるんじゃないかと冒険者になったばかりの頃はそんな事を考えていたもんさ。しかし、実際は日々生きていくために金を稼いだり名声を得ることばかりに目が行ってしまって、そんな理想はいつしか忘れてしまった。――君たちの戦いは、あの頃の俺たちの理想を思い出させてくれたんだよ。だから君たちのように俺たちも踏ん張ってみようと思ったのさ」


 不思議な感じだった。俺たちの戦いがこうして他の人の心に影響を及ぼすとは思っていなかったから。

 そんな俺の戸惑いを察したのかクレアは過去の経験を踏まえて話してくれた。


『アラタよ、人と人の繋がりとはそういうものなんじゃよ。言葉だけではなく行動を示すことで人の心を動かす時がある。かつて魔人戦争の時も異世界人が同じことをやっておった。賢明に戦う彼等の背中を見て大勢の者が自らを奮い立たせ戦ったのじゃ』


「……そっか……ありがとう、クレア」


 話をしている内にVIPルームに到着した。

 他の観覧席とは違ってパーソナルスペースが設けられた部屋になっていて革製のソファがいくつも設置されている。

 ソファの前にはテーブルが置いてあり、競技が行われている時は豪華な食べ物や飲み物が用意されるのだろうと思ってしまった。


 今この部屋には特別に招待されたゲストではなく強面の男たちが数人いる。鋭い目つきで俺たちを見るので驚いてギーグさんの背中から落ちそうになる。


「良かった。無事に彼等を連れて来れたんだな」


 強面の男たちはほっとした表情になり、俺たちを迎えてくれた。

 彼等も冒険者でレム-ル祭予選に出たり、観光で来ていたらしい。ギーグさんと同様に競技場に避難した人たちを守ってくれている。

 競技場の守備に就いている冒険者のまとめ役をしているのは、解説をしていたケン・イーサキさんだ。

 『アーガム諸島』の有名人冒険者である彼のカリスマ性は相当で、ギーグさんを始めとした冒険者と協力してここの守りを固めていた。


 用意されていたポーションを飲んだ後、彼等と一緒に現在の状況を整理する。

 『ミスカト島』は魔物とディープによって窮地に立たされており、冒険者ギルドを中心として対処している状況だ。


 ここの競技場は建物が頑丈ということもあって何かあった時は避難所として利用される手筈になっていたらしく、今は多くの人々が避難している。

 競技場は魔物の攻撃に耐えてくれているが、いつまでもここにいる訳にはいかない。食糧などの備蓄はあるのだが、避難民の人数で考えたところ三日で食糧はなくなってしまう。


 そしてこれが一番重要なのだが、まだウェパルを始めとした魔人級の敵が姿を現していない。

 アスタロトと戦っていた時、俺は『ダウィッチ島』を動かす巨大な影が海中にいたのを目撃している。

 それを皆に説明すると、全員が顔を青くして黙ってしまった。

 現状でも手一杯の状況でそんな規格外の敵が出現したら、対処しようがないからだ。


 重い雰囲気の中、まとめ役をしているイーサキさんが現在考えている作戦を説明してくれた。


「『ミスカト島』で暴れている魔物とディープは冒険者ギルドとここにいる冒険者で対処します。しかし、魔人級が出てきたら金等級の冒険者でなければ相手にならない。――そこで、本戦で活躍してくれたあなた方には魔人と戦ってもらいたい。これがあなた方にとって酷なことなのは重々承知しています。しかし、現状これしか手はない。あの過酷なダンジョンを戦い抜いたあなた方に頼るほかないんです」


 イーサキさん達は俯き、部屋内には沈黙が流れる。するとエルフ姿に戻ったクレアが前に出て、彼等と交渉を始めた。

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