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解かれし力

 アスタロト達の気配が遠のいた。あの程度の攻撃でやられるような奴じゃない。ここに戻ってくる前に態勢を立て直さないといけない。

 

「トリーシャ、大丈夫か?」


 ナイフを鞘にしまい、トリ-シャを抱き起こす。その刺激だけで激痛が走るのか彼女は歯を食いしばり痛みをこらえていた。


「私は大丈夫よ。それよりもあなたこそ平気なの? あのアルムスの毒は強力よ。さっきのポーションじゃ効果は薄いはず」


「大丈夫、問題ない。詳しい説明は戦いが終わってからする。今は態勢を立て直すのが先決だ。――ちょっと待ってて」


 意識を集中しトリーシャの魔力の流れを見ると彼女の体内に流れる毒々しい魔力を捉えた。こいつだ。これがヴェノムの毒に間違いない。

 

「痛かったらごめん」


「――え?」


 トリ-シャの身体に俺の魔力を流し込み、その中にいる毒の魔力を破壊するイメージを送り込み消し去った。


「……どうだ?」


「うそ……毒が消えた。さっきまで苦しかったのが……凄いわ。アラタ、これって……それにその眼……」


「俺の目がどうかしたの?」


「あなたのその眼……魔力を帯びた赤い瞳になってる。それは魔眼と言って魔力の流れを見ることが出来る特殊な眼なのよ。それが発現するなんて一体何がどうなってるの?」


 俺自身も自らに起きている事をすぐには説明できない。色々と状況を整理しないといけなさそうだ。

 でもその前にやらなければならないことがある。


「全てはこの状況を乗り切ってからにしよう。――ほら、これ飲んで」


「ありがとう」


 ポシェットからポーションを二本取り出して蓋を取ると一本をトリーシャに飲ませ、もう一本を自分で飲む。

 ポーションの治癒効果でトリーシャの左腕の傷が治った。

 俺も全快とはいかないまでも右手や太腿の傷はほとんど治り、戦いには支障ないレベルだ。


「トリーシャ、いけそうか?」


「私は大丈夫。アラタこそダメージが結構残ってるでしょ」


 トリーシャの胸元にエメラルドグリーンの紋章が出現すると、そこに触れながら会話を続ける。


「これくらい大した事ないよ。それじゃいくよ――マテリアライズ!」


「んくっ。なにこの魔力……今までと違う……凄い……」


 トリーシャは風の魔力に包まれ一振りの刀――神刀神薙ぎへと姿を変えた。鞘から刀身を抜くと優しくも力強い風が発生し俺の頬を優しく撫でる。


『あなたの魔力の質が変化してるわ。それに魔力の総量も上がってる。これなら十司祭クラスの魔人とも互角に戦えるかもしれないわ』


「それは心強い意見だね。――さて、そろそろ来るみたいだ。反撃開始といこうか!」


 言うと同時に後方に飛び退くと、ついさっきまで俺がいた場所が一瞬で吹き飛んだ。

 そこから姿を現したのは魔力を全身にみなぎらせたアスタロトだ。ヴェノムにも魔力が伝達され毒気を伴ったオーラが周囲に放たれている。

 その影響でこの辺りの木々が急速に枯れ始めた。


「良い反応じゃないか。それにその魔力と殺気……さっきまでとはまるで別人の様だ。本当に面白い奴だぜ」


『よくもさっきはやってくれたね。どうやってあーしの毒を中和したか知らないけど二度目はないよ。今、瘴気の濃度を最大にした。これでもうあんたらはおしまいだよ!』


「そうか、いよいよ本気って訳だな。でも、もうお前等の毒は俺には効かない。――はああああああああ!!」


 魔力を周囲に放出し一帯に散布されていた瘴気を一気に消滅させた。これで俺たちもこの辺りの密林も瘴気にやられる心配はなくなった。

 

『……な、何で……どうなってんの!? あーしの瘴気が一瞬でかき消されるなんて。状態異常解除の高等魔術……いや、それとは違う。浄化されたんじゃなくて壊された様な感じ。あいつ一体なんなの? 普通じゃないよ!!』


「異世界人ってのは予想以上におもしれえって事だ。そうだよなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 アスタロトは目を血走らせながら向かってくる。対する俺もその場を飛び出し刃を交わす。

 神薙ぎの風のオーラとヴェノムの毒のオーラが衝突し火花と共に甲高い金属音が鳴り響く。


「アスタロト、さっきはよくもやってくれたな。やられた分は倍返しにしてやり返す!!」


「やれるもんならやってみろ、異世界人ッ!!」


『あーしの毒でその自慢の身体を腐らせてあげるよ! キャハハハハハハハハハハ!!』


『笑っていられるのも今のうちよ。毒が効かなければ、あなたなんて驚異じゃないわ!』


 それからはお互いに魔力を高めて高速戦闘に突入した。

 

 空中を縦横無尽に飛び回り魔術で遠距離攻撃をしながら近づいて行く。接近戦に入ると互いの得物で何度も斬り合い再び距離を取る。

 この流れを繰り返していくうちに、段々と敵の動きが把握できる様になってきた。


「いける……奴の動きがはっきり見える。トリーシャ、そろそろ仕掛けるよ」


『了解、一気に勝負を決めましょう』


 魔力を練り上げ増幅し体内を循環させることによって身体能力とローブの性能を引き上げていく。


「いくぞ、アスタロトッ! 魔力最大解放――白零・闘衣とういッ!!」


 体内を流れる魔力を爆発的に高め全ての能力を一気に上昇させる。

 身体の表面から白いオーラが炎の様に放たれ、それを合図にしてアスタロトに全速力で向かっていく。


「動きが速くなっただと……!?」


「はああああああああああ!!」


 一瞬で間合いに入り袈裟懸けを放つとアスタロトは防御が間に合わず直撃する。神薙ぎの一太刀が入った感触はあったが、大したダメージにはなっていない。

 だがこれで終わりじゃない。ここから一気にたたみ掛ける。


「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 距離を取ろうと離れたアスタロトの背後に先回りし斬る。それを皮切りにして連続斬りを敵の全身に浴びせていった。

 白零・闘衣によって全能力にバフが掛かった状態の今なら、魔人と言えど只じゃ済まないはず。

 

「この……クソがぁぁぁ! これを食らえやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 アスタロトは全方位に向けて無数の毒針を放ち始める。毒の弾幕には避けられる隙間はない。しかし、こんな攻撃は今の俺には無意味だ。

 気合いと一緒に魔力を周囲に解放し接近していた毒針を全て消滅させると、敵の上方に移動し急降下を開始する。


『トキシックニードルを全部消滅させた!? こいつ、本当に何なの!?』


「そこだ! 風の闘技、参ノ型――月閃げっせん!!」


 落下速度を利用し三日月の軌跡を描く風の斬撃をアスタロトの背中に浴びせると、奴は黒い血しぶきを上げ、いくつもの枝に衝突しながら勢いよく地面に落下した。

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