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Destruction Awakening First Phase

「んう……」


「う……こく……こくん……」


 口内に入ってきたポーションを何とか飲み込む。毒で全身が熱く乾ききっている現状で液体が身体に染み渡っていくのが分かる。

 あまりにも美味しくて涙が出そうになる。


 俺がポーションを飲んだのを確認するとトリーシャは微笑み俺の髪を優しく撫でる。

 それから俺をゆっくり横にするとアスタロトの方に向き合い風の槍――インビジブルスピアを装備する。


「よくもうちのマスターを酷い目に遭わせてくれたわね。今度は私が相手をするわ!」


『……あんた正気? ここ一帯はあーしが散布した瘴気で満たされてんのよ。もうあんたの体内には毒が侵入してる。このままだといくらアルムスでも……死んじゃうよ?』


「ご忠告ありがとう。でもね、そんなのどうだっていいのよ。アラタを傷つけた奴が目の前にいる。許せる訳ないでしょ!!」


 トリーシャは魔力を解放し風を纏ってアスタロトに向かっていく。

 インビジブルスピアによる連続刺突攻撃を繰り出すが、アスタロトはその全てを紙一重で躱している。


 駄目だ。見切られている。実力差がありすぎる。いくらトリーシャでも相手は十司祭……荷が重すぎる。

 アルムスは本来武器化して契約者と一緒に戦うことで実力を発揮する。単独じゃ自分の力を出し切れない。

 

 このままじゃ……。


「あぐっ……!」


 攻撃の合間にカウンターを仕掛けられトリーシャはヴェノムで左腕を斬られた。バックステップで距離を取った彼女の腕から血液がしたたり落ちるのが見える。


『キャハハハハハハハハッ! あんたもう終わったよ。斬った瞬間にあんたの体内にた~っぷり毒を流し込んでやった。既にしびれが出てきてるはずだよ』


「まだよ……まだ終わってない! 風の闘技、ストラグルエア!!」


 インビジブルスピアに風の魔力を集中した乾坤けんこん一擲いってきの刺突攻撃が繰り出され、アスタロトは回避が間に合わず直撃した。


「入った! ……え……?」


 トリーシャは確かな手応えに勝利を確信した……はずだったが、アスタロトは何事も無かったかの様に平然と立っている。

 インビジブルスピアによる一撃はヴェノムの刀身で防がれ、風の魔力は霧散してしまった。

 

 全力の攻撃を簡単に防がれたトリーシャは一旦距離を取ろうしたが、そこに無数の毒針を撃ち込まれ動けなくなってしまう。


「あう……ああ……!」


『一気に毒が回って行く気分はどう? 身体が痛いんだか熱いんだか分からないぐらい苦しいでしょ? キャハハハハハハハハハ!!』


 このままじゃトリーシャがやられる。

 いつまでこんなとこで横になってんだ俺は……。早くトリーシャを助けに行かないと。

 俺の身体よ……動け……動け……動け……動け……。


『あんたがさっきあいつに飲ませたの毒消しポーションでしょ? 残念だけどあんなのじゃ、あーしの毒は中和できないよ。あいつが回復する為の時間稼ぎをしてたみたいだけど無駄だったね。残念でしたぁ』


「こうしてアルムスが自分から戻ってきたんだ。最初の予定通りこいつを異世界人の目の前で殺るとするか。そうすりゃ、さすがのあいつも正気じゃいられないだろうよ。クカカカカカカカカカカカッ!!」


 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け……動けぇぇぇぇぇぇぇ!! 

 

 やっとの思いで指先が動くと身体中に激痛が走る。それでも俺は少しずつ身体を動かし続ける。

 腕が、肩が、足が、胸が、腹が……それぞれの部位を動かす度に身体がバラバラになるような感覚に陥る。

 痛覚が限界を超え全身から脂汗が吹き出す。


 ――壊れてもいい。終わってもいい。

 ――それで仲間を……トリーシャを助けられるなら構わない。

 ――力が欲しい。この状況を覆す力が……心の底から欲しい。


 パキ……パキン……ピキピキ……バキ……。


 どこからか何かが軋むような音が聞こえた。その音は俺の心に呼応するようにどんどん大きくなっていく。


 バキ……バキン……バキバキ……バキィン……!


 軋む音は次第に亀裂が入り割れていくような音に変わっていく。俺の頭の中でがんじがらめになっている鎖が引きちぎれていくイメージが流れる。

 その鎖の中心にあるのは白い光の玉だ。鎖はその光球を抑え込むように幾重にも厳重に巻かれている。


 俺の渇望が強くなればなるほど光球は輝きを増し、それを封印している鎖に亀裂が走り砕けていく。

 

 バキィーン……バキバキ……ビキ……ビキ……ガキン……!!


 鎖が壊れ飛び散っていくイメージの中で俺は光球に手を伸ばした。

 俺は知っている。この光を……この力を……そうだ……この力の名は……。


「ディスト……ラクション……」


 呟くと同時に身体の奥底から魔力が溢れ白いオーラがほとばしる。

 その状況下で俺は痛みと戦いながら何とか立ち上がり、トリーシャを足蹴にしているアスタロトと目が合った。


「なん……だと……!?」


『……は……? あいつ、何で立ってんの? 全身に毒が回る寸前なんだよ? 指一本動かすだけで全身の骨が砕けるような痛みがあるはずなのに……。それにあの魔力……。ねぇ、アスタロトあいつヤバいよ! まともじゃない!!』


 俺が立っているのを見て毒剣ヴェノムが狼狽している。その間アスタロトと俺は睨み合ったままその場を動かないでいた。

 奴の足元では毒とダメージによって動けなくなったトリーシャが虚ろな目で俺を見ている。


「アラ……タ……?」


 彼女の声を聞いて俺は歩き出す。一歩前に出るたびに全身の筋肉が裂け、骨が砕けるような感覚と痛みが俺を襲う。それでも一歩、また一歩と進んでいく。


『ちょ……嘘でしょ? 何で動けんのよ!? あいつ痛みが限界超えておかしくなったんじゃないの!?』


「……いや、違う。あの目は正気を失った人間の目じゃない。明確な目的を持った、強い意志を持った奴の目だ。ラアル、あいつは痛みに耐えて動いてやがるんだよ。クカカカカカカ! おもしれえ……おもしれえじゃねーか! こんな奴は今まで見たことがないぜっ!!」


 アスタロトは狂ったように歓喜している。一方でヴェノムは俺を危険と判断しているみたいだ。

 でも、今はそんな事はどうでもいい。

 身体がこうして動く以上、筋肉や骨が壊れる感覚はまやかしだ。頭ではそう分かっていても、これでは煩わしくて仕方が無い。


「……この……毒も……痛みも……全部邪魔だ……引っ込んでろっっっ!!!」


 感情が爆発すると同時に魔力が体内を駆け巡る。すると不思議なことが起こった。

 俺の身体を蝕んでいた毒の感覚や全身の痛みが全て消えていた。


「身体が……思い通りに動く!? ――ならっ!!」


 その場を飛び出しアスタロト目がけて突撃する。その狙いは一つ。左手を腰に回し、そこからアダマント製のナイフを取り出して逆手に持つ。

 

「――ちっ!」


 俺の接近に反応したアスタロトが横たわるトリーシャに手を伸ばそうとする。このままじゃ盾にされる。

 その前に魔力を高めて一気に加速しアスタロトに肉薄した。


「なんっ!?」


『はやっ!』


「薄汚い手で……俺の女に触れるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 アスタロトはヴェノムで斬りつけてくるが、それをアダマント製ナイフで受け弾き返す。

 

『あーしの攻撃を受けきった!?』


「――ぶっ飛べ!!」


 次の瞬間、俺はアスタロトの顔面に全力の右パンチを叩き込んでいた。

 腰の回転と体重と魔力と殺意を十分に乗せた一撃により敵は顔面から血しぶきを上げながら密林の中に勢いよく吹っ飛んでいった。

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