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狙われたアラタ①

『また来たわよ!』


「ったく、次から次へと……鬱陶しいんだよ!」


 予選でも戦ったアーガムトレントとローバークラブが群れになって襲いかかってくる。

 ダンジョンの中に入ってからこんな展開がずっと続いている。

アーガムトレントあたりは島の密林に擬態して不意打ちをしてくると思っていたが、  

 当初の予想を裏切り正面から現れてガチンコ勝負を仕掛けてくる有様だ。

 でっかいヤシガニの見た目をしているローバークラブも予選で戦った個体よりも血の気が多いみたいでどんどん前に出て来る。


「一気に斬り刻む! 風の闘技、壱ノ型――疾風はやて!!」


 神薙ぎに魔力を込めて風の斬撃波を放つ。攻撃範囲に入っていた魔物は身体を真っ二つに裂かれて絶命し、それを何度か繰り返すと魔物の集団は全滅した。


『これでこの辺りにいた魔物は全て倒したみたいね』


「多分な。この『ダウィッチ島』は難易度金等級に指定されているだけあって大気中のマナが濃い。お陰で周囲の魔力が感知しにくいからな。相手が気配を消していたらいざという時に反応が遅れる。とにかく慎重に進もう」


『そうね。こういう時に焦って安全対策を怠るとろくな事にならないものね』


 トリーシャも経験上進軍速度を落としてでも安全を優先した方が良いと言ってくれた。

 とりあえず単独行動中はこのスタンスで行く。ロック達と合流したらスピードを上げて進んでいけば良いだろう。


 顔を上げると前方に桁違いに巨大な木が見える。あそこにあるゴールを目指して再び移動を開始した。

 『ダウィッチ島』全体が幾つもの木の集合体みたいなものなので地面は木の根が密集した状態になっている。

 あちこちに海水が入り込んでいる為、うっかり落ちたら例のボールデストロイとか言う玉かじり魚にとんでもない目に遭わされてしまう。

 巨大に成長した木々の枝を足場にして慎重にジャンプを繰り返して移動していく。


「ダンジョンに入ってどれぐらい経過したかな? 体感的には三十分くらい?」


『私の感覚でもそれと大体同じよ。島の中心にかなり近づいたし、そろそろ他の選手と遭遇してもおかしくなさそうだけど……前方に魔力反応! 誰かいるわ、注意して!』


 トリーシャの索敵に誰か引っかかったみたいだ。俺も意識を集中して探ると大気中のマナに混じって強い魔力を感じる。

 目を凝らして見てみると身の覚えのある姿をしている。


「あれは……スヴェンか!」


 巨大な枝の上にいたのはスヴェンだった。俺が到着するとこっちの方にやって来る。


「……貴様か。ここまで無事に辿り着いたようだな」


「そういうお前こそほとんど無傷じゃないか」


『あの程度の魔物じゃあたしとスヴェンの相手にはならないわ』


 ルイスが得意そうに言う。本当に余裕でここまで来れたらしい。


「……ロックとシルフィは大丈夫かな?」


「そう簡単にやられるような連中ではあるまい。そういえば他の選手とは遭遇したか?」


「いや、お前が初の遭遇者だよ。それが味方で良かった。この状況で他の選手と会うと戦いになる可能性が高いからなぁ」


『そうね。トリーシャ先輩はともかくお人好しのアラタじゃ油断したところをやられる可能性があるものね。あたし達と最初に合流できて良かったわね』


『……ルイス、分かってるじゃない。それじゃあそろそろ行きましょう。こうしてる間にも他の選手がゴール目指して移動している訳だし……ね』


 こうして俺が前衛、スヴェンが後衛となって移動を再開する。不思議と魔物と遭遇する事無くすいすい進むことが出来た。

 するとトリーシャがルイスに話しかけた。


『そうそう、今朝アンジェ達と話をしたんだけど、この本戦が終わったら皆で打ち上げをしない?』


『打ち上げ……ですか?』


『ええ、そうよ。皆が集まるのなんて本当に久しぶりだし、昨日はちょっとしたお茶会で終わっちゃったでしょ。だから皆で食事をしたいなって思ったんだけど』


『いいですね。是非やりましょう』


『その時には昨日アラタが買ってくれたドレスを着てくるわ。あなたも気に入ってくれてたわよね?』


『……はい、あれですよね。とても素敵でした。今から楽しみですぅ』


「そろそろ無駄話は慎め。いつ敵が襲ってきてもおかしくない状況なんだぞ」


 スヴェンがぴしゃりと言って雑談は終了した。沈黙が流れる中、予想していた瞬間がついに訪れた。

 枝から枝へジャンプ移動している時に背後で魔力の増幅と共に殺意が込められた一撃が俺に向けられた。

 空を蹴り方向転換して攻撃を躱すと、ブリューナクで刺突攻撃を繰り出すスヴェンとすれ違う。

 その瞬間にヤツの顔面に蹴りを入れてぶっ飛ばすと勢いよく大木に衝突しうなだれるのが見えた。


 そのすぐ側の枝に着地し近づいていくと、スヴェンだった姿が歪んでいき忍者みたいな姿をした小柄な男の姿へと変貌した。

 聖槍ブリューナクもまた小刀へと姿を変えていく。


「ば……かな……。タイミングは完璧……だった。完全な死角からの攻撃に……どうして気づけた?」


 忍者男が困惑した様子で訊いてくる。蹴り一発だけで結構ダメージがあったらしい。あんまり強くはないようだ。


「そりゃ、お前たちがスヴェンとルイスの偽者だって気がついていたからだよ。ここまで手の込んだ変装をしてくるのなら油断したところを襲ってくるに違いないだろ」


「なん……だと? 一体いつから……?」


『割と最初からよ。あのツンツンした勇者にしては少しフレンドリーすぎる感じだったし、ルイスに至ってはアラタの事を普通に名前で呼んでいたしね』


『だって昨日はそう呼んでいたはず……』


 忍者男とそのアルムスが困惑している。残念だけどその情報は少し古かった。


「ルイスは俺のことを先生って呼んでるからね。それと決定的だったのがトリーシャの質問だな。昨日俺が購入したのはドレスじゃない」


『そ、そんな……それじゃ何を……』


『ああ、それ? ビキニアーマーよ』


 トリーシャがなんのけなしに答える。別にそこまで教える必要はないと思うのだが言ってしまった以上仕方がないか。


「ビキニ……アーマーだと……?」


『あんなのを実際に購入する人間なんて初めて見たわ……買う方も着る方も……変態だわ』


「……」


『……』


 今しがたぶっ飛ばした相手に冷静に言われて俺もトリーシャも黙ってしまう。確かにちょっとはっちゃけすぎたかもしれない。……でも後悔はしていない。

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